gochisou(ゴチソウ) 後編 かわいいの先にある ポジティブなメッセージ

食べることを考えるひとつのきっかけに
gochisou(ゴチソウ)はどんなきっかけで誕生したのでしょう。気になってお聞きしてみると、「実は、大学院生の頃に構想はできていたんです」と坂本さん。 「このブランドを本格的に始動しはじめたのは、東京造形大学大学院を卒業した2016年になるのですが、その頃からパンの絵でテキスタイルを作るということはしていて、すでに食にまつわるものをモチーフにしようっていうテーマや構想はできていました。おいしいものを走り回って集めてくる〝ご馳走〟という言葉が好きで、ブランド名をgochisouにしたんです」

gochisouは、日本橋の「ビーバーブレッド」や富ヶ谷の「ルヴァン」など、人気のパン屋さんとのコラボレーションアイテムもあるので、パン柄のイメージが強いかもしれません。実際、パン柄のアイテムが多いですし、パンというキーワードからこのブランドを知る人も少なくありません。しかし、gochisouのテキスタイルは、実はパン柄だけではないのです。「OYATSU」というラインでは、フルーツサンドやクッキー、カップケーキなどが描かれ、「Utsuwa」というラインでは陶器など焼き物の器をモチーフにしています。パンから広げて、食にまつわる様々なものをテキスタイルにしているのは、ブランド立ち上げの頃から心に描いていた坂本さんのひとつの願いがあったからだと言います。

「今のこの世の中って、みなさんとても忙しいですよね。その影響で食事が簡素化したり、ゆっくりその時間を楽しむことができなかったり。食に対する興味が薄まっている人もいると思うんです。でも、本来食事ってとても楽しくて幸せなものだから、そういう流れをほんの少し寂しく感じたりして。gochisouは、食にまつわるモチーフを布にすることで、生地から食べることの幸福感を感じてもらえたらいいな、と思っています。そして、そこから美味しいものを誰かと共有することや食事の時間を大切にすることに繋がっていったらいいな、gochisouの生地が誰かの〝ご馳走〟になれたらいいな、そんなささやかな願いを抱きながら作っているんです」

モチーフに込められたポジティブなメッセージ
前編でも少し触れましたが、坂本さんのテキスタイルづくりは、モチーフとなるパンを手にとって、観察することから始まります。そして、実際に食べてから絵にしていくのです。ファンタジーではなく、あくまでリアリティ。それは、坂本さんのこだわりのひとつなのでしょう。
「思うだけじゃなくて行動に移すって、とっても大切なことだと思っています。だから、私はパン以外の柄でも、食べ物ならお店に足を運び食べるということをしますし、器なら産地を訪ねて窯元の方にお話をうかがったり器を手にしたりしているんです。ネットで情報を得ることもできますが、実際に行かないとわからない雰囲気や地域の風景や歴史がありますし、そこで感じたことや思い出があって初めて、gochisouの柄は生まれるんです」

そんな行動的な坂本さんだから、gochisouというブランドも常に進化し続けています。今回の新しいコレクションも、新たな挑戦をふんだんに盛り込んだテキスタイル。お家時間を大切にしている人が増えていることにも注目し、生地自体にも一段とこだわったのだそう。また、柄には初の刺繍を採用するという大胆さ。gochisouらしいパン愛はそのままに、今までとは少しだけ違う新鮮な展開をしています。
「新作は、気持ち良さを追求するために、山梨の工場で生地を織ってもらいました。また、柄も初めての刺繍に挑戦したんです。できないことやわからないことも多く、工場の方には大変お世話になったのですが、刺繍はプリントとはまた違う魅力が生まれるということがわかりましたし、これからの新しい発想にも繋がりそうです」

「私、新しいことに挑戦するの、好きなんですよ!」坂本さんは、満面の笑顔でこう言います。この彼女の前向きさこそ、gochisouの根源なのかもしれません。よく考えれば、食べることは生きることのベースであり、生きようとするから生まれるのが食という行為。そう気付くと、描かれている美味しそうなパンや愛らしいスイーツ、食べるために必要な器も、全てがとても前向きなものに思えます。見ているだけでほっこりと癒されるだけでなく、今日も幸せに生きよう!と背中を押してくれるテキスタイル。それが、gochisouなのでしょう。

取材・文/内海織加 写真/宮川ヨシヒロ
Creator/Brand

美味しいテキスタイル
gochisou(ごちそう)
gochisouは食をテーマにデザインするテキスタイルブランドです。美味しいものを食べたときのようにひとを幸せにさせるテキスタイルを目指しています。話題のベーカリーやドーナツ屋とのコラボレーションや、日本の伝統的な器をモチーフにしたシリーズを発表しています。昔ながらの手捺染を用いて鮮明な発色にこだわったテキスタイル商品を開発しています。