ga.la(ガラ) 第2回 植物の力を身にまとう

前回、植物をモチーフにした”柄”が好きだと語ってくれたアクセサリーブランド「ga.la」の長野訓子さん。その植物との付き合い方はやや独特でした。
- SOUQ
- 前回のインタビューで、長野さんが描きたいものが見つかるまでの紆余曲折についてお聞きしました。面白い経歴ですが、全然刺繍が登場しないのでちょっと不安になりました(笑)。
- 長野
- 刺繍のことは次回話しましょうかね。

- SOUQ
- 漫画、銅版画では描きたいモチーフを見つけられずにいた長野さんが、アクセサリーを始める時にはピタッと植物にはまったというのが興味深かったです。
- 長野
- それはどういう…?
- SOUQ
- アクセサリーのモチーフとして植物を選んだのは、思いつきのようでいて実は必然だったというか、そこには実は迷いがなかったように感じました。
- 長野
- うーん、とにかく直線を描きたくなかったんです。だから漫画でも人の顔ばっかり描いていて背景の建物はイヤだった。だから動物や植物を描いていて、スランプの時期には虫ばっかり描いていた時期もありますけど、有機的な線を求めていたのかもしれないですね。

イメージは「ナウシカ」
- SOUQ
- 「ga.la」のコンセプトでは以下のように語られています。
どんなときも、どんな場所でも
ただただ生きる、植物の生命力に魅せられ
そのシンプルで力強い美しさのかたちを
自由な線で描きデザインし「柄」にする - 長野
- これは、2015年に意匠登録をして「ga.la」を正式に立ち上げる時に、ロゴやコンセプトメイキングを相談した方につくっていただいた文章です。「クニちゃんはどういうイメージでやっていきたいの?」「どういう想いを込めていきたい?」といろいろと聞き出していただいて、それをもとにコンセプトをつくってくれて。
- SOUQ
- 素敵な文章ですね。
- 長野
- でも人に説明しようと言語化すればするほど、私の中のイメージから離れていってしまうもどかしさがありますね。


- SOUQ
- 「ga.la」に込める想い、何て答えたんですか?
- 長野
- 私の中ではナウシカやねん。
- SOUQ
- えっ(なにそれどういうこと?)
- 長野
- その方も同じ反応でした(笑)。『風の谷のナウシカ』って、腐海の森の植物が汚れた大地を浄化する物語ですよね。あの世界観が大好きで、映画の『風の谷のナウシカ』公開当時はものすごく影響を受けました。だからそれを描きたいとひたすら訴えて(笑)。まあ意味不明かも…。
- SOUQ
- 植物の力を装身具として身につけられる、それが「ga.la」ということなんでしょうか?
- 長野
- 噛み砕いていくとそういう想いです。これで全部伝わっているのかは心配ですけど、私にとっての植物はそういう力のある存在で、実際「ga.la」で植物画を描いている時も本当に楽しく鉛筆が動くんですよね。

いけばなで得た草花の感触
- SOUQ
- 普段からよく山や森に行くんですか?
- 長野
- 全然行かないですね。
- SOUQ
- えっ、植物をデッサンしに行かないんですか?
- 長野
- 家の近所のJR吹田駅から隣の岸辺駅までの間に、きれいな遊歩道が最近整備されて。
- SOUQ
- 手近!
- 長野
- インドアなんで(笑)。

- SOUQ
- ちょっと意外でした。勝手に「山ガールが大好きな植物をモチーフにアクセサリーをつくった」「今でも仕事の合間に山によく行きます」というストーリーを思い描いていたので。
- 長野
- でもね、なかなか良い遊歩道で、道沿いにいろんな植物を楽しめるんですよ。犬を連れて毎日散歩にいくでしょ。「今日はこの木を見に行こう」「あの花は咲いたかな?」なんてその日ごとに見どころがあって。
- SOUQ
- 遊歩道でデッサンしているんですか?
- 長野
- しないです(笑)。「きれいに咲いたねー」とか「昨日の台風は大丈夫だった?」とか、声を掛けて歩くくらい。

- SOUQ
- 声は掛けるんですね。
- 長野
- デッサンは画力を身につけるためのトレーニングにはなるけど、でも、私は「ga.la」で植物を精密に描きたいわけではないから。「ga.la」では目には見えない、もっと別のものがモチーフになっているというか。
- SOUQ
- 別のもの?
- 長野
- さっき短大時代にいけばなをやっていたことを話しましたよね。毎週授業で草花を触っていたんですけど、あの感覚が今も手に残っているんです。いけばなって、草花を切って、曲げて、伸ばして、形をつくるものなので、ただ目で愛でるのとは付き合い方が違うというか。目に見える姿の美しさというよりも、手で触れて感じた生命力の強さから刺激を受けているのかなと思います。
- SOUQ
- なるほど。
- 長野
- でも本当は山に行った方がいいんでしょうけどね(笑)。家で図鑑を見ているよりも表現の幅が広がるかもしれないし。でも、今は忙しくて、なかなかそういう時間が取れなくって。
取材・文/浅利芙美 写真/桑島薫
作家としてものづくりを行うほかに、作品を商品として人に届けるために日々奔走している長野さん。全国各地での催事出店先での接客、経理、商品の発送など、ものづくり以外の対外交渉にも結構時間を取られてしまうというジレンマも抱えているそうです。でも、刺繍作家としてだけでなくブランドの代表者として活動する中で、たくさんの出会いがあるのだと語ります。次回、3回目では「ga.la」の刺繍についてと、長野さんご自身のものづくりに対する姿勢についてお伺いします。