船越雅代 第4回 食を通してわかりあう心 | SOUQ ZINE スークジン

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船越雅代 第4回 食を通してわかりあう心

船越雅代 第4回 食を通してわかりあう心
ジャンルを超えた活躍をする料理家・船越雅代さんの話を聞く「スークインタビュー」。最終回は、2月にデンマークで予定されている、ちょっとおもしろそうなイベントの話からスタートです。
SOUQ
いまは「Farmoon」がベースになっている思いますが、自分がいいなと思ったら、外に飛び出てプロジェクトなどにも参加されますか?
船越
はい、そうですね。
SOUQ
いまはなにか具体的に動いているものはありますか?
船越
2月にデンマークに行きます。
SOUQ
それはどういうプロジェクトなんでしょうか?
船越
「ボーゲダル」というビールをつくってる家族がいて。自分のところで麦からつくって瓶詰めまでやってるんですけど。その家族と仲がよくて、彼らと「サイレントディナー」というイベントをします。
SOUQ
「サイレントディナー」? しゃべらない晩餐ということですか?
船越
はい。前にも一度やったのですが、「ボータゲル」の古い工房に十数人が集まり、こういう趣旨だよというのを説明したあとは、畑へ行って、ビールをつくってるところを見て、テイスティングして、私の料理を食べてもらう。その間まったくしゃべらないんですよ。
船越雅代
SOUQ
そんなことができるものなんですね。
船越
これができるんですよ。「ありがとう」とか「ごちそうさま」の言葉もなしで、無言で帰るということにしたんですよ。招待客の中にはデンマークでも有名な作家さんとかがいて、「おもしろいのよ彼」って言うんですけど、しゃべれないんじゃわからないですよね(笑)

みんながイコールになる気持ちよさ

SOUQ
とてもおもしろい試みですけど、どういう発想で始まったんですか?
船越
「ボーゲダル」のご主人のキャスパーさんと奥さん、夫婦そろって禅に興味があるんですね。だからメディテーションという意味で、しゃべらないで何日か過ごすという体験をしてたりするんです。それと、なにかのイベントでキャスパーさんがロングテーブルで食事をしたとき、彼の両隣が日本人だったらしいんですよ。二人があんまり英語をしゃべれず、食事中ほぼ無言になってしまったみたいなんですよ。
SOUQ
日本人あるあるですね(笑)。
船越雅代
船越
それで最初はあちゃーと思いながら食べてたそうなんですけど、料理に集中できて思いの外よかったみたいで。西洋人って食事中の会話が大事で、会話するために食事をすると言ってもいいぐらい。でも日本人はそんなことないじゃないですか。昔の家庭だと「食事中にしゃべるな!」と怒鳴るお父さんがいたり。
SOUQ
昭和のちゃぶ台の世界ですね。
船越
それで、一度しゃべらないというルールを決めて食事をしたらどうだろうということになったんです。私も厨房から見ていたのですが、最初はみんなイーッとなって皿を叩いて音出したり、意味もなく何回も乾杯したりしてましたけど(笑)。
SOUQ
気持ちはわかります(笑)。
船越
だんだん環境になれてくると心が落ち着いてきて。すごくピースな空間になってきて。自然に笑い合ったり、言葉を超えて同じ味を体験するので意思疎通を図ろうとするのがすごくわかって。こちらもしゃべらないで料理をしながら見てたんですけど、おもしろかったですね。
SOUQ
自然とそうなるんですね。
船越雅代
船越
最後にハグして帰っていったんですけど。なんか不思議な体験で。みんなでしゃべっていると言葉でつながるから、たとえば10人が同じテーブルを囲んでいたとして、この人とはいっぱいしゃべれたけど、あの人とはあまり話せなかったなとか、そういう関係ができちゃうじゃないですか。でもその日はみんなの顔をしっかり覚えていて、みんながイコールでつながった。いまこれをいろんな国でやったらどうだろうということになっています。日本人はたぶんそんなに苦じゃないだろうけど。アメリカ人だと拷問かもって(笑)。

シチリアのマッチョなシェフたち

SOUQ
「サイレントディナー」一度体験してみたいです。デンマーク以外にも海外のプロジェクトはありますか?
船越
最近は北欧が多いのですが、それ以外だとオランダとかアメリカのニューヨークだったり。この夏はシチリアに行ってましたね。それはアーティストとして呼んでもらって。
船越雅代
SOUQ
どういう活動をされたんでしょう?
船越
大阪のイタリア文化会館から声がけしてもらいました。シチリア人のディレクターの人がいて、シチリアと日本をつなげたいというプロジェクトだったんですけど。彼は特に関西にすごい注目していて、関西に住んでいるアーティストや映像作家とか、それぞれの分野の人をイタリアに連れて行ってくれました。
SOUQ
イタリア南部と関西は、少し共通点があるのかもしれないですね。
船越
私は、トリュフ狩りをしたり、山羊の乳搾りをしてリコッタチーズをつくったり、シチリアの食文化を見せてもらって。さいごに、パラッツォーロという小さな街があるんですけど、そこのレストランで料理をつくることになったんです。シェフはマッチョな男の人ばかりで、最初はアジアから来た女の子がなにをするんだ?という冷たい目で見られていて。
船越雅代
SOUQ
シチリア島の小さな街だと、アジア人を見ることも珍しかったかもしれませんね。
船越
でも、彼らのこれがシチリアだというのをコースにして作ってもらって、そこに私なりのアプローチを加えて、それをディナーにして、街の人に食べてもらったんですよ。次の日に街のメインストリートを歩いていると、あちこちから「MASAYO!」って声がかかって。一度料理をすると打ち解けて、怖かったマッチョなおじさんたちがかわいい少年に見えましたね(笑)。言葉や文化は違っても、食を通すとわかりえることも多いから、これからもいろいろとつながっていきたいですね。

取材・文/蔵均 写真/桑島薫

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