あわびウェア(Awabi ware) 第3回 現代の食生活に合ったうつわをつくりたい

ブランド立ち上げから6年。ファンも確実に増えている「あわびウェア」の魅力とはなにか? 代表の岡本純一さんに、そのデザインや色合いなど、特徴についてお聞きしました。
- SOUQ
- 「あわびウェア」は、最初はどんな器からスタートしたんですか?
- 岡本
- どうだったんだろう? いちばん最初につくったのは、たしか輪花皿ですね。
- SOUQ
- 花のような形の器ですね。
- 岡本
- 最初は、目立つものをつくらないといけないとなと思ったんですよ。本来ボクが家で使いたいのはシンプルなカタチなんですけど、やっぱり最初は、引きのあるもので勢いをつけないといけないんで(笑)。昔は、輪花と呼ばれる花が描かれたものがハレのうつわと言われていて、お祝い事に使ってたんですよ。

- SOUQ
- じゃあ、輪花皿はめでたいうつわだったんですね。
- 岡本
- そうです。西洋でも中国でも日本でも東南アジアでも、輪花というのは必ずありますね。カタチ自体が花みたいなので、つくりやすいのかもしれません。その次につくったのがオーバルですね。
- SOUQ
- 楕円形の形をしたお皿ですね
- 岡本
- はい。いま結構流行ってます。楕円形はいいなあと思って。

- SOUQ
- うつわをつくるときに、この皿にはこういう料理が盛りつけられるといいなとか、イメージしているんですか?
- 岡本
- そうですね。昔からあるカタチを現代の食生活に合わせて、ちょっとだけ編集しているようなイメージですかね。最近だったらパスタをよく食べますが、パスタに合ううつわは案外少ない。そういう洋食化している日本の食卓に合うように、意識はしています。
- SOUQ
- 確かに、昔は家でパスタを食べるということもあまりなかったですもんね。

- 岡本
- といっても、「あわびウェア」のうつわは、カラフルなものじゃなければ和食にも合うと思うんですよ。輪花皿とか八角皿とか。いまはカフェなどで使ってもらうことが多いですけど、和食にも絶対合うので、そういう提案をしていきたい。こうなったら自分で和食の店出しますかね(笑)。
- SOUQ
- ぜひ淡路島で! ご自身で料理もされるのですか?
- 岡本
- 料理は好きですね。でもお店は誰か料理人にやってもらいたいですけど(笑)。懐石で、やりたいですね。
- SOUQ
- やはり、コースでうつわが並ぶといいですね。一般でも、すべて「あわびウェア」でそろえてらっしゃるような家庭もあるんですか?
- 岡本
- そういう方もいてくださいます。こないだ、家にあるうつわを全部捨てて、パープルの皿すべて2枚づつ買ってくださった方もいましたね。
- SOUQ
- 全部パープルなんですね! 他の色を少し入れてもいいような気もしますが…。
- 岡本
- でもこの色、空間を壊さずに変えるチカラがあって。意外にきつすぎなくて美しいんですよ。レストランなんかでも映える。

- SOUQ
- 「あわびウェア」は色合いが独特なんですけど、釉薬はどのようなものを原料にしているんですか?
- 岡本
- 基本的に金属と鉱石。主原料は、風化した石です。専門的なことを言うと長石だったり珪石だったり、石灰だったり。わりと身近で取れるような原料です。
- SOUQ
- なるほど。石や金属でこれだけの色みを出せるんですね。
- 岡本
- この緑のやつは銅が入ってますね。銅が酸化すると緑青(ろくしょう)という緑色の物質になりますけど、その色です。酸化した銅の色ですね。
- SOUQ
- パープルはどうやって色を出してるんですか?
- 岡本
- コバルトという鉱石ですね。そのほかは日本画の絵の具で使われるような顔料を使ったりします。高温で焼くと、赤だったものが黄色になったりとか、ベンガラという顔料は酸化した状態だと赤いですけど、焼くと分量によっては黄色くなったり茶色っぽくなったりします。

