『あなたの知らない文具の世界』 vol.02活版の世界

それは、実に奥深く、魅惑の世界。
一度ハマったら抜け出せない沼の世界。
この連載では、文具を創り出す人と、
既に文具の沼にハマっている沼人(ヌマビト)たちにお話を伺います。
連載第2回となる今回は、文具好きの中でもコアなファンが多い活版印刷。
その印刷技術に魅了されている人々も数多く。
まだ知らない文具の世界へと、あなたを誘います。
第一章~活版作家対談~


今回のテーマは、活版印刷。手漉きでコットンペーパーを手作りしている活版ブランドの『DEAR FACTORY(ディアファクトリー)』のかがわゆかさんと、デジタルとアナログを結ぶデザインスタジオが運営する活版印刷ブランド『ALBATRO DESIGN(アルバトロデザイン』の猪飼俊介さん、佐藤俊介さんをお迎えして、活版印刷の魅力や可能性、作り手ならではなマニアックな内容も含めて、たっぷりとお聞きしました。両ブランドとも、9月7日より東京大丸で行われる『TOKYO 文具の博覧会』に初出店していただく予定です。
「活版」という同じ手法を使っても表現は無限大

― 同じ活版印刷でもふたつのブランドはトーンが全く異なっていて、表現の幅広さを感じますね。DEAR FATORYさんは、落ち着いたトーンで女性らしいやわらかなデザインが印象的ですが、ALBATRO DESIGNさんは、ちょっと実験的なアプローチをされている感じというか。
- 猪飼
- ALBATRO DESIGNでは、「特殊活版」と呼んでいて、いろいろなことを試しています。インクをどんどん変えたり、インク自体に細工を施したり、機械油やホワイトガソリン、顔料や蓄光のパウダーを混ぜて印刷してみたり……植物の種を入れたこともありますね。
- かがわ
- そんなものまで!(笑)猪飼さんらしいですね!

― ALBATRO DESIGNさんのアイテムは、見た目にも普通の印刷とはひと味違う不思議な印象でしたが、実際にそんなことが行われていたとは!佐藤さんも、プリンターとしてそのような実験的なことに挑んでいらっしゃるということですよね?
佐藤さん(以下、佐藤)これまで、活版に限らず印刷全般に携わってきたので、猪飼さんと一緒にやっていると“印刷の概念”みたいなものが覆される感覚です。もともと印刷をやっている人はやらないですよね、油を混ぜるとか(笑)
- 猪飼
- いつも佐藤さんと2人でキャッキャしながらやって、できた瞬間は盛り上がるけど、後から「コレハナニ?」ってなることもありますけどね(笑)
- 佐藤
- ありますね(笑)
- 猪飼
- 活版ってすごくアナログな技法で、何トンという力をぶつけるだけなので、機械の特性さえ理解していれば、いろいろなものでチャレンジできます。刃をセットすれば紙を抜くこともできますし、スジ押しを入れることもできますし。最近は、活版印刷、抜き、スジ押しをして、ペーパークラフトも作りました。
― 素敵ですね!抜いた後も取っておきたくなります。活版印刷って、意外とできることが多くて驚きました。

- かがわ
- できることも多いし、できないこともたくさんあるのが活版で。でも、最近はデータから版を作ることができるので、刷れる絵柄の自由度も高まっています。昔ながらの活字を使うこともありますし、表現の幅は広いかもしれません。その表現の幅の広さに、どんどんハマっていっている自分がいます。
- 猪飼
- わかります!印刷の過程で手を動かしながらデザインできるおもしろさは、既製品にない活版ならではの楽しみ方。実に奥深いです。
― 「活版」というひとつの手法でも、デザインや紙、インクの使い方によってその表現は無限大…。これぞまさに沼、なのですね。
一筋縄ではいかないからこそハマっていく

―ずばり、活版印刷の魅力とはどんなところあるでしょうか?
- 猪飼
- コミュニケーションが生まれるところ、だと思います。
―コミュニケーション…?
- 猪飼
- 活版印刷所でデザイナーや学生など、いろんな人が集まってきて、機械を囲んで「こんなことできるんだ!」ってわいわいやってるのもいいなぁと。児童館の工作室みたいな感じで。
- かがわ
- あー、わかります。いろんな方たちと関わり合いながらやっている感覚、私も好きですね。デザイナーってどうしても「点」になってしまうけど、活版だといろんな人と技術や知識を共有して、一緒に少しずつステップを踏んでいく感じがいいなって。
― 活版印刷がコミュニケーションのハブとして機能しているのはおもしろいですね。そして知恵を集めて作り上げる感じも、他の印刷にはないかもしれませんよね。
- 猪飼
- 活版機の技術って本があまりなく、基本的に口伝だから情報が少なくて。ネットで調べても全然出てこない。でも、それもまた活版のおもしろさなんです。
- かがわ
- 確かにそういうところありますね。機械を扱うのも一苦労。イメージ通りのものが一回では刷れなくて、一個ハードルを飛び越えると、また次のハードルが見えてきて。一筋縄ではいかないのが活版印刷。でも、全然飽きなくて楽しいから、やればやるほどにハマってしまうのかもしれません。

