ga.la(ガラ) 第4回 糸と布が交わるところ

銅版画やテキスタイルデザイン、さまざまな作家活動を経て、布と刺繍でアクササリーを仕立てる「ga.la」へと至った刺繍作家・長野訓子さん。ブランド立ち上げから5年目となる今の想いや、今後の展望についてお聞きしました。
- SOUQ
- 長野さんは刺繍作家でありながら、人と向き合っている感じがしますね。
- 長野
- たしかに、ものづくりも楽しいですけど、催事出店などで全国各地に出向いていろいろな方に会えるのは面白いです。また、「ga.la」を始める前に作っていたコラージュのバッグがあるんですけど、一点物ということもあって、買ってくださった方がとても大事にしてくださっているんです。壊れても修理をして使い続けてくれたり「大切なので絶対に床には置きません!」とお聞きしたりすると、私の手元を離れた刺繍が誰かのそばで長い時間を過ごしているんだと思えて、こういうものづくりに携われるのは幸せだなって感じます。
- SOUQ
- アクセサリーは最も肌に近い装身具ですし、お気に入りになるでしょうね。
- 長野
- 銅版画をしていた頃と大きく違うのがそこなんですよね。版画作品はギャラリーで展示するので、作品を見せてただ感じてもらうというやりとりではなく、作家自身がコンセプトを語って戦っていかなくちゃいけない。学生時代の版画の先生が現代美術に造詣が深い方だったので、特にそういう指導をしてくださったと思うんですけど、でも、私にはそれが苦痛で。

- SOUQ
- アートというフィールドならではのコミュニケーションですよね。
- 長野
- はじめに言葉でコンセプトを説明するのではなく、商品を見て、気に入った人が「わぁ! これかわいい!」と手に取る、欲しくなる、商売というのはコミュニケーションだと思っています。だから今、「ga.la」を通じていろんな人とつながっていることがとても面白いです。
「ga.la」の新作構想
- SOUQ
- 今後の展望は?
- 長野
- この2年くらいベーシックな柄だけで展開してきているので、そろそろ新柄を出したいなとは思っています。新しいことをするのは大事だと思うし、アパレルの作家さんたちは春夏・秋冬のシーズンごとにテーマやストーリーを作って新作発表をしているじゃないですか。春や秋になったら何か新しいものを出すというクセづけをしないといけないなと思って。私ね、仕事の出張以外は本当にインドアで、休みの日は体力温存してずっとテレビばっかり見てしまうから(笑)。

- SOUQ
- アクセサリーはベーシックな展開が自然な気がしますよ。
- 長野
- でも、フェイスブックに3年前の写真がポンと出てきて、「うわっ、今と一緒やん!」って。
- SOUQ
- お節介な機能(笑)。
- 長野
- ベーシックな中にも新作はやっぱり必要じゃないですか。お客さんも自分も飽きちゃう。
- SOUQ
- 2019年リミテッドとか? 令和モデルとか。
- 長野
- あって令和カラーかな(笑)。


「徹子さん」の夢が叶った
- 長野
- 今年の夏に少し休みをとってフィンランド旅行に行くんです。そこで何かインプットできたら、作品にも反映できるかなと思っています。ここ数年は、カジュアルな商品が多いので、久しぶりにタペストリーとか大きなものを制作したいですね。
- SOUQ
- オーダーメイドの一点物とかも受けるんですか?
- 長野
- あっ! そういえば、聞いて!
- SOUQ
- えっ、何(笑)。
- 長野
- 先日、私が作ったネックレスを黒柳徹子さんに身につけていただいたんです。「徹子の部屋」の衣裳として。
- SOUQ
- 大きなネックレスですね。どういう経緯で依頼があったんですか?
- 長野
- 半年くらい前のバイヤー向けの展示会「rooms」で、オートクチュールのビーズ刺繍家の田川啓二さんが「ga.la」を見つけてくださいまして。黒柳徹子さんの事務所の関係者でもある田川さんは、徹子さんの衣裳を探されていたみたいで。で、ボディに飾っていた大きなネックレスを見て「これはオーダーもできますか?」と尋ねてくださって。お話を聞いているうちに、「うわっ、田川さんですね?! 私、この間の徹子さんと田川さんの展覧会も観に行ったんです!!」って興奮してお受けして。
- SOUQ
- 大ファンだったんですね。
- 長野
- 長野家は毎日「徹子の部屋」を観ながらお昼を食べていますから!

- SOUQ
- それは嬉しいですね。
- 長野
- 田川さんからは「ラメ系の糸でもつくってほしい」と次のオーダーもいただいています。こういう一点物の、自分の手をかけてつくるものもやっていけたらいいなと思っています。それこそ舞台衣裳を手掛けたり、大きなタペストリーをつくって個展ができたりしたらいいなとは思います。今はまだ忙しいけど。
いつか誰かの琴線に触れられたら
- 長野
- 「徹子さんに身につけていただく」という夢は叶ったんですけど、実はもうひとつ夢があるんです。
- SOUQ
- 何ですか?
- 長野
- イギリスに、ヴィクトリア&アルバート博物館という美術品や工芸品をコレクションしている美術館があるじゃないですか。私の刺繍をあそこに滑り込ませたいんですよね。というのも、ヴィクトリア&アルバートの収蔵品の多くは、誰ともわからない人が大昔に作った刺繍の生地とか柄とか、無名の優れたプロダクトデザインなんです。京都時代に通崎睦美さんとお話していた頃に思ったことでもあるんですけど、日本の銘仙のように誰が作ったかはわからないけど後世に伝わって行く美しさや強さに、私は魅力を感じているんです。だから私は、自分の名前を残すことよりも、自分がデザインした刺繍が何かの形で残り、誰かの琴線に触れてコレクションに加えられていったらいいなと思っています。

- SOUQ
- 長野さんと「ga.la」には、いろんな出会いと経緯がありましたが、最後にストンと落ちましたね。
- 長野
- うん、やっぱり私は布と草花が好きで、その2つが絡んでいるところで自分ができることをしているだけのように思います。たまたま家が刺繍を営んでいたけど、その機械と技術があるから布に柄を描くことができるし、機械刺繍は版画と同じで図案データがあれば複製ができる。なんだか、その時々で行き当たりばったりのようにいろいろやってきたけど、結局全部つながっているように思います。だから、今、「ga.la」をやっていることが、自分自身とても面白いなって思っています。
取材・文/浅利芙美 写真/桑島薫