nomuo(のむお) 第1回 心震わせる、唯一無二の革雑貨

東京・麹町の瀟洒なマンションの1室。ここは、その独特な世界観が炸裂する革雑貨をつくるnomuoさんが制作と生活をしている場所。彼女ならではの発想はどうやって生まれるのか? ものづくりの現場を訪ねてみました。
- SOUQ
- ふだんの生活をされているマンションで、制作もされているんですね。
- nomuo
- そうですね。ここで1日10時間は革に向かって制作してます。お昼前にはこの机に座って、食事の用意とかで中断することはありますが、夜中までずっとやってます。
- SOUQ
- 引きこもってやってるわけですね?
- nomuo
- そうですね。食料品はネットスーパーで、わりと活発に調達しているので。お得意様です。
- SOUQ
- 元々、外出するのはお好きじゃない?
- nomuo
- いえ、運動とかもしてたので、外に出るのは好きなんですけど。オーダーを待ってくださっている方がたくさんいる状態なので。気が引けちゃって、もうずっと家にいますね。
- SOUQ
- ひたすらつくらないといけないわけですね。
- nomuo
- そうですね。モノによっては1日かかったりしますので…あのー、取材って、ものすごいヘンな汗が出ますね。

- SOUQ
- あっ、写真撮影もあるので、汗を拭いてきれいにしてくださっていいですよ。あっ、手で拭わずに、せめてハンカチで拭いてください!(笑)
- nomuo
- こんなに人とふれあうのは久しぶりなので、すみません!
- SOUQ
- 作品をつくり始めてから、どれぐらいになるんですか?
- nomuo
- もう10年ぐらいですかね。最初は、鬼子母神の手づくり市に出店していて。前日深酒は毎度のことで、遅い時間に登場して、売り切ったら午後イチで帰る。すごい態度が悪い出店者だったと思いますよ。
- SOUQ
- 鬼子母神では、評判の人物だったというわけですね。
- nomuo
- そう。私が行くと、お客さん同士が「ノムオさん来たよ」って、声かけ合うんですよ。で、売る分だけ売ったら、さっさと帰る。サングラスかけてね。
- SOUQ
- その頃は、市だけで作品を売ってたんですか?
- nomuo
- そうですね。その頃は会社勤めをしていたので、片手間でちょろっとつくって持っていってましたね。2年間ぐらいそういうことが続き、そのあと、オーダーが増えてきたので、仕事も辞めました。百貨店にもちょこちょこ出れるようになり、そこから続けています。
- SOUQ
- 革雑貨をつくる前は、どのような活動をされていたんですか?

- nomuo
- 四コマ漫画を描いてました。
- SOUQ
- 漫画家さんだったんですね!
- nomuo
- 足掛け10年ぐらいやってましたけど、鳴かず飛ばずでしたね。出版社に持ち込みをしたりして、ちょこちょこ単発では載せてもらってたんですけど、連載にはいたらず。ダメでしたね。今でも描くのは好きなので、ブログに載せたりしてますけど。
- SOUQ
- なるほど。だから絵がお上手なんですね。漫画を描くのと革雑貨をつくるのは、また違いますか?
- nomuo
- 漫画は白黒で平面じゃないですか。革雑貨は、立体的でカラーだし、ちょっとつくってみたらすごく楽しかったんですよ。なんでもかんでもできると思って。だからもう、クラクラするぐらい楽しかったですね。
- SOUQ
- それは想像つかない楽しさ。どんな感覚だったんでしょうね?
- nomuo
- 小さい時からなにかをつくるのは好きだったんですけど、だんだん技術がついてきて、楽しさがどんどん加速していく。これもつくれる、あれもつくれる。こういうのをつくりたいというのが最初からあるというよりは、やってみたら、いろいろできるなあという感覚。そんな感じで続けています。

- SOUQ
- nomuoさんのお母さまも、ものづくりをしていると聞きました。
- nomuo
- 母は手芸をずっとやってるんですけど、わりとマダムなキャラで、こういう仕上がり(笑)の娘を、どうも気に食わない節がありまして。あまり折り合いがよくなかったんですね。でも革雑貨をつくり始めたとき、縫い方のコツなどを教えてもらってたんですよ。でも、私の作風は、母としてはあまり気に入らなかったようです。
- SOUQ
- nomuoさんの作品は独特な世界観なので、マダムにしてみれば、かなり違和感あるかもしれませんね。
- nomuo
- 母は、洋服やバッグも自分でつくってるんですよ。だから、最近シュッとしたバッグをつくりはじめたら、母がいちばん喜んでくれて。「やっとこの畑に来たな」みたいな感じで。すごいテンション上がってましたね。で、SOUQのイベントでは、いっしょに母の作品も並べさせていただきました。
- SOUQ
- SOUQのイベントといえば、語り草となっているエピソードがあるようですね。
- nomuo
- なんだろう?
- SOUQ
- 女の子がnomuoさんの作品を見て、売り場まで会いに来てくれたという話です。
- nomuo
- ああその話ですね。そうなんですよ、同じときに出店されていた作家さんが、私の作品を家に持って帰ったところ、家から出なかった娘さんが、外に出て私に会いに来てくれたんですよ。「nomuoさん、お酒が好きと聞いたので」と八海山のカップ酒とイカの燻製を「お小遣いで買いました」と言って持ってきてくれて。

- SOUQ
- それはうれしいですね。どんな作品を見られたのですか?
- nomuo
- オオサンショウウオのメガネケースです。お父さんは私の人となりも娘さんに話をしてくれたらしく。「こんなものをつくっている人には、ちょっと会わなあかん」と思って来てくれたと聞きました。それ以来、イベントにはよく来てくれてますね。
取材・文/蔵均 写真/衛藤キヨコ
なかなか家から出ることができなかった少女の気持ちをも動かしたnomuoさんの作品。次回第2回では、そんなnomuoワールドのキャラクターの魅力を掘り下げていきます。