― いろんなツールがどんどん便利になっている中で、簡単ではないからこそおもしろみがあるっていうのは、興味深いですね。難易度が高いから挑戦したくなる、というか。
- 猪飼
- 活版印刷の機械や部品も決して扱いやすいとは言えないのですが、かわいいなーと思ってしまいます。全部重たいんですよ。置いた時もドンっ、活字もゴトって感じで。
- かがわ
- ずんぐりむっくりしてるのも愛おしいというか(笑)
- 猪飼
- 沼も奥深くまでくると、重たいもの=「かわいい」になるんです(笑)
― そういう活版印刷の道具も、『TOKYO文具の博覧会』で見ることができるんですよね?
- かがわ
- はい、今回はテキン(活版印刷機)を一台、会場にお持ちしますので、実演やワークショップなどで機械や道具もご覧いただけます。猪飼さんもワークショップをされますよね?
- 猪飼
- ALBATRO DESIGNでは、花の版を使ってカードを作るワークショップをします。あと、カードダスみたいなガチャガチャを出そうかと。

― それは大人も子供もやりたくなりますね!かがわさんのアイテムも楽しみです!
- かがわ
- 手漉きのコットンペーパーにワードを印刷したメッセージカードを販売する予定です。お礼など使いやすいものを用意しようと思っています。
― 版が押された凹凸や手触りを生で感じると、より活版印刷の魅力を感じられそうですね。
- 猪飼
- 活版印刷のアイテムって、触ると立体感があって、そのバックボーンにどうやって刷られたかとか、どうしてこの紙を選んだのかとか、そういうものがあって。私は、そういうのを「立体的な解像度」って呼んでいるのですが、『TOKYO文具の博覧会』では、そういう高い解像度を感じていただけると思います。
― そうですね!活版印刷機を目の前にして魅力も再発見できそうですし、ワークショップなどに参加することでより身近に感じられそうですね。

ものづくりのモチベーションとなる沼アイテム
―最後に、なりましたが、今回の対談で、お二人とも文具沼の住人ということはよくわかりました。それも奥深くの…(笑)お気に入りの沼アイテムをぜひご紹介いください!

- かがわ
- 私の沼アイテムは、紙や塗料の色見本です。
―色見本。
- かがわ
- 変わってますよね(笑)カラーチップが整然と並んでいる感じもたまらなくて。海外メーカーのものは、日本の色彩とはまた一味ちがった美しさがあります。こういうのを眺めながら、自分の作る紙の色を考えたり、印刷のインクと紙の組み合わせをイメージする時間がとても幸せなんです。
―なるほど。沼人の視点、おもしろいです。一緒にお持ちいただいたこの青い粉は……?
- かがわ
- これはイヴ・クラインという画家が開発したインターナショナルクラインブルーという青の顔料です。数年前にみつけて一目惚れしてしまって。使い用途などは特になく、たまにうっとり眺めています。
―沼人だ!
- 猪飼
- メディウムとか機械油で溶いたら、刷れそうですけどね。
- かがわ
- ちょっと怖いなぁ……(笑)でも、アドバイスいただいたので、やってみようかな!
― もし作ったら、ぜひ見せてくださいね。密かに楽しみにしています。猪飼さんは、このペンケースですね。

- 猪飼
- イラスト用とロゴ作成用です。道具が好きで増えちゃうので厳選して抑え込んだ結果ですが、ペンケースが2つになっちゃいました(笑)鉛筆は、ロゴが好きで愛用しています。
- かがわ
- ロゴで買っちゃう感じ、わかります!
- 猪飼
- 好きな道具があるとテンション上げて仕事できるというか。普段、人前で開くものではありませんが、自分のために気に入ったものを使っています。好きなものを使うことで、自分のテリトリーにいる感じがするんです。
―使うことでスイッチが入る感覚もまた、文具の魅力ですよね。美しいものを目にして感性を磨いていかれるかがわさんと、大好きな道具でものづくりを楽しんでいらっしゃる猪飼さん。お二人の沼は、活版へのスタンスにも通じるものがありますね!ありがとうございました!

