hatsutoki(ハツトキ)後編 西脇一の工場で生まれる播州織

「播州織は大きく分けると、染め、準備、織り、加工の4つの工程に分けられるんですが、基本は分業制で、おばあちゃんが一人でやっているような家内工場のようなところも多いです。東播染工はすべての工程を請け負うことができるので、いろんな会社から仕事を受けていて、染めだけ、フィニッシュだけとかいう受け方もしています」。

小野さんいわく、糸を染めて生地をつくるまでを一貫してやっている工場は全国でもあまりなく、「hatsutoki」のアイテムも染めから織り、加工まで一貫して一緒にものづくりをしているそうです。
「播州織の素材は圧倒的に綿が多いので、アメリカ、中国、インドとかの綿糸、あとはリネン、ウールとかも集まってきます」と小野さん。大きな倉庫もあり、国内でも織物工場では大きい方で、西脇だと圧倒的に一番の規模だそうです。


糸のアーカイブは20万色!
まずは、播州織の特徴である先染めをしている現場を訪れました。
「糸は、色のアーカイブが20万色ぐらいあります。先染めが特徴の織物なので、やはり色はかなり重要。白だけでも何万色もあったり。播州織は紳士シャツの製造が多いので、青系が圧倒的に多いです」。


糸はまず試験染めをしてから本番染めをします。アパレル会社などは、カラーチップを持って来て「この色にしてください」と依頼することもあるそうですが、ここではすべて人の目で見て、それに近い色に染めていきます。まるで実験を行う理科室のような部屋で、試験染めが行われていました。


「『hatsutoki』でも、この色に染めてくださいというやりとりをしていますけど、一発で思い通りになることが多いですよ」と村田さん。

「品質管理も重要なので、糸がムラなく染まっているかをチェックします。最終的にこの編み機で糸を編んで、内側と外側の色の差がないか確かめるんですよ」と小野さん。
チーズではなく、ビームで巻き取り
実際に糸を染める現場へうかがうと、長くて大きな筒のようなものがたくさん置かれています。通常の織物工場だと“チーズ”と呼ばれる比較的短めの巻きになるのですが、大量生産が可能な東播染工では、“ビーム”と呼ばれる長い巻き取りでの染色もしているのです。

「ビームで染めるっていうのは西脇でしかやってないんです。チーズなら小回りがきくんですが、ビームは1本染めたら全部同じ色を使わなければならない。大量生産が日常な西脇ならではで、他の産地の人が見たらびっくりしますよ」と小野さん。

染色のための水は、近くの杉原川の水を地下に貯めて使っているそうです。
「西脇には、杉原川、加古川、野間川という大きな川が3本流れています。染色は水をたくさん使うんで、この川のおかげで西脇の織物業が発達したというのはあると思います」と村田さん

糊付けをするサイジング
次の工程として、染めた糸を糊付けするサイジングとなります。綿は糊をつけないと、毛羽立ちがあって織りにくくなったり、切れたりもするそうです。

「糊自体も番手によって調整して、量を変えたりしますね」と小野さん。番手というのは、糸の太さのことで、「hatsutoki」の服は、100番手という細い糸を使うことが多いのが特徴。数字が小さくなるにつれ、だんだん太くなっていき10番手、20番手、30番手あたりはかなり太い糸になります。


織るための準備として、経糸を通す作業があります。本来は分業制で家内工場だと手仕事でするところが多いのですが、東播染工では機械でやってます。この工程、「hatsutoki」ではどうしてるのでしょう?
「シンプルなやつは機械でやりますし、ちょっと変わった糸を使っているやつは手じゃないと無理なんで、職人さんに頼みます。「木漏れ日」のシリーズなんかはそうですね。強撚糸(きょうねんし)だから手じゃないとダメなんですよ。しかも晴れた日じゃないとダメ。経糸に撚りが強くかかっているので、湿気が多い日だとくるくるくるってバネみたいに巻いてしまうんですよ」。

さらに工場内を歩いていると、小さくてカラフルな糸巻きが…。
「これは廃材です。欠品してはいけなくて多めに染めるのでやはり残っていくんです。それをリサイクルするために巻き取って捨てるんですよ。この廃材を何かに利用できないかなということをいつも考えていて…」と小野さん。

いよいよ織りの工場を見るために、一度外に出てから向かいます。大工場から大工場への移動で、あらためてその規模の大きさを実感します。

「織りの工場には、全部で97台の機械があります。空気で動かしてすごく高速で織れるものがエアジェット織機、もう少し低速のものはレピア織機といいます」。

レピアは、シャトルの進化バージョンのようなもので機械を動かすそうで、リネンやウールなど織りが難しいものに使います。
「ちょっとややこしい糸はエアでは飛ばないんですよ。ナイロンとかツルツルした糸は空気のひっかかりがないから、エアジェット織機では織れない」と村田さん。
細かい加工の組み合わせも可能
最後にフィニッシュの加工場を訪れました。加工ができる工場は西脇で2社しかないそう。広大な空間に思わず息を呑みます。

「まず糊を落とし、風合いをやわらかくするのか、撥水するのか、固くするのか、いろんな技術で素顔を化粧していくような感じです。東播染工は、要望に合わせて技術者が仕上げていく、細かい組み合わせの対応が評価されていて。こんな大きな設備ですけど、小回りがきくんです」と小野さん。



「他の産地、桐生や尾州からも見学に来られますね。他の産地にない西脇ならではの設備があるので。糸づくりから出荷まで見れちゃうんで、学生さんたちの見学がすごく多くなってますね。そんなときは、小さな家内工業の現場も見てもらうようにしています」。
実際に見てもらうと、わかってもらえるし感じ取ってもらえるので、もっともっと見学を増やしたいという小野さん。これだけの工程を一挙にやっている工場は少ないので、本当により多くの人が見るといいなと思います。

工場を歩いていると、東播染工の年配の従業員の方が、「おー! なんじゃい?」と村田さんに声をかけます。とても親しげで、気持ちが通じ合っているような印象を受けました。
「やっぱりふだん顔を合わせるというのは大事ですね。すぐ会いに行けるというのは産地でブランドをやることの強みの一つ。『こないだつくってもらった生地が雑誌に出たよ』とか『こんなお店で売り出されたよ』っていうフィードバックができる。どうしても工場の仕事は流れ作業みたいな感じで、自分の目の前の仕事を追いがちでしょ? 自分がつくった生地がどういう服になって、どういう店に並んで、どういう人が着てるのかということがわかると、作業がもう少しやりがいのある仕事になるんじゃないかと思うんです」。
コミュニケーションによって、仕事にさらに奥行きが出てくるはずという村田さん。
「もっと言えば、この仕事が次の世代につながっていくかというところまで関わってくると思います。たとえば自分のお父さんが工場ですごく楽しそうに仕事して、つくってるってむちゃくちゃ大事ですよね。それを見て自分もその仕事をしようと思う。そうなっていくことは、産地を拠点にブランドをやる一つの大きな意味になると思います」。





東京から来て7年間西脇で暮らす村田さんが、地元になじみ、工場の人とも交流して生み出す「hatsutoki」の服。播州織のよさを活かし新しい刺激も加味しながら、これからも人の暮らしに寄り添っていくに違いありません。
取材・文/蔵均 写真/桑島薫
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