船越雅代 第3回 くくりのないお菓子や料理 | SOUQ ZINE スークジン

船越雅代 第3回 くくりのないお菓子や料理

船越雅代 第3回 くくりのないお菓子や料理
世界を巡り活躍する料理家・船越雅代さんへの「スークインタビュー」。今回は、「Farmoon」をつくったきっかけや、彼女がつくる料理やお菓子についてお話を聞きました。
SOUQ
世界中で料理をしてきた船越さんですが、当時は日本で店を持ちたいとは思わなかったのですか?
船越
うーん、どうなんですかね。私東京出身だったんですけど、自分のお店を持ちたいという気持ちにはまったくならなくて。
SOUQ
そうなんですか? なんででしょうね。
船越
なんかねえ、私が最初にニューヨークで働いた「ブルーヒル」というお店が、ダン・バーバーというシェフの店なんですけど、彼がすごく哲学を持っている人で、コネチカットに家族で農場をもっていて、その名前がブルーヒルっていうんですけど、彼のところで働いたのがすごく大きい気がします。
SOUQ
有名なシェフですよね。
船越
彼は、サステナブルな農法で育てた素材を使う人で、すごく真面目でセンスもよくて。そこでエグゼクティブシェフをしてたマイケル・アンソニーって人が私の師匠なんですけど、彼らと最初に働いたのは大きくて。ただおいしいものをつくることも大事なんですけど、それを正直にどれだけオープンにできるかというのが彼らの哲学で。ニューヨークみたいな食がエンターテインメントに寄りがちな街では、そうできるのは珍しくて。
船越雅代
SOUQ
なかなかできなさそうです。
船越
東京もやっぱりすごい大きな都市なので、生産者さんとあまりに距離があるし。なんでも集まりますけど、実感がないっていうか。そういう中で自分の店を築くというイメージがあまり湧かなくて。
SOUQ
そうなんですね。でも東京ではないにしても、どこかで自分の店を持ちたいという気持ちはなかったんですか?
船越
あまりお店を持ちたいというのはなかったんですけど、いろんなところでアートとして食を表現させてもらったり、プロジェクトに参加する機会が増えてきて、いろんな場所でいろんな表現ができるようになってきて。どこかにこれまで集めてきた思考やうつわを使って表現できる、自分の場所があればいいだろうなという思いが出てきましたね。
船越雅代
SOUQ
京都では「kiln」というレストランの立ち上げに携われましたね。
船越
はい。奈良でのプロジェクトにも参画したりして関西に住み始めました。住んでみて思ったのが、東京だとほぼ感じないんですけど、大陸とのつながりが京都や奈良で生活しているとその片鱗がいっぱい見える。それで料理も自然と大陸とつながっているようなものになっていって。シルクロードと言えば大げさかもしれませんが、それとつながったような気がして。
SOUQ
実際大陸を旅して知っていたから、よりつながる感じはあったのかもしれませんね。

時空を超えたお菓子をつくりたい

SOUQ
ここにあるお菓子も、うつわも含めてどこか大陸的な匂いがします。
船越
そうですか? お菓子も、それを見て食べられる方がそれぞれ描けるストーリーがあればいいなと思うんですけど。これはこういうものですというのは言いたくないんで。たとえばこれ…。
船越雅代船越さんがつくる菓子「遠月」。
SOUQ
さっきから、気になっていました(笑)
船越
うちのお菓子で、「遠月」というんですけど。この場所が「Farmoon」なので、そのまま日本語にしたんですけど、私たちにとって植物が生えるとても大事な土をイメージしてつくりました。土からとれる馬鈴薯の水飴にはったい粉をまぶしています。あとひまわりの種、ドライイチジク、シナモンとカルダモンが入ってるんです。
SOUQ
いま、味の想像が頭の中をぐるぐる巡りました(笑)。
船越
すごく大げさな言い方なんですけど、時空を超えたお菓子をつくりたくて。これを食べた人が、「古代のお菓子みたい」という人もいれば、「インドの味なのかしら」とか、食べた人によって感じ方が違ってくるようなもの。きな粉棒って駄菓子があるじゃないですか? あの食感を少しイメージしています。ちょっとムチっとしてるんですけど。人によっては懐かしい味だと思うし
SOUQ
このうつわもいろいろ想像させますもんね。和の趣があるうつわだったら、ああ和菓子かなって思ってしまいますけど。これはなんだろう?って
船越雅代
船越
これはハンガリーのうつわなんですけど、たぶん小麦粉とか穀物をすくってたものじゃないかなと思ってるんですけど。

“これをつくりたいからつくる”はやらない

SOUQ
こちらのお菓子は?
船越
これは「琥珀」というお菓子で、「遠月」が土だったら、これは鉱物をイメージしていて。
船越雅代
SOUQ
確かに! 鉱物っぽいです。
船越
ローズクォーツ、水晶のようなイメージでつくったんですけど。リンゴの紅玉を煮出して寒天と砂糖で煮るんですけど、そうすると硬いゼリーになるんですね。それを石のような形に切り出して。
SOUQ
とても石っぽいです。
船越
切ったものを乾燥させると、外側の砂糖が結晶化するんです。それで外はカリっとして、中はやわらかいゼリーに。色はリンゴの皮からつけてたんですけど。あとちょっとクローブが入ってますね。
船越雅代乾燥させている「琥珀」の状態を確かめる船越さん。
SOUQ
ありきたりな言い方なんですけど、無国籍という感じがしますね。ヨーロッパであり、アジアであり、アフリカであり、いろんな要素がお菓子とか料理に入っているのかなあと。
船越
そうですね。だから、もはや何料理というくくりはなくて、いろんなエレメントが入っているし、私もどういうジャンルの料理をつくっているかわかんないし。聞かれていちばん困るのは、「何料理なんですか?」という質問ですね。
SOUQ
夜は、その日ごとに料理も変わっていくのですか?
船越
旬があるので、季節や食材によって変わるし、毎日つくっていくことでおいしくなっていく料理もあるんですけど、私がここで勝手に目指してるのは、“これをつくりたいからつくる”ということをしないということ。
SOUQ
それはどういうことでしょう?
船越
こういう料理をつくりたいからこういう食材を集めるってことをしない。いま野菜は京都で自然農法をやってる農家を回って集めてくれる人がいるんですけど、彼が持ってきた野菜を見て料理を決める。魚は、毎日福井の敦賀まで行って自分で競りをして落としてくる方にお願いしていて。毎朝メールでリストがくるので、そこから選んでメニューを組み立てる。共同作業というか、やっぱりそれぞれのプロがいいと思ったものを素材に料理にするというのが私の仕事だと思うので。そこは受け身でいたいなと思っています。

取材・文/蔵均 写真/桑島薫

受け身で料理をつくるのがスタイルだという船越さん。次回最終回は、拠点の「Farmoon」を離れて、さまざまな活躍をする彼女にスポットを当てます。

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