高城染工場(たかしろせんこう) 第1回 デニムの街に息づく、藍染めの美しさ | SOUQ ZINE スークジン

高城染工場(たかしろせんこう) 第1回 デニムの街に息づく、藍染めの美しさ

高城染工場(たかしろせんこう) 第1回 デニムの街に息づく、藍染めの美しさ
クリエイターたちのものづくりを支える工場や工房を訪ねる「ファクトリー・ファイル」。第1回目は、ジーンズの街としておなじみの岡山県・児島で、古くから藍染めを続けている高城染工場を紹介します。

庶民の生活と共にあった、ニッポンの藍色。

構内のエレベーターや自動販売機までデニム地があしらわれ、さすがはジーンズの街の玄関口といった風情のJR児島駅からクルマで約15分、目指す高城染工場は、小さな流れの川のほとりにありました。出迎えてくれたのは、代表の角南浩彦さん、奥様の真由子さんと二人三脚で染工場を切り盛りされています。かなり歴史がありそうな高城染工場の建物を見ると、屋根にブルーシートが。訪れたのは7月14日。北大阪で地震が起こり、その後倉敷・真備で水害があるなど、岡山周辺でも災害が続いた時期なので、その影響?
高城染工場
「この建物は、105年前の創業以来使い続けています。屋根はナマコ瓦なんですが、先日運送会社のトラックが倒れかかって破損してしまいました」と角南さん。貴重な屋根瓦の早い復旧を願うばかりですが、玄関口には、ややかすれ気味の墨字で「高城染工場」の看板が。聞くと、こちらも創業以来掲げ続けているそう。
高城染工場
工場の四代目となる浩彦さんですが、家業を継ぐ前は、デザイン会社でレディース・ファッションの広告をつくっていたり、思い立ってニューヨークで3年生活を続けたり。本人いわく「流れ流れて」故郷の児島に帰ってきました。
高城染工場
「今では、この界隈で藍染めを専門にやっている工場はもうないんじゃないですかね。昔は、備後絣とかを藍染めする文化があったのですが、そういう仕事はなくなってきました。でも同じ染料でジーンズの生地を染めることができたので、すんなりデニムづくりに移行できたんだと思います」。藍は、日本を代表する伝統色。先ごろワールドカップで活躍したサッカー日本代表のユニフォームの色も、藍色がベースとなっています。
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「藍は、昔は、茜や紫など高貴な人が着る色と違って、ゆかたや野良着とか、庶民が着る色。染める材料も安く手に入るし、いくらでも染められる。小泉八雲が日本に来たときに、『日本人は青しか着ていない』と言ったほど。ジャパン・ブルーって言われたりもしていますね。江戸時代には、郵便局のように街にひとつ紺屋があって、汗染みとか色落の染め直しをしていて成り立っていた。今でも紺屋通りとか紺屋町という地名が残っているでしょ」と角南さん。
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どれだけ藍色が古くから日本の生活に浸透していたかがわかるエピソードですね。そんなニッポンの美しい色、藍色はどうやって染められていくのか? 工場で実際の過程を見学させてもらいました。
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DYEとDIE。枯れて色が染まる不思議。

