船越雅代 第2回 世界中を旅する料理家

各界で活躍するクリエイターの話を聞く「スークインタビュー」。今回は、京都のスタジオを拠点に活躍する船越雅代さんにインタビュー。第2回は、ニューヨークから世界への旅について話を聞きました。
- SOUQ
- 船越さんは、大学がニューヨークだったんですよね?
- 船越
- そうですね。彫刻を学んでました。
- SOUQ
- アートの世界から料理の世界へ転身って、すごい方向転換だと思うのですが、きっかけのようなものはあったのですか?
- 船越
- 小さい頃からずっと料理は好きでやってたんですけど、プロになろうとは思ってなかった。アーティストになるんだと思っていたので。でも表現の方法として料理のほうが自分が表したいものを自然に出せると思うようになってきて。アート作品に食材を使ったりして、境界線がだんだんわからなくなってきたというのはありますね。
- SOUQ
- 表現方法としての料理だったわけですね。
- 船越
- はい。料理の方がストレートに表現できるなと思ったので、ニューヨークの料理学校に入って学び、何軒かレストランで働きました。
- SOUQ
- レストランでは何年ぐらい働いてらっしゃったのですか?
- 船越
- 9年ですね。

- SOUQ
- それからヨーロッパでも働いてらっしゃったんですね?
- 船越
- そのとき働いていたレストランのシェフが、パリへ研修に行ってこいと言ってくれたので、3カ月なんですけど、レストランで働きました。そして、それをきっかけにバックパッカーで一人ヨーロッパ中を回ったんですよ。
- SOUQ
- どういうところを回られたんですか?
- 船越
- フランスに始まって、イタリアに行って、スペインをずっと回って、アルヘスシラスという街からフェリーに乗ってモロッコに向かって、モロッコを1カ月ぐらいかけて北から南まで巡って、一度フランスに戻って、インドにも行ってみたかったのでインドに飛んで北を中心に回り、それからタイ、ベトナム、インドネシア、中国、そして一度海から日本を見てみたいと思ってたので、香港から横浜港まで船で帰ってきました。
- SOUQ
- ものすごく壮大な旅でしたね。すべて回るのに3、4年はかかったんじゃないですか?
- 船越
- いえそんなに。1年ぐらいです。

- SOUQ
- たった1年で! それは駆け足でしたね。船で帰ってこられたんですが、のちに船上のシェフをすることになりますね。
船上シェフという貴重な体験
- 船越
- はい。ニューヨークで一緒に働いていた友達がジャカルタにいたので、しばらく彼女といっしょにインドネシアを旅したんですけど、そのときに船のオーナーと出会ったんですよ。
- SOUQ
- 旅の途中の出会いだったんですね。
- 船越
- フランスで船を買ったばかりで、それをバリまで持ってきていて。ちょうどその船のシェフを探していたらしくて、日本に帰ってから「興味ない?」という連絡があって。ニューヨークに帰ろうと思っていたんですけど、船のシェフだったらいろいろ連れて行ってくれるんだろうかとちょっと興味があって、一度バリまで船を見に行ったんですよ。
- SOUQ
- フットワーク軽いですね。
- 船越
- そしたらその船が、全長50m、重さ350tぐらいある船なんですけど、もともとレストランのオーナーが持ってた船だったみたいで、すごくキッチンがきれいで広くてプロフェッショナルなつくりになってて。これはやってみたい!と思って引き受けたんですよ。

- SOUQ
- なかなか船のシェフをする機会ってないですよね?
- 船越
- そうですよね。私も全然知らない世界だったし、その船のオーナーはサーフィンブランドの社長でもあったので、パプアニューギニアとかフィジーとかティモールとか、行くところ行くところがなかなか行けない場所だし、海も波もすばらしいところに1ー2カ月逗留しているんですよ。
- SOUQ
- 優雅ですね。船ではどんな料理をつくってたんですか?
- 船越
- 船には冷凍庫や冷蔵庫のスペースがふんだんにあって、クレーも入れて20人分ぐらいの料理を毎日つくるので、出航する前にものすごい量の買い物をするわけです。お肉は冷凍するし、なんでもあるんですけど、やはり新鮮な食材が必要で。だから現地で、青空市場みたいなところに行ったり、漁師さんが船に売りにきたり。出会った食材に合わせて料理をするということをしていましたね。
- SOUQ
- 苦労もあるんでしょうけど、それに勝るおもしろさもあるような気がします。
- 船越
- そうですね。昼はいろんな国の料理をつくって、夜はコースでいろいろやるんですけど。なんにもないところに行く船なので、みんな食をすごく楽しみにしていて。旅のすごく大事なパートなので、飽きずに楽しんでもらえるようにつくっていました。

建築家の紹介でバリのホテルへ
- SOUQ
- 貴重な経験でしたね。船のシェフを終えたあとは、また日本に戻って来られたんですか?
- 船越
- そうです。
- SOUQ
- そのあと、バリのホテルで働かれたわけですが、それも船からのつながりで?
- 船越
- いや、それはまた別のところからの依頼なんです。これもジャカルタに行ったときのつながりですが、バリに住んでいるオランダ人の建築家が、バングラデシュ人の私の友人が持ってるホテルでシェフを探しているということで。友人に興味あると言ったら採用してくれて。
- SOUQ
- 船越さんの世界的な人脈ってすごいですね。そしていつもすごくいいタイミングで声がかかる。
- 船越
- そうですね。ほんとに(笑)。私、最初のニューヨークのレストラン以外は、職を探したことがなくて、ほんとにご縁で。ありがたいことです。
取材・文/蔵均 写真/桑島薫
ニューヨークから始まり、世界中を旅して料理をしてきた船越さん。次回第3回は、彼女が想う理想の料理について話を聞きました。
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