ETSUSHI(エツシ) 第2回 水に溶ける布を使う刺繍

東京芸術大学大学院を卒業して、ブランドデビューを果たしたETSUSHIさん。登場からすぐに多くの人から認められたという独特の作品はどのようにつくられているのか? 魅力的な刺繍の世界へ誘います。
- SOUQ
- 刺繍の作品を拝見すると、一瞬フェルト地かと思うほど目が詰まっている気がします。
- ETSUSHI
- それは、水に溶ける布に刺繍するからかもしれませんね。
- SOUQ
- 水に溶ける? そんな布があるんですね。
- ETSUSHI
- はい。水に溶ける布に縫い重ねて、最終的に土台を溶かして刺繍だけ残るという形です。
- SOUQ
- それは布を残して刺繍したのとは、見え方は全然変わってくるんですか?
- ETSUSHI
- そうですね。布に刺繍すると縁取りとか端の処理が出てくるので、そういうのが残らなかったり。みっちり縫わずに隙間を空けて縫うと、透かしたりもできるんですよ。

- SOUQ
- 布が溶けてなくなることによって、刺繍がほどけたりバラバラになったりはしないんですか?
- ETSUSHI
- 結構最初の頃はそういう失敗があったんですけど、縫い方によってそれは解決できるようになりました。
ひとブローチ、400メートル!
- SOUQ
- 布を溶かすという刺繍の手法は、他にもやっていた人はいるんですか?
- ETSUSHI
- やってる人はあまりいないと思うのですが、工業用でカーテンとかレース布をつくるときに、刺繍を全面に施し溶かしてレースができる。そういうもの用に売られているんですよ。

- SOUQ
- そういうものがあるんですね。作品一つつくるのにどれぐらい時間がかかるんですか?
- ETSUSHI
- 物にもよるんですけど、だいたい平均30分ぐらいです。面積と色数によりますね。
- SOUQ
- すごい緻密な作品なので、手づくり感があまり感じられなかったんですけど、こうやって縫っているところを見るとかなり手作業ですね。
- ETSUSHI
- そうです。一回土台ができちゃったら、後は埋め尽くすだけ。たとえば人の目を描きたいとなったら、そこだけよけて縫います
- SOUQ
- 密度が濃いというか、糸が敷き詰められてる感じですね。だから一瞬見ようによってはフェルト生地のようにも見える。使う糸の量は相当多いんじゃないですか?
- ETSUSHI
- 糸の量は相当多いと思います。ブローチ一つで400メートルぐらいじゃないですか。


- SOUQ
- 一粒300メートルならぬひとブローチ400メートル! そろそろできあがってきましたね。
- ETSUSHI
- ここまできたら、一度光に透かして密度を確認してから、薄いところを縫い足していきます。
- SOUQ
- 大学院を卒業してすぐ刺繍作品をつくり始めたんですよね?
- ETSUSHI
- そうですね。3月に卒業して、5月にアートコンペの展示に出して、そこで知り合いに教えてもらった9月のジュエリーの展示会に応募しました。そこから12月 の展示会にも出て、次の年からは百貨店の催事場とかでもやらせていただくことになって。そのうちショップにも卸すようにようになりました。
なにかわからないものをつくりたい
- SOUQ
- モチーフがユニークですね。どういうふうにデザインをしているんですか?

- ETSUSHI
- どうだろう…わりとなんとなく思いついたものをスケッチしてみたりだとか、直接刺繍していく中で、デザインが浮かんだりするものが多かったですね。特に最初の頃はそういうのが多かったです。それがだんだん量産するにあたって、考えてつくるようになってきました。
- SOUQ
- ラインアップのバリエーションとかも考えないといけないですしね。
- ETSUSHI
- 元々は生活しててパッと目に入ったもので、面白いグラフィックが頭の中で思い浮かんで、これを刺繍にしたいみたいな感じで。ほとんど思いつきでした。名前とかもつけてたんですけど、ほぼ後付けだったんですよ。
- SOUQ
- 「ナビカセくん」とか「モザイク山」とか。

- ETSUSHI
- その頃は、なんかわからないもの、なにってはっきり言えないものをつくりたいというのがあったので、結構突っ込まれてました。最初の展示会とかは名前もつけてなかったので、「これなんですか?」って聞かれて、「ヤカンです」って適当に言ってたら、「面白いねえ、名前つければ」ってみんなに言われて(笑)。そこからは一個一個、名札といっしょに販売するようになりましたね。
取材・文/蔵均 写真/東泰秀
刺繍のアクセサリーでデビューをした「ETSUSHI」ですが、最近はシルバーのリングの制作へとシフトしています。次号第3回は、新作ジュエリーについて話を聞いていきます。