今回は、活版印刷の世界にフォーカスを当て、DEAR FACTORYさんとALBATRO DESIGNさんに作り手の視点ならではお話をお聞きしました。活版印刷は、実物を見て触ってこそ。さらには機械を動かしているところも目も前で楽しんでいただけたら、より一層その魅力を感じていただけるはず。ぜひ、『TOKYO文具の博覧会』で、活版印刷ブースに足をお運びください。
■第二章~文具の世界の住人ご紹介~
第二章では、既に文具の沼の奥深くへと沈み込んでいる沼の住人をご紹介。
今回は、2名の沼人をご紹介します。
◯ハンコ沼在住「@su_g.techou_cho」さん
ご自身で集められたハンコやマステを使って、日記を投稿されています。
その日のできごとや気分によってデザインが変わり、見ていて楽しくなります。

@su_g.techou_choさんは、「同じアイテムでも、使い方によって表情が変わるところに、文具の魅力を感じるんです。組み合わせによって無限に楽しめてしまうところも、文具の好きなところです」とお話くださいました。
同じノート、同じハンコなのに、ページごとに違う表情を作れる喜びは、あなたを文具沼へといざなってくれるのかもしれません。

「仕事をしながらでも文具には触れる機会が多かったことと、Instagramで可愛い手帳デコをしている方を見ていたら、自分も・・!という気持ちになり、本当に気づけば、沼にハマっていました。幼いころからも文具が好きなタイプではあったんですけどね(笑)」
最初は見る専門だったけど、「やってみたい」と気持ちがかわっていったことが文具沼の入り口、、というパターン!
そんな@su_g.techou_choさんのInstagramアカウントはこちらから!
https://www.instagram.com/su_g.techou_cho/
◯文具を自由自在にアレンジ「アビノリエ」さん
続いてご紹介するのは、ご自身でも、生地を使ったメモ帳や「手帳みたいなジャンクジャーナル」を販売されているアビノリエさん。繊細な表現が美しいんです。

「文具は、日常的に使えて可愛い上に便利、それに加えて選ぶことそのものの楽しさを味わえるところに魅了されています。こんなに“すべて”を同時に満たしてくれるものってほかにはあまりない、文具ならではの魅力だと感じています」とはアビノリエさん。
便利なだけ、可愛いだけ、ではない。まさに文具のよさの真髄なのかもしれません。

そんなアビノリエさんが文具にハマったきっかけがちょっと珍しいんです。
「私が文具にハマったきっかけは、“便利さ”だったんですよね。大学時代にサークルとアルバイトを2つかけもちしていて、スケジュール管理のために手帳を購入しました。当時はスマホやガラケーなどもなく、PHSやポケベルの時代でしたので、手帳が必須で。手帳も、どこにでもあるようなシンプルなものに、0.3mmのシャーペンや母にもらった万年筆などで書き込んでいただけなのですが、その便利さにどんどん魅了されていって、、、」
可愛い、楽しいだけではなく、日常をもっと便利にしてくれる文具。まだまだ奥は深そうです。
そんなアビノリエさんのInstagramアカウントはこちらから!
https://www.instagram.com/o_tu_ne/
■エンディング
今回は、『あなたの知らない文具の世界』vol.02ということで、活版印刷作家さんの対談と、沼人たちのご紹介をいたしました。 文具は、まだまだ知らない魅力であふれています。
ぜひあなたが知っている文具の魅力について教えてください。
ぜひ、「#あなたの知らない文具の世界」をつけてインスタグラムで投稿したり、公式インスタグラム「「@souq_bungu」をメンションしてくださいね。
SOUQ編集部があなたを見つけて、取材を依頼するなんてことがあるかも…?
SOUQZINEはこれからも、あなたを文具の世界へとお連れいたします。次回もお楽しみに。
■SOUQZINEからのお知らせ
スークカンパニーがプロデュースするオリジナル文具ブランド「BUFFET STYLE」を製作中!
9月開催予定の「文具の博覧会」にてお披露目を予定しております。
SOUQZINEでの販売もおこないますので、楽しみにお待ちください!
■現在の文具の博覧会開催情報
やまなし文具の博覧会mini ~ハッピーペーパーマーケット~
7月13日(水)~9月26日(月)
午前10時~午後7時(最終日は午後5時閉場)
※8月16日(火)は一部商品入替えの為、午後5時閉場
@岡島百貨店
https://www.okajima.co.jp/camp/5608/
しものせき文具の博覧会mini ~ハッピーペーパーマーケット~
7月27日(水)~8月21日(日)
午前10時~午後6時
@大丸下関店 6階地域貢献リボンホール
https://www.daimaru.co.jp/shimonoseki/happypapermarket2022/