服部滋樹さん 第3回 未来の課題を解決するデザイン

連載第2回で、クリエイターにとって、未来へ対する問いかけが大事だと語ってくれた服部さん。今回は、服部さんが関わっているプロジェクトの例も出しながら、未来についてもっと考えていきます。
- SOUQ
- いま服部さんが手がけられていることで、これは未来につながるなあというものはありますか?
- 服部
- 話は少しズレるかもしれませんが、いろんな方に、「よくいろいろとアイデアを出せますね」と言われます。
- SOUQ
- 本当に。感心します。
- 服部
- でもボクはアイデアを書きとめたりストックしたりはしないんですよね。アイデアのストック量というより、様々な課題のストック量が多い方がいいプランが出てきます。疑問に思ったことや、何故だろう?って思ったこと等々ね。
- SOUQ
- 課題がアイデアを生むということですか?
- 服部
- そう。企業や業界、生産地などが持っている課題を見つけることが前提。そうすると、こんなことできるよねっていうことがわかってくる。

- SOUQ
- 課題をつなげていく?
- 服部
- たとえば生産地の問題でいうと、ある村では昼間働ける人材がどんどん減っていく。でも隣の村に行くと、子育てが終わった40歳代の女性が働く場所を求めている。というようなことが総合的に見えてきたら、40歳代の主婦が生産できるもの、考えることを組み合わせれば、ある方向が見い出せるでしょ? 一つの産地だけを見ていてもわかんないけど、隣の村まで俯瞰して見ていけば、課題を解決するアイデアが生まれてくる。
- SOUQ
- なるほど。そしてその課題を見つけるときに、未来のことも考えていきたいということですよね?
- 服部
- そう。今じゃなくて未来を。30年後の医療、30年後の消費、30年後の農業、30年後の経済などを過去の時間軸から遡って、あっこういう進化をしてるんだったらこの業界はこっちへいくんだろうなあという仮説を立てていきます。

- SOUQ
- そういう意識は、grafを立ち上げた頃からあったんですか?
- 服部
- いや、若い時にはそんな考えはなかったと思います。でもつくることを改善することからやっていかないと新しいものは生まれない。たとえば大量生産で流通させていたものが下火になっている状況で設備を強化するなんて事にはならないですよね。本来は。
- SOUQ
- より効率性のいい道を探りますからね。
- 服部
- でも、仮に機械を1台止めると、その分その工程を担っていらっしゃった方々を呼び戻せるかもしれない。その方々が70代や80代の職人さんだったら、彼らから100年前の歴史とか、なぜこの技術が生まれたのかを口伝えに聞くことができる。そうすれば過去、20世紀の変化も同時に感じ取ることができるのです。
- SOUQ
- 今使っている機械が、なぜ導入されたのかもわかるかもしれませんね。
- 服部
- そう。で、家にこもってた80代のおじいちゃんが、工場に出勤し始め帰りに酒場に飲みにいって「オレ、最近こんな若いやつと仕事してるんや~」って周り人達に話し始める。そうなると街は途切れていた何かが繋がり始めますよね。それを側から見た人が、「それがブランディングですよ」って言ってくれたから気づいた。そういうふうにやるのは面白いと思えたし、だんだん次はどうなるかが見えるようになってきて。繋がりを生み出すコトが大事なんだって思えた。

- SOUQ
- いまいろんな場所で街づくりに関わってらっしゃいますが、それが生かされてるわけですよね?
- 服部
- 街の規模が違ったり、クライアントが行政であれ、少し違いがあれど方法は変わらないかもしれません。本当のコンセプトを見つけ出し、それを現代にどう伝えていくかということを考える。これはブランディングでもプロダクトの仕事でもほぼ変わってないですね。空間をつくるのも同じかもしれない。それがgrafのメソッドです。正しいコンセプトを見つけ出すことから始めないとものはつくれない。それには未来の課題がいちばん重要だと思うから見つける。いま学生ともそれをやってるんですよ。課題発見の感度を高める様な。
- SOUQ
- 教授を務めてらっしゃる京都造形芸術大学ですね。学生たちとは、どういう未来課題を見つけているんですか?

- 服部
- 「ラウンド・アバウト・フューチャーズ」というタイトルのゼミをやっていて。寄り道しながら未来を見つけるという意味なんですけど。ゼミ生が12人いて、彼らの好きなジャンルの未来を検証してリサーチして、全員でシェアする。めっちゃ面白いですよ。
- SOUQ
- 12人それぞれが違うジャンルの未来を検証するんですね。
- 服部
- 農業の未来を調べてる子は、ドローンが自動運転で農薬を散布する、トラクターが自動運転で動く、そのあたりは今もう稼働している。で、次はセンサーが水質管理をするというところまでこようとしている。なぜそうなっているかというと、人口減少問題に対して、農業からのアプローチでテクノロジーで解決しようという話ですよね
- SOUQ
- 農業の未来を考えると同時に、人口問題についても考えるいうわけですね。
- 服部
- で、それを横で聞いている医療を研究している子が、なるほど、農業の自動運転化というのは、医療のフェーズではこうなるかもしれんと考える。別のジャンルの未来をヒントにして医療のジャンルの中にも取り込んでいく。

- SOUQ
- 先ほどおっしゃってた課題をつなげていくということですね。
- 服部
- 経済の子もいれば、海について研究している子もいる。その子は、「地球で海を語らんかったら未来を語られへん」ということでやってたりします。
- SOUQ
- 海は地球のはじまりですからね。
- 服部
- 海の問題ってなに?というと、まずはマイクロプラスチックの問題を解決しないと、海の再生は行われないという話。
- SOUQ
- いま問題になっていますね。
- 服部
- そうです。昔洗顔剤に入ってたザラッとしたのがマイクロプラスチック。あれ、下水のフィルターにかからずに全部流れていくんですよ。それが海の中に何万粒って入ってる。これを食べる生物も発見されました。アメリカでは生産中止になったんだけど、日本ではみんな環境に悪いと思ってるから生産はしなくなったんですけどね。スタバは、2020年までにプラスチック製ストローを廃止することを決めました。

- SOUQ
- 海の未来を考えてのことなんでしょうね。
- 服部
- そのほか宇宙を研究しているやつもいて。10年後、30年後のタームで未来を語るという授業をずっとやってるんですよ。それぞれのジャンルを行き来することによって、リアリティの高い未来を鮮明に解いていくという。そこから解決していくというやり方なんですけどね。デザインを志す人たちが、みんなそれについて毎週議論して、フォルムのデザインがどうだとかの話よりも、むしろ考え方を学んでいるので、未来は、だいぶ面白くなりそうな気がしています。
取材・文/蔵均 写真/桑島薫
未来の課題を解決することが、デザインにとって重要だという服部さん。次回最終回は、今手がけているプロジェクト、そして服部さんの未来について語ってもらいました。