Canako Inoue(カナコ イノウエ)後編 普遍的で背中を押すアイテムを

あらゆる世代が楽しめる普遍的なアイテムを
ところで、井上さんが服作りに興味を持ったのはいつからなのだろう。素朴にそんなことを思って質問を投げかけると、少しだけ記憶を辿るように宙を眺めてから、「たぶん……幼稚園に通ってくらいには」と彼女。なぜ、そんなに幼い頃から、服づくりに興味があったのか少し気になってお聞きしてみました。


「思い返すと、母も祖母も洋服が好きな人で。祖母は洋裁の先生をしていたので、服を作るっていうことがわりと身近にあったんです。実は、曾祖母も和裁をしている人で。母が成人式の時には曾祖母が縫った振袖を着たんですけど、それを私も成人式の時に着ることができたんです。そうやって、代々引き継いで着ることができるのも、服や着物の良さだなぁって感じていました」


彼女の服作りのベースにあるのは、そんな服を巡るご家族での温かな記憶。 「いろいろな世代が身につけられるのっていいなぁっていう気持ちがあるので、あまり使う人の年齢を限定せずに、いろいろな年代が楽しめるものを作りたいなって思っているんです。だから、形もできるだけシンプルにしていますね」
生地から伝わるモノづくりのわくわく感
つい最近までは、布にプリントをする作業も自分で行なっていたのだとか。それは、井上さんの物づくりへの貪欲さと好奇心、そしてモノづくりへの愛情の表れに他なりません。


「最近は行けなくなってしまったのですが、ついこの間までシルクスクリーンは、お世話になっている手捺染の工場におじゃまして自分で刷っていたんです。大学時代にプリント技術を教えていただいていた恩師がいる工場なのですが、お願いして職人さんたちに刷り方を教えていただいて。インクの色も自分で練って調整したりして。よく見るとムラがあるんですけど、それも味かなって(笑)」

そういう手刷りの技術だけではく、現代的な印刷技術も柔軟に取り入れているのも、軽やかな彼女らしさ。クラッチバッグやポーチを作るための帆布生地は、インクジェットでの印刷だと言います。それは、原画の色彩が美しく再現でき、じゃんじゃん洗濯しても色落ちがしにくいから。「なるべく無駄がでないように、バッグのサイズに合わせた柄の配置ができるのもいいんです」と井上さんは嬉しそうに語ります。

「そういう印刷技術のことやベストなやり方は、工場の職人さんから教えてもらうことが多いですね。いいアイデアをいただくことも、しょっちゅうです。職人さんの技術があってはじめて、私の作りたいアイテムができあがるんです」

絵柄のことを話すときもプリントのことを話すときも、モノづくりの話をするときは、野の花のようにやさしい声とゆっくりとした口調の中に、わくわく感が溢れる井上さん。彼女自身が洋服づくりを心から楽しんでいる、その空気感が生地にも乗っているのでしょう。彼女は、最後にこう話してくれました。

「毎日身につけるものだからこそ、天気が悪くてちょっと憂鬱な日もありますけど、お気に入りの洋服を身につけたりバッグを持ったりしていると、ちょっと楽しい気分になったり前向きになれたりする気がするんです。私の作るアイテムも、そんなふうに誰かの背中をちょっとだけ押せるような、そういうものになれたらいいなって思っています」
取材・文/内海織加 写真/宮川ヨシヒロ
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テキスタイル・アパレルデザイナー
Canako Inoue(カナコ イノウエ)
Canako Inoueは日々の些細な出来事に目を凝らし、のんびりとやわらかい視点で描くテキスタイル・アパレルブランドです。生活の中でほっと一息つき、今の自分を大切にして暮らすための洋服や小物をお届けします。長く大切に時を経ていけるものを目指し、日本の各地の職人さんとともに丁寧に作っています。