beanxious(ビーアンキシャス)未知なるフロッキーの世界 | SOUQ ZINE スークジン

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beanxious(ビーアンキシャス)未知なるフロッキーの世界

beanxious(ビーアンキシャス)未知なるフロッキーの世界
ものづくりの現場を訪ねる「ファクトリーファイル」。今回は、国内はもとより、世界でも有数のフロッキー加工を手掛けるブランド「beanxious」をご紹介します。その工房は京都・桂川の住宅街に佇む、元染色工場を改装したささやかな一棟にありました。
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フロッキーという名前は聞き慣れないかもしれません。けれど、以前は電車やバスの座面、おもちゃのシルバニアファミリーのボディなどに使われる、ビロード風の“あの加工”と言えば想像がつくでしょうか。植毛加工とも呼ばれ、接着剤を塗布した生地に長さ数mmの繊維を固着させることで、立体的で手触りのある素材に仕上がります。

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アメリカ生まれのフロッキー

「発祥はアメリカで、日本にはおそらく戦後にこの技術が伝わった。今ではフロッキーをやっている工場が少なくて、廃業してしまうところがほとんど。技術そのものが珍しくなっています」。そう話してくれたのは、代表取締役の吉田貴志さん。

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「beanxious」は、フロッキー加工を施したオリジナルウエアを製造&販売するブランド。シルクスクリーンの製版やプリント加工、フロッキー加工、タグ付けまで、商品は一貫してこの工場でつくり上げています。過去には京都の老舗メーカーの紹介でドイツのアディダス社からスタッフが訪れ、技術にほれ込み製品づくりを依頼。「ヨウジヤマモトY-3」のニューヨークコレクションでは、デザインとフロッキー加工を手掛け、その後ダブルネームのアイテム制作も。国内外を問わず注目が集まるファクトリーです。

京都生まれ、京都育ちの貴志さんは、お父様が着物の元染め師。その影響で染色技術を学ぶ工業高校に進学するも、友禅型の型彫師に憧れ、趣味で型彫りを続けていたそうです。ところが就職を考えれば、傾斜産業である和服業界は難しい。結果的に、Tシャツプリント専門の会社に入社。トレースやシルクスクリーン用の製版を習得し、営業や納品も行うようになったころ、京都のある小さな工場でフロッキーに出合います。

“技術の凄み”に惹かれて

「うっそうと茂る木々に囲まれた工場で。恐る恐る入ってみると、60代くらいのおじさんがひとりでフロッキーをやっていたんです。僕は平面的なプリントばかりを見てきたから、立体状のフロッキーが新鮮で。それもプリントなら自動機で量産できるけれど、こちらは地道な手仕事。1枚を仕上げるために数々の工程があって、経験が問われる仕事でもある。そうした“技術の凄み”に惹かれたんです」。

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貴志さんは仕事のない休日にもフロッキー工場へ通うようになり、やがて会社を退職して弟子入り。修業を始めて1年が過ぎた頃、師匠の引退により独立を決意した。初期は下請けでシルクスクリーンプリントやフロッキーを手掛けるも、2007年にオリジナルブランド「beanxious」を立ち上げて以降は、フロッキー加工を施したオリジナルアイテムだけを製造・販売しています。10数年に及ぶ実践で鍛えたフロッキーの加工技術はもちろん、ブランドの強みはその魅力を際立たせるデザインにもあります。なかでも、思わず毛並みをなでたくなるアニマル柄は人気の定番。

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工具は、おのずと自家製

今回はオリジナルTシャツの制作工程を見せてもらいました。まずは刷り台に生地をセッティングし、シルクスクリーンで絵柄をプリントします。

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乾燥機は、ガムテープの芯とドライヤーでつくった自家製。

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インクの乾き具合は、目視と手触りで確認。続いて、フロッキーの繊維を付着するための糊付けをします。例えばタコ柄なら、フロッキー加工を施すのは吸盤部分。つまり、糊付け用の版は、先ほど色刷りした版とは異なるものを使います。

糊付けしたら、間髪入れずにフロッキー加工に移ります。この花形仕事を担当するのは、貴志さんのお父様である義明さん。

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加工方法をひと言で表現すれば、「鬼太郎が髪の毛針を飛ばすイメージ」と貴志さん。常時約4万ボルトを放つ静電気を用いて、長いものなら4mmある繊維を生地に突き刺していきます。

現在はフロッキーそのものが稀少なため、フロッキーの専用工具や機械をつくる工場や職人さえいないと言います。そのため、静電気の発生装置は特注し、電線を設えた流電装置もお手製。これらも師匠に学んだ経験があったからこそ揃えられた商売道具です。

フロッキーのネクストレベル

一般的にフロッキーに使われる繊維は、長さ0.5mm程度の短毛が中心。ところが「beanxious」は、国内唯一の4mmを特注。

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長ければ植毛の際にウェーブがかかり、付着しにくい。だからこそ、長毛の場合は繊維を太く、または硬くするのが通例ですが、貴志さんは細さも柔らかさもキープした繊維にこだわる。その分、高度な技量が問われるわけですが、フロッキーの“技術の凄み”に魅了された貴志さんは、その挑戦さえ楽しんでいるように見えます。

「僕はみんながやらないことをやりたい。お客さんが欲しいもの、楽しんでもらえるものをできるだけつくりたい。まだまだフロッキーを知らない方が多いから、どうやったら知ってもらえるか。その可能性を探しています」。

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最近では、プロバスケットボールチーム「京都ハンナリーズ」のオフィシャルグッズも担当。人気キャラクターのはんニャリンをフロッキー加工したトートバッグの他、外国籍選手の顔をモチーフにしたTシャツ(ヒゲがモフモフ!)など、ユニークなアイテムも生まれています。

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「去年はフランスの展示会に出展する機会があって」。その際の展示作品として見せてくださったのが、動物を写実的に表現した大判のフロッキー。「ヨーロッパの方は、こんなの見たことがないと。評判が良くて。改めて、海外の展示会に出品したいと思っています」。

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京都郊外の小さなファクトリーから、世界に類のないフロッキーを生みだす。「beanxious」の今後にさらなる期待が高まります。

取材・文/村田恵里佳 写真/桑島薫

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