船越雅代 第1回 料理を超えて広がる空間

各界で活躍するクリエイターにお話を聞く「スークインタビュー」。2019年1回目は、世界中で食の仕事に就き、食とアートをつなげるプロジェクトなどでも活躍する船越雅代さんが登場。彼女がいま拠点としている京都・左京区のスタジオ「Farmoon」を訪れました。
- SOUQ
- とても素敵な空間ですね。ワクワクする高揚感もありながら落ち着きもする。独特の空気感です。
- 船越
- そうですか? ありがとうございます。
- SOUQ
- 船越さんは、世界中で食の仕事に就かれてたわけですが、ここに置かれているうつわなども、中東とかアラブとか、そういう雰囲気のものが多いのかなという気がしますが。
- 船越
- 中国のものもありますし、スペインのも日本の古いものもありますよ。
- SOUQ
- うつわは、こういうのが好きという傾向はあるんですか?
- 船越
- うーん、どうなんでしょうね。ストーリーが見えるようなものは好きですけどね。作家さんのものにしても、民藝とか古いものにしても。

- SOUQ
- すごくモダンなものとかは、ここにはないですよね。
- 船越
- 確かに。手のぬくもりが感じられるものが好きですね。
- SOUQ
- うつわと同様、土壁もそうですけど、この空間は原始的というか土着的というか、そういう雰囲気がありますね。
- 船越
- やっぱりそういうものに囲まれていると気持ちがいいですよね。左官をやってくれたのが宇治の職人さんなんですけど、彼は1年の半分は農家さんとして働いていて、この土も自分とこの畑から持ってきてくれました。
- SOUQ
- こういう空間は、食とアートを結ぶプロジェクトに関わるようになったからより意識が強くなったのか、もともとそういう意識はあったのか、どちらなんでしょうね。
- 船越
- 雇われシェフやコックをしていたときは、そこまで自分で空間をつくれないですけど、彫刻をやっていたこともあって、三次元の空間にはすごく敏感かもしれません。食べるとき、空間はすごく大事ですし、ここをつくりたかった理由も、たぶん一から自分でやりたかったからですね。

アーティストレジデンシーという試み
- SOUQ
- 自分の空間という意味では、初めての場所だったんですね。
- 船越
- そうです。母と祖母がお茶の先生だったんですけど、たぶんそれもあって、食は総合芸術かなあと思っていて。料理だけじゃなくて、食べる空間、環境、うつわや小道具も含めて。
- SOUQ
- ここは、まさに総合芸術という気がします。
- 船越
- 食事をするとき出会う人たちは、時間や季節もそれぞれ違うので、まさに一期一会ですよね。ここはそれを受ける場所だなと思っていて。もちろんここから発信もするけど、ここに集まってきたものをみんなで体験する。私が料理するだけの場所じゃなくて、アーティストレジデンシーみたいなこともやってるんです。
- SOUQ
- レジデンシーとはどういう意味ですか?
- 船越
- 研修というような意味なんですけど、食を通して表現したい人がここに滞在して作品づくりをする。昨日までジェシー・シュレンジャーというアーティストがサンフランシスコから来て、3週間ぐらいここに滞在していました。

- SOUQ
- それは食に直接関係する作品というわけではないんですね。
- 船越
- そうです。でも「Farmoon」という食の空間でしかできない作品をつくっていますね。お客さんといっしょにごはんを食べたりとか、彼が2階で制作しているところにお客さんが入っていって話したり。まあオープンスタジオみたいな感じですね。作品見て話すオープンスタジオってありますけど、そこに食が入るのはおもしろいなあと思っていて。

- SOUQ
- 「Farmoon」は週末の昼は茶寮、夜は紹介制のプライベートレストランをやってるんですよね?
- 船越
- はい。住んでる人が2階にいて、いっしょにお酒を飲んだり食事したり。こういう試みは初めてのことなのですが、その人なりのお客さんとの関わり方があって、いっしょに食べることで友達になったり、彼や彼女の作品を知ってつながっていくのは、本当におもしろいですね。
- SOUQ
- とても興味深いですね。アーティストたちは、どのようなきっかけで、こちらに来るようになるのですか?
- 船越
- ジェシーは、私がサンフランシスコの「シェ・パニーズ」の人たちといっしょになにかをやることが多くて、一度西海岸のワイナリーで私が料理をつくったときに来てくれたんです。
円卓って、すごい!
- SOUQ
- ここにある円卓もすごく印象的ですね。

- 船越
- イベントなどで、ロングテーブルにお客さんが50人ほど座って、という機会も多くて。あれはあれでフォトジェニックでかっこいいんですけど、コミュニケーションの幅が限られるんですよ。同じテーブルに座っているのに、話せるのは隣と前の人ぐらい。
- SOUQ
- 確かに、遠くの人には話しかけられないですね。
- 船越
- 2年ぐらい前、中国に20人ぐらいで紹興酒づくりの見学に行ったんですが、向こうの料理屋ってどんなところでも大人数が座れる個室があって、もう毎昼毎晩のように円卓をぐるぐる回して、食事をどんどん食べて、紹興酒がんがん飲んでたんです(笑)。それで円卓ってすごいなと思って。それだけ大人数でも、みんなの顔が一人一人見えるんですよ。
- SOUQ
- 見えますね。
- 船越
- それに、私がいま出している料理は大皿で出して取り分けてもらうのが多いので、ロングテーブルだと皿を運ぶだけでも大変。でも円卓だったらテーブルを回せばいいじゃないですか。やっぱり円卓ってすごい(笑)。それで、ここでも円卓を置きたいと思って、益子の木工作家・高山英樹さんにお願いしてつくってもらいました。

- SOUQ
- 卓の下にあるのは臼ですか?
- 船越
- ちょうど益子で東北の臼を偶然見つけて、高山さんにこれを土台にしてもらおうと思って。そしたら、ここの名前が「Farmoon」なので、ウサギの餅つきにもつながって。
- SOUQ
- なるほど、“遠い月”で。
- 船越
- 狙ったわけじゃなく偶然なんですけどね。
さまざまに組み合わされた照明
- SOUQ
- 円卓の上の照明も素敵ですね。
- 船越
- これは私がつくった…というか組み合わせました。木の部分は、買ったときにインド製ということはわかっていたのですが、なにに使うものかわからなかったんですよ。それで、こないだインド人の方がいらっしゃったので聞いてみたら、「これはターバン掛けに違いない」っておっしゃって。
- SOUQ
- そういえば! インドでは日用品なのかもしれませんね(笑)。

- 船越
- 照明の部分は京都の「PARABOLA」という店に持って行って、これ照明にしたいんですけどって言ったら、古いシャンデリアのパーツを出してきてくれたので、真ん中をぶった切って、インプラントみたいにボルトを通して真ん中に入れて。上には益子で見つけた自在鉤を引っ掛けて、京都のアンティーク店で買ったフランス製のクリスタルを上に乗せています。
- SOUQ
- かなりいろいろなものが組み合わさってるんですね(笑)。
- 船越
- できてからは「Farmoon」らしいなと思いました。
取材・文/蔵均 写真/桑島薫
「Farmoon」は、“Food”や“Rabit”、“Masayo”など卯年の船越さんにとって大事な言葉から名付けられたといいます。円卓の下の臼にもつながるとは、すばらしいネーミングですね。次回第2回は、この空間につながる世界の旅について話をうかがいます。

Farmoon
京都市左京区北白川東久保田町9
TEL:なし
「茶楼」
11:00ー17:00
月ー水曜休
※夜は紹介制のプライベートレストラン
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