藍染めでなによりも大事なのは水。高城染工場では、高梁川や小田川など工場からは少し距離のある大きな川から水を引いています。「40~50年前は、このあたりも染工場が多かったので、共同でポンプをつくって、ここまで引くようにしたんですよ」。高梁川から引かれた水に、麻の生地が角南さんの手によってつけられます。「普通の化学染料だと、生地の前処理に手間をかけなければならない場合が多いのですが、藍染めの場合は、こうやって水につけるだけ。水に泳がせて生地をリラックスさせます」。
高城染工場
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草木染めの一種、藍染めはタデ科の植物である藍を使います。角南さんいわく、昔の人はタデ科の葉を総称して藍と呼んでいたとか。「藍の葉っぱをギュッと押さえたら、その上澄みが出るのでそれをすくってバケツに入れる。それが減っては足し、減っては足しを繰り返して染料にします」。
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藍の葉っぱの上澄みの色は、青というよりは鮮やかなグリーン。「藍の葉っぱ以外には、何も入れてないんですか?」という質問に、角南さんは、「昔の人は日本酒をドバッと入れてたみたいですけど、ボクは飲んじゃうんで(笑)、コーンスターチを入れてます。いい栄養剤になるんで。他にはブドウ糖や砂糖を入れるところもあるみたいですね」。生地を染料につけて引き上げると、液の色のようにまずはグリーンに染まります。それが時間が経つにつれ、みるみる青に変わっていきます。
高城染工場
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「これは、藍の葉っぱが生きてるところから枯れていくときと同じ色変化をしているんですよ。葉っぱの多くは、枯れると茶色くなりますよね? でもタデ科の植物は、枯れると紺色に近くなるんですよ。だから、布の色も染料につかった瞬間は緑なんですが、空気にふれると、根っこがチョキンと切れたみたいに葉っぱが枯れた色、つまり紺色に変わっていくんです」。不思議なことに、植物の葉だけでなく、染料も枯れることで色が変わるというわけです。「染色のことを英語でDYEというんですけど、死ぬことはDIE。偶然なのかどうかサウンドが同じですね。死んで枯れることで色が変わっていくのです」。緑から青く変色した麻を、きれいな水で洗い始める角南さん。藍染めというと、青い染料でジャボジャボ染めるというイメージがあったのですが、それだけではなさそうですね。「京都の西陣織など、川でバシャバシャ洗いますよね? あれは水の中に結構酸素が豊富に含まれているので、洗うというよりは酸素に当てるという意味合い。だからこの藍染めも布を広げた状態で、満遍なく水に泳がせて酸化させるんです。アクも抜けていくので、だんだんきれいになってきます。葉っぱなんで、茶色系や赤系、黄色系など、いろんな色が混じってるんで、洗えば洗うほど青が映えてきます」。
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染めの神秘性を実感したあと、角南さんは絞り染めの技法で、柄を生み出す工程を見せてくれました。まずは布を三角に折りたたみ、次にゴムで3カ所をギュッと絞る。絞り染めもいろんなパターンがあるそうですが、今回は藍のグラデーションと白い部分を描き出す技法です。
高城染工場
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ギュッと絞った麻は、染料につけて水で洗ってという作業を繰り返します。「子どもが遊んでるみたいでしょ?(笑)。でもこれでだんだんグラデーションをつけていくんですね。温度とか湿度によってにじみ具合が変わってくるのもおもしろいところかもしれませんね」。
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角南さんが、水で洗いながら、絞った布の中側を見せてくれます。青く染まった生地の中に、見事に白く残った部分があります。さらに、この部分を染料で染めて薄いサックスブルーにするのが、「藍返し」という技法。これが終わってもう一度ていねいに水で洗えば、絞り染めの見ごとな柄が完成です。
高城染工場
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染め上がった布は、3日間干しておけばもうスカーフやテーブルセンターとして使えます。「『明後日紺屋に今晩鍛冶屋』という言葉をご存知ですか? これは紺屋が布を乾かすのに天気に左右され、約束の期日があてにならないたとえなんですが、藍染めは72時間干せばいいというわけですね」。他人にばかり忙しく、自分自身のことに無頓着なことを表す『紺屋の白袴』という言葉も有名ですが、紺屋に関することわざがこれだけ残されているということは、いかに藍染めが人々の生活に欠かせないものだったかがわかるのではないでしょうか? 
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オリジナルブランドで新しい展開。

ニューヨークで3年間を過ごす間に、洋服のパタンナーの仕事もしていたという角南さん。20年前に児島に戻ってきてから、オリジナルの服をつくりはじめます。ワンピースやスカートのパターンを100パターンぐらいつくって、染工場の隣の棟をサンプル室として使い始めることに。「いい加減な性格なもんですから、あまり気にすることもなく扉を開けていたら、お客さんが入ってきて、『これ買えますか?』って。当時、下請けで叩かれて叩かれて、きついなあと思っていた時だったので、うれしくてね」。
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その後、地元の百貨店で販売会をやったり、たまたま直販できるようになったりして、少しずつ売れはじめるようになります。「オリジナルの服をつくって、それがお客様のところに直接届く。それで結構やりがいが出てきました。このあたりは、自転車で回っていたら、パターン紙からボタンまで、服をつくるためのものは全部そろうので、いくらでもつくれますし」。現在、角南さんがデザインしたオリジナルのブランド「blue in green」(藍が染まっていく過程を表す、ステキなブランド名です)は、かつてのサンプル室がショップ「RIVER」となり、そこにさまざまなアイテムが並びます。
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「『藍染めは好きだけど、服のカタチやスタイルはちょっと野暮ったい』と思われてる30歳代から60歳代の女性に支持されてるようで。口コミで広がっていったのはありがたいですね」。店内には、藍染めのブルーはもちろんのこと、染めていない白いアイテムも目につきます。
高城染工場
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「白い服は、飲食店のユニフォームとしてよく使われています。店を辞められるときに、その服がご自身のものになって、ここへ持ってこられて藍で染め直すということもありますよ」。真っ白なものを、鮮やかなブルーで染める。藍染めの美しさは、これからもっと、さまざまなシーンで活躍しそうです。
取材・文/蔵 均 写真/桑島 薫
[RIVER]
●岡山県倉敷市児島下の町7-2-6 TEL:086-472-3105 13:00~17:00 不定休
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Creator/Brand

高城染工 blue in green(たかしろせんこう)

デザイナー・職人

高城染工 blue in green(たかしろせんこう)

倉敷で100年続く染工場で作られる、藍やインディゴ染めが特徴の、着心地がよくゆったりとリラックスできる服。

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