安達知江 第2回 船が空に浮かぶように

岡山の豊かな自然の中で、身の回りのものをモチーフに作品づくりをしているガラス作家の安達知江さん。今回は作品を購入してくれるお客さんとの関係について語っていただきました。
- SOUQ
- 自然の中でなにかひらめいたら、すぐに制作に入るんですか?
- 安達
- そういうとき多いですね。なにかをつくってて、あっいいこと思いついた! と思ったら、その作業をいったんやめて。軽くドローイングするぐらいの気軽さで形をつくり始めます。それを何日間か置いといて、また見て、つくって。なんかそうやって自分なりのテンポでいろいろつくっています。
- SOUQ
- 同じものをずっとつくり続けるというわけではないんですね?
- 安達
- 絶対つくらなければならないものがあるときにはつくりますけど、決められたものをつくるというのが実は苦手なんですよ(笑)。注文を受けてつくるのが向いてないと…そんなことは言ってられないのでもちろんつくらせていただいてますけどね。

- SOUQ
- 作品はかわいいサイズのものが多いのですが、大きなものはあまりつくってないのですか?
- 安達
- そうですね。昔はつくってましたけど、最近はつくってないですね。やっぱり日常に取り入れてほしいので。
- SOUQ
- ということは、買ってくれたお客さんが、暮らしの中でどういうところに飾り、どういうものといっしょに飾っていたりというのが気になったりするんですかね?
- 安達
- 気になりますし、ありがたいことにお客様が積極的に見せてくださります。「これとこれを合わせてみたの」と。すごく新鮮ですしうれしい瞬間ですね。作品を一つ購入されたら、次の展覧会のときにはそれに合わせて違う作品をお求めくださったり。その方独特の世界をどんどんつくっていくという楽しみ方をしてくださる人が多くて。
- SOUQ
- それはうれしいですね。

思いがけない飾り方がうれしい
- 安達
- 自分では合わせることを意識してつくり始めたわけじゃないんですけど、そういう楽しみ方をしてくださる人が多いんだなあと発見がありましたね。
- SOUQ
- お客さんが写真を撮って送ってくださったりするんですか?
- 安達
- 展覧会のときに、「こうやって飾ってるんですよ」と見せてくださりますね。みなさんセンスがいいのでうれしいですし、逆に勉強になります。
- SOUQ
- どういうところに飾ってたりするんですかね。
- 安達
- 高層マンションに住んでる方で、窓辺に「船」のシリーズを空に浮いてるみたいな感じで飾ってくださったり。あとは中国の方で、お盆の上に小さな急須と茶菓子と共に小さな女の子のオブジェをお花がわりにお客様に出してらっしゃったり。
- SOUQ
- それはかわいいアイデアですね。

- 安達
- 自分では思いもよらない使い方をしてくださる方も多かったりします。
- SOUQ
- 最近、SOUQ ZINEでは、安達知江さんの作品を買いたいという、中国や台湾の方がすごく多いんですよ。
- 安達
- そうですか。SNSなどで私の方にも問い合わせが多いです。
- SOUQ
- 台湾で展示会もされてますもんね。
- 安達
- はい。岡山に「pieni deux」さんというギャラリーがあって、最初はそこのオーナーさんが台湾の台中にある「綠光+marute」さんというギャラリーのオーナーとお知り合いなのをきっかけに、お声をかけていただいて。
- SOUQ
- 満を持して海外進出ですね。
- 安達
- いえいえ、最初は「旅行がてら行ってみようかな?」「旅費が出ればいいよね」ぐらいの気持ちでしたね(笑)。

- SOUQ
- そこで安達さんの作品が知られるようになったわけですね?
- 安達
- でも特に中国圏の方に私の作品を知っていただいたのは、展示会というよりはインスタグラムだと思います。
インスタグラムの強さと怖さ
- SOUQ
- なるほど。最近だとそうなんですかね。
- 安達
- 展示会のときはそれほど強い反応は感じられなかったのですが、インスタグラムで影響力ある方が投稿してくださったのか、自分では理由はよくわからないのですが、ある日を境に中国の方からのレスポンスが急激に増えて。
- SOUQ
- なにかがあったんでしょうね。やはりプロモーションという意味では、いまはインスタグラムの力は強いですよね。
- 安達
- 強くもありますが、怖くもあり…。
- SOUQ
- 怖い? それはどういうところがでしょう?
- 安達
- 情報量が自分ではセーブできないじゃないですか。あまり広がってほしくないときも自分では阻止ができないので。もしかしたら転売につながるケースもあったりすると思うんですけど、それを自分で止められないんですよね、SNSは。だからそれが怖いです。知らない間にどんどん情報だけがころがっていって。収集がつけられない。
- SOUQ
- 自分の範疇を超えちゃうんですね。

- 安達
- なので、作家さんの中にはSNSをやめられる方もいると聞きます。展覧会でも「SNSで投稿しないでください」という制限をしたりとか…。私も今は一時的に最小限の情報しかしていません。
- SOUQ
- SNSもデリケートな時代になってきましたね。でもそれだけ海外からの注目も多いということは、安達さんの作品が他にはない個性的なものだからでしょうね。
- 安達
- そうなんですかね。反応いただけるのはとってもうれしいですし、自分ではほとんど自分への反応はチェックしないんですが…ときどきお客様から「きれいに作品飾ってるよ」と見せてくださったり。すごく作品が愛されてるのを見ると、本当にうれしい思いです。それが日本だけでなく、今は世界でも少しずつ…なおさらありがたいですよね。それはSNSの力も大きいので、いい距離感でうまく付き合って行きたいですね。
取材・文/蔵均 写真/桑島薫
日本だけではなく、中国や台湾の熱狂的なファンも多い安達さんの作品。次回第3回は、作品が生まれる独特の手法、キルンワークについてお話をうかがいます。
Creator/Brand

ガラス作家
安達 知江(あだちともえ)
岡山県の山の中で、自然に囲まれた小さな工房でガラスのオブジェや器を制作。キルンワークという技法を使い、身の回りのささやかな出来事を作品にしています。