ga.la(ガラ) 第1回 興味はいつも刺繍以外に

さまざまなジャンルで活躍するクリエイターを紹介する「ピックアップクリエイター」。今回は、植物画から起こした”柄”を刺繍で描き出すアクセサリーブランド「ga.la」の長野訓子さんに話を聞きました。長野さんに会いにいくと、まずは「長野刺繍」の工房に招き入れられました。ズラッと横並びで忙しく稼働する工業用ミシンと職人さんたちの背中を覗きながら、階段を登って「ga.la」のアトリエ兼事務所へ。
- SOUQ
- お家が刺繍のお仕事をされていたんですね。
- 長野
- 長野刺繍で受けているのはユニフォームのネーム入れやワッペン作成などのお仕事が中心なので、「ga.la」とは直接は関係していないんですけど、私自身は長野刺繍所属です。もともと大叔父が刺繍業を営んでいて、そこで働いていた父が独立して長野刺繍を立ち上げたんです。私が中学生の頃だったかな。


- SOUQ
- つまり、幼い頃から刺繍が身近にある環境だった。
- 長野
- いや、その頃は漫画家になりたくて家業の刺繍業には興味はなかったんです。
- SOUQ
- ええっ(笑)。
- 長野
- 家業を継ぐ気なんて一切なかったです。少女漫画が好きで、岩館真理子や大島弓子みたいなストーリーで読ませる漫画に憧れていたので、「りぼん漫画大賞」を獲って漫画で食べていこうと本気で思っていました。
- SOUQ
- 昔から絵を描くのが好きだったんですね。
- 長野
- 漫画だから線画ですよね。カラー絵はあんまり興味がなくて。今でも、「ga.la」のデザイン画もすべて鉛筆のドローイングで、絵の具などは使わずに描いています。で、漫画ですが、いざ描こうとしたら自分が描きたいものがない。いくら絵を描くことが好きでも、そこにモチーフとストーリーがないと漫画にはならないって気づいて、一作も仕上げることなく挫折しました。

描きたいモチーフを探す
- 長野
- その後は漠然と「デザイナーになる!」と思って、嵯峨美術短期大学の版画科に進みました。
- SOUQ
- やっぱり描くのが好きだったから?
- 長野
- いや、世の中にどんな種類のデザイナーがいるのか知らないまま、なんとなく美大かなって(笑)。漫画にせよ、美術にせよ、思いつきで何でもやってしまうタイプです。
- SOUQ
- 銅版画ではモチーフは見つかったんですか?
- 長野
- その頃は金魚を描いていました。ただ、なんというか、グロテスクな金魚。形がひしゃげていたり、目が飛び出ているような絵です。先生には評価してもらえたんですけど、少女をモチーフにした作品で知られる球体間接人形作家のハンス・ベルメールを引き合いに「エロティックなところが良い」というような講評で、自分の作品がそんな風に見られたのが、うわーイヤだなーと思って。それで金魚以外のモチーフを探して、学生最後の作品にハイビスカスをモチーフに描いてみたんです。


- SOUQ
- 動物ではなく植物に。
- 長野
- そう。植物なら同じ調子で描いてもエロスには見られなかった。これなら描けるとその時に思ったんです。卒業して銅版画からは離れたので、ちゃんとモチーフに向き合って絵を描くのはそこで一旦止めて、その後の20代は企業に就職したり家業に入って機械刺繍の基本を学んだりしていました。
「柄」に出会った「ga.la」前史
- SOUQ
- 卒業後は企業に就職されていたんですね。
- 長野
- 映画館と花屋とグラフィックデザイン事務所と、テキスタイルデザインの会社を受けました。
- SOUQ
- 希望進路が幅広い!
- 長野
- 映画館はね、学生時代に映画をつくりたかったから。あと、私、実は嵯峨御流といういけばなのお免状を持っているんです。嵯峨美にはいけばなの授業があって毎週お花を触っていたので、草花を扱う仕事っていいなと思って受けたんですけど、面接で「大変な仕事ですよ」と荒れた指先を見せられてだいぶ脅されて却下(笑)。それで、最終的に生地の図柄をつくる会社にデザイナーとして就職しました。

- SOUQ
- そこでは何をしていたんですか?
- 長野
- 海外の図案集を参考にして柄を起こし、日本のアパレルブランドさんに提案するということを3年半くらいしていました。ゼロからのものづくりではなくてアレンジのような仕事ですね。「描きたい」という欲は満たせなかったけど、海外のトレンドを学んだり、いろんな資料を見てアイデアをインプットしたり、柄をつくること、素材のこと、商売のことを学んだ。社会人としての基本も。とても貴重な体験ができたと思っています。
- SOUQ
- あれっ、もしかして「ga.la(ガラ)」って「柄」ですか?
- 長野
- それだけじゃないですけどね。
- SOUQ
- バレエのガラ公演のガラ?
- 長野
- 他に祝祭という意味もありますけど、もともとは意味はあまり考えずに、「ガラ」という音の響きが好きで名付けたブランド名なんです。でも、生地の会社にいた時にたくさんの柄を扱っていた経験もあって、あらためて考えると私は柄が好きなんですよね。そして柄物には花柄とか植物柄が結構多くあって、私はウィリアム・モリスの草花をモチーフにした壁紙デザインが大好きで。私の「柄好き」「植物好き」と、無意識につながっていたのかなとも思います。
取材・文/浅利芙美 写真/桑島薫
ユニークな経歴にあふれる長野さんの「ga.la」前史はまだまだ続きますが、次回は「ga.la」の植物もチーフが生まれたバックボーンについて、もう少し掘り下げていきます。