hatsutoki(ハツトキ)前編 自然や生活の豊かさを生地に落としこんで

「その土地に根っこを生やしていく感覚のようなものがあって。最初の頃はその感覚がわからなかったんですけど、東京から夜行バスで来て西脇に降りたときから、ちょっとずつ根を張っていったんですよね。根を張ると、そこから動きにくくなる不自由な側面はあるのかもしれないですけど、その土地の栄養をもらえる感覚があって、根を広く張れば張るほど、その土地の文化だとか先人たちが耕してきた知識だったりというのを吸収できるようになってきていて。そうすると収穫も多くできる。その収穫物が生地だったり、クリエイションだったりすると思うんです」。
東京出身の「hatsutoki」のデザイナー・村田さんは、7年前に西脇にやってきてからこれまでのことを、こう語ってくれました。

すっかり西脇に根を下ろした村田さんがつくる「hatsutoki」の服は、どのような想いによって、どのように生まれてくるのか? それを知るべく、まずはセレクトショップ「itocaci」の北原さんと、村田さんが働く島田製織(しまだせいしょく)を訪れました。
SNSを使って、産地へ“シューカツ”
島田製織は、生地や織物の企画・開発をする西脇の商社。「hatsutoki」のプロデュースを本格化しようとしているときに、村田さんとの出会いがあったのです。

「7年前に学校を卒業するとき、デザイナーとして洋服をつくりたい、それを仕事にしていきたいという想いがずっとあって、でも同時に、じゃあどういうふうな仕事をしたら、ちゃんと世の中に貢献できるんだろうというのをすごく考えてたんですね」
答えを出すために、全国各地の産地を回った村田さん。その旅の途中で出会った近江商人に、“売り手よし、買い手よし、世の中もよし”という「三方よし」の考えを教えてもらいます。
「関係するみんなにとってよくないといい仕事はできない。デザインって本当にそうあるべきだなとそのときに思って。日本の素材は技術がすごく良くて海外からも評価されてるけど、産業の成り行き上、衰退する時期に差し掛かっている。そこに何かコミットする仕事はできないかなと思い始めて…」。

「デザイナーが産地を拠点にするというのは、その頃まだほとんどなかったんだけど、そういうやり方ってどうだろう? とそのとき初めて思いついたんですよ。デザイナーは東京や大阪のトレンドの最先端にいなければならないことはないよなと思って」。
地方の産地を就職先と想定した“シューカツ”を村田さんが始めたのは2012年。まだいまほど企業がSNSをビジネスツールとして利用してなかった頃で、村田さんはあえてツイッターやフェイスブックの検索で就職希望会社をフィルタリングしていきます。
「企業の“何かしよう、変わろう”という気持ちがSNSだから見えると思っていて。今だったら、逆に手紙とかのほうがいいのかもしれないですけど」。
「hatsutoki」を売るショップとして
村田さんのフィルターに引っかかったのが島田製織で、島田さんは直接社長に「こういう想いで産地で服をつくりたいんです」というメッセージを送り、採用されます。それから7年。村田さんの想いは多くの人に届き、服を販売する人の中でも「hatsutoki」ファンが増加。大阪・中津にある「itocaci」の北原さんもその一人です。

「『hatsutoki』さんの服って、織物に関してずば抜けていいんですよね。うちではいろんなブランドを扱ってますが、本当に織物が群を抜いてよくて、このクオリティのアイテムをつくっているのに、比較的手を出せる価格というのも魅力です」。
毎シーズン制作の現場を回ったりとか、いろんなショップを見て回るという北原さん。「hatsutoki」の魅力について、まだまだ語ってくれます。


「やっぱり『hatsutoki』さんの洋服って、ベーシックというか、パッと見たときのデザインが奇をてらっているかというと、そうでもない。でもすごく計算されてつくられていて細部にすごくこだわっているのは、取り扱っているとわかるんですね」。

伝統的な播州織の特徴と言われるのが、先に糸を染めてから織る「先染織物」。北原さんは、「hatsutoki」の服には先染織物の良さが凝縮されていると言います。村田さん、先染めのよさってどういうところにあるのでしょう?
「やっぱり色に奥行きがあるところですね。この服はウールが結構入った秋冬物なんですが、黒いウールの隙間からベージュっぽい糸が見えますよね。これはベースにベージュとネイビーの糸を仕込んでるんです。その上に黒いウールが綾目でのっかるようにしてて、隙間からコットンが見える。こういう色の深みはやはり先染めならではですね」。

