フィリフヨンカ(Fillyjonk) 第2回 男性的感覚と女性的感覚

職人さんも多く、ものづくりをするにはうってつけの東京・台東区にアトリエを構えるアクセサリー・ブランドの「フィリフヨンカ」。デザイナーの兼森周平さんと平岩尚子さんに、お互いの創作の違いについて話をうかがいました。
- SOUQ
- 兼森さんは建築を学ばれたということで、その要素をアクセサリーに盛り込んでいるんですよね?
- 兼森
- そこまでじゃないですよ。でも考え方はそうかもしれないですね。
- SOUQ
- 考え方というと?
- 兼森
- 組み立て方と言ったほうがいいかな。最初にコンセプトを考えて、それに沿ったデザインをつくっていくのが、建築のデザインだと思うんです。
- 平岩
- 私と兼森では、つくりかたが全然違うんですよ。彼はコンセプトがまずあってそこから積み上げていくんですが、私は感覚的につくってみて、そこから要素を足していくみたいな。「フィリフヨンカ」は、デザインの途中で必ずお互いの手を加えるようにしていて、それがすごくいいなあと思ってるんですけど。どっちかが行き詰まったら、こっちにいってみる? みたいな。そうするとうまく作業が進んだり。たぶんそこらへんが他のアクセサリーブランドさんと違うところかも。だいたいが2人いると、1人がデザインして、1人が製造するとか…。

- 兼森
- 役割分担だね。
- 平岩
- 必ずひとつのものに、なるべく2人の手を入れるようにしていますね。そうすることで、私たちの強みというか、1人じゃできないことができてるんだなって、年を重ねるごとに思います。
- SOUQ
- アプローチの仕方がそれぞれ違うんですね。
- 兼森
- けど、同じものをつくってる。
- 平岩
- 好きなものはいっしょだから方向性はいっしょだけど、そのプロセスが全然違いますね。
- SOUQ
- お2人ともデザインされて、実際につくるのも2人で?
- 兼森
- はい。両方とも2人でやります。
- SOUQ
- このアトリエでつくってらっしゃるんですか?
- 平岩
- はい。道具は、歯医者さんのと一緒なんです。
- 兼森
- ワックスを捻じ曲げたり、くっつけたり、削りだしたりしながら、形をつくっていきます。

- 平岩
- それを御徒町に持って行って石膏の型に入れるんです。そして熱を加えるとロウのところだけが溶け出て、石膏に空洞ができるんですよ。そこにシルバーを流し込みます。
- SOUQ
- こんな細かい細工でもしっかりと形が出るんですね。
- 平岩
- 出ますね。家のアクセサリーの場合、まず並べて見て、煙突があったほうがいいとか、窓の形がどうとか。大きさとか高さとか。あと、重さも大事なんで、大きすぎたり分厚かったりしないように、二人でああだこうだやってますね。
- SOUQ
- やはり、そこも2人でのやりとりなんですね。
- 平岩
- で、兼森がつくって、どうしてもここらへんが気になる部分があるとすると、それを、ちゅちゅちゅと直して。その逆も然りで。そしたらいい感じになってる。
- SOUQ
- 家のリングとか、建築の要素を取り入れているアクセサリーって珍しいような気がしますが…。
- 兼森
- ないですね。

- 平岩
- ちょっと話逸れちゃうかもなんですが、建築の人って意外とファッション関係に進む人も多かったりして。
- 兼森
- いろんなとこにいるね。
- 平岩
- 建築を勉強していた人が、デザインを構築していくのが一番得意で、なんにでも派生できるのかなと思いました。カリキュラム的に。
- 兼森
- CADとかイラストレーターとか、一応デザイン系のパソコンソフトは使えますから。
- SOUQ
- 建築の場合、コンセプトがないとなかなか進められないという面がありますもんね。でもフィリフヨンカさんの場合は、それに加えて感覚的な部分が多いのかもですね。
- 平岩
- 一応コンセプトも考えるのですが、アクセサリーで一番大事なのは、結局着けたときの感じなので、アタマの中で考えすぎるより、まずは合わせてみて、そのときのボリューム感で落とし込む。そこらへんの女子的感覚と男子的感覚が混じり合うのがちょうどいいというか。私がつくりすぎちゃうと、かわいくなりすぎるし。
- 兼森
- 男の人がつくると、どうしても頭でっかちになりがちで、あんまりかわいくないね。

- 平岩
- それをちょっと変えたらかわいいのに。サイズ感をちょっとしぼったらいいのにとか。そこらへんのやりとりが結構重要だったりしますね。
- SOUQ
- 女性的感覚と男性的感覚はありますよね?
- 兼森
- それはありますね。あとボクが考えすぎて手詰まりになっているときに、彼女はもうスタートしている、手を動かし初めているので、それを見て、ほほーってなって、こちらも進むことはありますね。
- 平岩
- こっちはヒヤヒヤなんですよ。なるべく急かしたくないから待ってるんですけど。もうすぐ期日だし、どうしようみたいな(笑)。そうなると、手が動いて、貸して!って自分でやっちゃったり。私がよく彼に言うのは、“うまいことやる”ということなんですけど。そのうまいことを説明しないと納得してくれなくて。
- 兼森
- わかんない。説明してくれーってなっちゃう(笑)。
- 平岩
- でもやってみたら、うまい方法が見つかるじゃないですか。そこらへんはがんばろう!みたいな(笑)。
取材・文/蔵均 写真/衛藤キヨコ
建築を学ばれていた兼森さんと、感覚を大事にするという平岩さん。2人のそれぞれのつくりかたが混じり合って個性を出している「フィリフヨンカ」のアクセサリー。次回・第3回は、その世界観について掘り下げていきます。