- SOUQ
- 「あわびウェア」色というのが、かなり浸透してきたように思えますが、新しい展開などは考えてらっしゃいますか?
- 岡本
- いま制作中のものがあるんですが、見てみます?
- SOUQ
- ぜひお願いします!
(新作の試作品が置かれている、隣の部屋に移動します)
- 岡本
- これが新作のパン皿の試作です。これがめっちゃいいんですよ。
- SOUQ
- いいですね! これほしいです。

- 岡本
- 8月末に東京で行う『パン皿展』に向けて制作中のパン皿なんですが、木地に漆を塗っています。
- SOUQ
- 漆塗りなんですね。
- 岡本
- このブルーグレーっぽい皿が拭き漆で、生成りっぽいのと濃い茶色が塗り漆です。これを四国の職人さんと輪島の職人さんといっしょにつくってるんですよ。そんなコストのかかるバカバカしいつくりかたをするところはないと思うんですけど(笑)。
- SOUQ
- 四国と能登じゃ、だいぶ離れてますね。
- 岡本
- 木地を四国の職人さんにお願いして、漆は輪島の塗師・赤木明登さんの弟子だった職人さんに塗ってもらってます。

- SOUQ
- パン皿をつくろうと思ったきっかけはなんだったんですか?
- 岡本
- 「あわびウェア」のうつわだとパンは乗らないなというのをうすうす感じていて。パン皿があったらいいなあと思っていたときに、四国の職人さんと出会って、こんなんやってみたいんですけどって言ったら、わりと気さくにノッてきてくれて。
- SOUQ
- 陶器ではなく、木の専門家ですね。
- 岡本
- そうです。その方が話がわかる人でよかったんですよ。自分の意見もしっかり言うし、ちゃんと職人でありながら作品もつくっているし。ボクが最初に陶器の感覚でデザインしたものは高台が小さくて薄かったんですが、パン皿だと大きくしないとダメだと言われて。

- SOUQ
- 陶器と木のうつわだと微妙に違うんですね。
- 岡本
- 木地の世界ではこういうバランスのほうがいいという持論があって、研究熱心な方なのでデータもたくさんあって。その方といっしょにできたから、すごくいいもんができたんですよ。当たり前のお皿なんですけど、なんていうか、すごくいいものができたんです。
- SOUQ
- 漆の塗りもいいですよね。
- 岡本
- 気軽に使ってほしいパン皿なんで、値段はできるだけ下げたいと思っているんですけど、塗り漆だったら、この皿で15,000円ぐらいとってもおかしくない。
- SOUQ
- そうですよね。漆はすごく高価なイメージがあります。やはり塗りの工程が多いからですかね?
- 岡本
- この皿は7回は塗ってますから。拭き漆のものでも最低5回か6回は拭いてますからね。

- SOUQ
- そうすると当然値は上がる?
- 岡本
- はい。でもボクは拭き漆なら7,000円ぐらいで売りたいと思っていて。日常でバンバン使ってほしいから。そうすると利益はあまりないんですけどね(笑)。
- SOUQ
- それは、うれしいですね。
- 岡本
- これはもう、かわいい子というか。自分で企画を立ち上げて、いい職人さんにも巡り合ってできたものなので、できるだけ多くの人に使ってもらいたい。東京のパン屋での『パン皿展』のあとは、全国のパン屋を巡りたいですね。
取材・文/蔵均 写真/桑島薫
あわびウェア アトリエ&ショップ

「あわびウェア」がつくられる現場と多くのアイテムが並ぶショップを訪れることができます。予約制となっていますので、メール、電話にて申し込みください。
兵庫県淡路市大町上507-1
問い合わせshop@awabiware.net
tel:0799-70-6719/090-9325-7588(9:00-17:00)
洋食化する現代の食卓に合わせて、昔からあるカタチを少し編集しているという「あわびウェア」。次回最終回は、アトリエからすぐ近くの岡本さんの自宅ににもおじゃまして、自然や民藝、創作についての話をうかがいます。
Creator/Brand

陶芸家
Awabi ware(あわびウェア)
受け継ぐ器をコンセプトにした日用食器のブランドです。江戸後期から明治期に栄えたみ珉平焼(淡路焼)の制作スタイルに学びながら、生活道具としての器をつくっています。