フィリフヨンカ(Fillyjonk) 第1回 古き良き下町、ものづくりの街で

さまざまな作品を手づくりしているクリエイターの創作や生活を紹介する「ピックアップクリエイター」。今回は、精緻でいて力強さもあるアクセサリーで人気の「フィリフヨンカ」を紹介します。兼森周平さん、平岩尚子さん、ご夫婦でもある二人のデザイナーが、東京・上野と浅草のちょうど中間の場所にあるアトリエで出迎えてくれました。インタビューは、まずは界隈の散歩からスタートです。
- SOUQ
- アトリエの前の道からだと、東京スカイツリーが見事に見えますね。
- 兼森
- そうですね。ここからだと真正面に見えます。
- SOUQ
- ツリーはたまに見たりします?
- 兼森
- 見ます見ます。
- 平岩
- イベントとかで遠くに行って帰ってくるとき、ツリーを見ながら「帰ってきたなあ」と感じますね。
- 兼森
- なんかまあ、大好きじゃないけど、ちょっとずつ好きになってますね(笑)。
- SOUQ
- この界隈は、下町って感じですごく人の匂いがしますね。
- 平岩
- 地元のお祭りとか盛り上がりますね。商店街の七夕祭りとか。あと、近くに合羽橋道具街があって、カッパにまつわる像が点在しているのですが、お寺参りのついでに、おじいちゃんやおばあちゃんが、カッパめぐりもしてますね。
- SOUQ
- この路地で撮影しましょうか。あの緑に覆われたお店がいい感じです。
- 平岩
- ここ元々八百屋さんだったんですよ。もうお店は閉めてますけど。
- SOUQ
- そうなんですか! かなり開けっぴろげですよね。
- 平岩
- いつもそうだよね?
- 兼森
- そうなんです。元八百屋の親父さんが、ずっとこの前をフラフラしています。長年のクセですかね。
- SOUQ
- なんか、古き良き時代の日本という感じでいいですね。アトリエに戻ってきましたが、とてもいい建物ですね。ここで始めてどれぐらいですか?

- 兼森
- 2年前からですね。
- 平岩
- 2年だっけ…あれ3年前? アトリエとして使う前に自宅として住んでたんですよ。そのあとにアトリエに変えて、住居は住みかえました。
- SOUQ
- 元々住んでらっしゃったんですね。住むにもよさそうですもんね。
- 平岩
- 古い民家で。昔は製本屋さんの職人さんの工房があったらしいです。オーナーさんがすごく気さくな方で、ここをこうしたいといえば、変えていこうか!みたいな(笑)。
- 兼森
- 夏は暑く、冬は寒いんですけどね。
- 平岩
- 鳩とか飛んできたらすぐわかります。足音で。
- 兼森
- 雨とか、直に音がしますね。
- SOUQ
- へえ。でもそれもいいBGMなんじゃないですか?
- 平岩
- そうですね。
- SOUQ
- この場所にアトリエを構えようと思ったのは理由があったんですか?
- 平岩
- 台東区に「デザイナーズビレッジ」っていうクリエイターの支援施設があるんです。廃校になった小学校をアトリエとして貸し出してるんですが、前はそこに入っていて。でも3年しかいられないんで、契約が切れる少し前から物件を探しはじめたら、ここが見つかって。すごくいいのでキープしなきゃということで、急いで借りて住んでたんですよ。

- SOUQ
- では、ずっと台東区なんですね。
- 平岩
- そうです。御徒町がジュエリーの問屋街で、職人さんたちもすごくいっぱいいらっしゃって。自転車をちょっと走らせたら、キャスト屋さんやメッキ屋さんも近いし。仕事がすごくしすいんですよ
- SOUQ
- ということは、ジュエリーをつくってらっしゃる方が、台東区に多かったりするんですか?
- 兼森
- 多いですね。あと革小物の問屋さんも多いので、ここからもう少し浅草の方へ行ったところには、革製品をつくってる方がいっぱいいらっしゃいます。
- 平岩
- 近くに知り合いの洋服屋があるんですけど、その子も「デザイナーズビレッジ」卒業。そこを卒業して台東区にアトリエを構えるクリエイターは多いです。
- SOUQ
- それはやはり問屋とかが多く、材料を調達しやすいからなんですかね?
- 平岩
- それもありますし、「デザイナーズビレッジ」も、卒業後に台東区内にアトリエを構えてくれる人を優先して入れてくれるんです。職人さんの街なんで、デザイナーを誘致して街を活性化しようという活動の一環らしくて。

- SOUQ
- ものづくりの街として、これから台東区は注目ですね。ところで「フィリフヨンカ」は、ジュエリーをつくりはじめて何年ぐらいになるのですか?
- 兼森
- 台東区の前は、名古屋で3年やってました。2010年からなので、今年で8年目です。
- SOUQ
- 兼森さんは建築を学んでらっしゃって、平岩さんは彫金を学んでたとお聞きしましたが。
- 平岩
- はい、そうですね。私は大学ではデザインを全般的に学んでいましたけど。兼森は建築の勉強で海外へ行ったりとかしていて。私は、アクセサリーのブランドにアシスタントとして入らせてもらって、そこから独立してから2人でやりだしました。
- SOUQ
- そこから8年。
- 平岩
- あっという間に経っちゃいましたね。
- 兼森
- 法人化したのは2016年。ここに来たタイミングですね。それまではずっと個人でやってました。
- SOUQ
- 建築はどういう関係に携われていたのですか?
- 兼森
- ボクはもういろいろで。高校から建築学科だったんですけど、その頃は構造系というか、デザインとまったく関係ないところでやってたんですけど、大学に入ってからは意匠系ですね。デザインのことを勉強していました。で、もうちょっと勉強したいなと思って、スペインに留学したんです。そして、帰ってきたらアクセサリーをやり出しているという(笑)。

- SOUQ
- まさかジュエリーやアクセサリーをするとは思ってなかったですか?
- 兼森
- そうですね。
- 平岩
- 最初はあれだよね? ディスプレイやったりとかコンセプト的なことを相談してて。自然にユニットになっていった感じ。いっしょにやろうって言って始めたわけじゃないんで、必然的にそうなっていった。
- SOUQ
- 平岩さんは、ずっとジュエリーをやってらっしゃったんですよね?
- 平岩
- そうですね。最初はお手伝いのような感じで始めたんですが、だんだん自然にジュエリーの道に入っていきました。
- 兼森
- 自分の性格的には、こういう仕事のほうが向いてる気がします。建築の仕事は、クライアントの意向をちゃんとデザインに反映しないとダメじゃないですか。それが絶対イヤで(笑)。自分で考えて、これが一番いいと思ったものを見てもらって、「いいねえ」と言われたいので。こっちのほうが性格的に合ってます。
取材・文/蔵均 写真/衛藤キヨコ
フィリフヨンカ アトリエショップ

東京都台東区松が谷2-30-4
毎週土曜日のみオープン
11:00ー19:00
まわりはどこか牧歌的で人の匂いもして、ものづくりには最適の環境のアトリエでした。次回・第2回は、兼森さんと平岩さん、2人でどのようにアクセサリーをつくっていくのかについてうかがいます。