「高級感が違いますよね。染めにもいろいろとありますけど、その中で先染めにしか出せない色もあると思います。今僕が着ているシャツも「hatsutoki」なんですが、光の当たり方でワインレッドに見えたりブラウンに見えたり。当店のお客様にもそういった色の変化を見ていただくのですが、非常に喜んでいますね」と北原さん。

光が落ちてくる感覚をデザイン
播州織のよさを生かしながら、もっと幅を広げようと一宮のような他の産地、奄美大島の泥染などとコラボレーションをしている村田さん。東京・青梅の藍染屋さんに染めを依頼している「本藍染」シリーズの生地は、先染めと後染めの技法を組み合わせているそうです。
「素材はコットンとラメを組み合わせてます。白い生地を藍染めすると、コットンだけが染まるんですね。ラメは化学繊維なんで色に染まらずに柄が浮き出てくくる」。

産地をまたいでものづくりをすることで、違う技術やマインドが組み合わさり。今までになかった新しいものが生まれるという村田さん。西脇に来てから、工場に通い技法や工程を理解していくことで、ちょっとずつ引き出しを増やしていったと言います。そんな村田さんをして「このパターンをつくるのは難しかった」と言わしめたのが、今年の夏の新作「木漏れ日」シリーズ。このデザインは、どのような発想で生まれたのでしょうか。

「生地をつくるときのスタートとして、僕らがふだん産地の中で暮らして感じていることだったり、土地の空気みたいなものを閉じ込めたいなと思っていて。だから「hatsutoki」の生地は、自然をモチーフにしたものがよく登場するんですけど、今年の夏は、木漏れ日のパラパラと光が落ちてくるような感覚を生地のパターンに落とし込んでデザインしていきました」。

ここで、北原さんが前から村田さんに聞いてみたかったという質問が出ます。
「村田くんって、まずテキスタイルデザインから入るの? それとも服のイメージからまず入って、こういうテキスタイルにしようとなるのか。どっちから入ることが多いんだろう?」

「どっちもあります。でも、先にこういう気持ちで着て欲しいというイメージがあることが多いですかね。「hatsutoki」だったら、自然や生活の豊かさだとか心地よさとかを感じて欲しいというのがあって。そこから暮らしの中でのインスピレーションを生地に落とし込んでいってるから」と村田さん。
一番最初に考えるのは着る人の気持ちで、その中で服が、生地がどうあるべきかを考えるという村田さん。「hatsutoki」の服がどういうシーンで着られているか具体的なイメージはあるのでしょうか?
「月並みですけど、旅行に行くときに着てもらえたらいいなと。シワになっても服として美しいかどうか、そういうところは生地の設計に関わってくるので、一番最初に意識しておきます」。
確かに「hatsutoki」の服は、旅に持っていくのにぴったり。かしこまらずカジュアルなんだけど、どこか品があって、旅のいろんなシーンで活躍しそうです。

「あとよくイメージするのは、家に誰か人を招くときとか、そこまでフォーマルじゃないけどちょっとしたきれいな服を着ときたいじゃないですか。そういうときに、「hatsutoki」が一番得意な、細くてきれいなコットンってすごくぴったりなんですよ。素材のイメージとシーンがぴったりで、そこを見つけることが大事で、自分たちが得意としているところと、世の中で必要とされているところの一番いい組み合わせがなんなのかというのを見つけたり想像したりすることはすごく重要なんですよね」。
取材・文/蔵均 写真/桑島薫
itocaci
大阪市北区中津3-20-10
12:00ー21:00
火曜ー木曜不定休
https://itocaci.tumblr.com/
西脇で生まれる「hatsutoki」の服、そして播州織について語ってくれた村田さんと北原さん。次回後編は、播州織はどうやって仕上がっていくのか、西脇一の大きな工場を持つ東播染工を訪れます。
「itocaci / playのなつまつり」
2019年8月14日(水)~8月20日(火)
※催し最終日は午後5時終了
阪急うめだ本店10階『うめだスーク』中央街区5・6番小屋
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