服部滋樹さん 第2回 うめだスークの現在進行形、そして未来へ。

第1回では、うめだスーク創成期についてふりかえってくれた服部さん。街や路地裏をつくる感覚で、導線やデザインをつくっていったという話をしていただきましたが、今回はうめだスークの現在、未来について語ってもらいました。
- SOUQ
- うめだスークでは、週替わりでいろんなクリエイター、ユニットなどが出店しているのですが、これは、当初からのアイデアでしたよね?
- 服部
- そうですね。1,500坪もの敷地になると、フロアの中に街があるというぐらいの規模でものを考えないといけない。俯瞰しながら、街の有りさまみたいなものを考えなあかんと思っていて。
- SOUQ
- 街は動いていますもんね。
- 服部
- そう。暮らす人が入れ替わり立ち代り出入りするから、街はやっぱりおもしろい。住む人の構成が変わるだけで、どんどん変わっていく。うめだスークもそれといっしょかな。

- SOUQ
- クリエイターが一つのフロアにこれだけ集まるというのは、珍しいことだと思います。
- 服部
- オープン当初、プランを立てていく中で、ここはクリエイターがたくさん来るような場所にしたいと考えていました。
- SOUQ
- 今、まさにそういう場所になってきました。
- 服部
- うめだスークにある「セッセ」は、昔からご婦人たちが、ずっと手芸を楽しんでやってらっしゃる。そういうものをつくったり、つくる楽しみを持ってらっしゃる人たち、自分でものをつくりたい、暮らしをつくりたいと思う人たちが、この街にやってきてくれたらいいなと。
- SOUQ
- 昔から、このような場所になる土壌はあったということですね。
- 服部
- つくることを楽しもうとしている人たちにはより新しい発見を、そして、つくったことない人たちには、つくるというきっかけを与えてあげられたらいいなと思います。

- SOUQ
- そういうきっかけをもっとつくるために、うめだスークはどんどんアップデートしてきました。2016年9月には、「スーク暮らしのアトリエ」がオープンしました。
- 服部
- このお店のコンセプトは、アーティストのアトリエでお食事させてもらったり、アトリエに足を運ぶから出会えるアイテムを手に入れたり、それに近い体験をここでしてほしいということなんです。
- SOUQ
- 実際に椅子に座れるようになっていて。そうするとうつわや道具の見え方もずいぶん違ってくるようです。
- 服部
- 本当にそう。こうやって座って手に取ってみると、自分が使っているシーンが鮮明に浮かんできて、不思議に欲しくなったり(笑)。


- SOUQ
- これからますます変化していくと思いますが、近々のことといえば…。
- 服部
- もうすぐ、文具売場と「セッセ」のリニューアルですね。
- SOUQ
- どのようなデザインの売場になるか期待ですね。服部さんには、これからも長くお世話になりますけど、そもそもうめだスークに携わるようになったきっかけはなんでしたっけ?
- 服部
- かつて「朝日現代クラフト展」というすごい有名なクラフトの展覧会があったんですよ。で、その審査員をやってて。その打ち上げパーティで、今のスークカンパニー社長の宇野さんから声をかけていただいたんですよ。もう10年ぐらい前ですね。

- 服部
- そこからは進展が早かったですね。デザインスケッチを描いたら、これはおもしろいプランだということでこのまま行ってくれと。
- SOUQ
- 宇野とは波長が合ったんですかね?
- 服部
- おもしろいなと思ったのは、デザインとかコミュニティの話で、「とにかく元気で楽しく長生きできるってなんやろう? 買うという行為がその人の人生を長く保てるんだったら、単なる消費の場所じゃないと思うし」と言ってらっしゃってて。話していると、めっちゃ未来を考えてる人やなと思ったんですね。
- SOUQ
- 未来?
- 服部
- ボクらの仕事って、未来に対する問いかけを今やることだと思うんです。今つくっているものを今に残すんじゃなくて、ちょっと先の未来に問いかけるつもりで提案する。宇野さんも同じく未来への問いかけを考える方だから話が通じたんですね、百貨店のあり方だけじゃなく。

- SOUQ
- なるほど。
- 服部
- クリエイターは、先のビジョンを持って、それぞれの未来を提案しているのだと思うんです。未来がこうあったらいいぞという、たくさんの意見を見聞きすることで、いろいろな共感が生まれていくんじゃないかと思うんです。
- SOUQ
- みんなが未来を考えるということですか?
- 服部
- そう。たとえば人口減少問題にしても、暮らしやすい子育て環境を考えたり、病院を増やすより予防医学を学べる街なんてのも面白そうだしね。これも選択のひとつじゃないですか。あらゆる仮説がある中で、クリエイターは選択してもらえる1個1個をつくっているはずなんです。そのチョイスによってハピネスが生まれるとしたら、クリエイターは、やっぱり未来に向けて何を問いかけているかというのがすごく大事なんやと思うんですよ。こんな未来もいいよね、あんな未来もいいよね。それが溜まっていったら未来のストックになるから。

- SOUQ
- なかなか今のことで精一杯で、まだまだ未来に目を向けられないというクリエイターもたくさんいると思いますけどね。
- 服部
- もちろん、もちろん。でも昔は作家を育てたスポンサーのような存在もいたわけじゃないですか。買うことでその作家が育った。「あの子、私が育てたのよ」みたいな(笑)。そういう関係性の接点もうめだスークではつくったりしているわけだから。
- SOUQ
- 昔でいう“タニマチ”という感じでしょうか。grafのタニマチっていたんですか?
- 服部
- それはないかなあ…でも、モノの売り買いではないけど、節目節目ですごくお世話になった人たちはいますね。
- SOUQ
- どういう方ですか?
- 服部
- たとえば、grafを立ち上げて2年ぐらいのときに、『Wall paper*』が取材に来てくれた。
- SOUQ
- デザインや建築、ファッションが載っているイギリスの有名な雑誌ですね。

- 服部
- 最初は京都に行くからどこかおもしろいところはないかということで、何を嗅ぎつけたのか来てくれました。日本人では安藤忠雄さんしか載ったことがない雑誌で、2番目に取り上げられたんじゃないかな。
- SOUQ
- それはすごいことですよね。
- 服部
- あと、まだ大きなブランディングをやったことがないときに、神戸の大きなお菓子メーカーさんがブランディングをまかせてくれたとか。ボクらの仕事を売り出すきっかけをつくってくれたという意味では、タニマチみたいなもんですよ。そういう意味ではうめだスークもタニマチですね。
取材・文/蔵 均 写真/桑島 薫
未来に対する問いかけを今やることが、ボクらの仕事だという服部さん。次回第3回は、服部さんが、grafが、未来に向けてやろうとしていることの話を聞いていきます。