服部滋樹さん 第4回 最後は、彫刻家として死んでいきたい!

第3回では、デザインにとって大切なのは未来の課題を解決することだと語ってくれた服部さん。最終回は、現在進めているプロジェクトや、これから服部さんがやっていきたいことについて話を聞きました。
- SOUQ
- 今世の中でデザインを仕事にしている人って、どこまで未来のことや他ジャンルのことを考えてるんですかね?
- 服部
- 僕らの周りは、そういうオタクばかりなんで、考えてる人は多いですけどね。
- SOUQ
- 一般的にいうとどうなんですかね? そこまで考えてデザインをしている人はそれほど多くないような気もするのですが。
- 服部
- でも、そこまで考えないといけない時代になってきてるんじゃないかなあ。たとえばエネルギーの話にも、めっちゃ直結すると思います。再生エネルギーでどうやってモノをつくれるようにするかとか。
- SOUQ
- エネルギーの問題は、未来の問題でもありますよね。

- 服部
- 今、面白いことをやっている村が出てきていて。岐阜で小水力発電をする村があるんですね。
- SOUQ
- 小水力発電?
- 服部
- もう側溝ぐらいのサイズの小川でも水力発電ができるんですよ。それで村の電気エネルギーを300軒まかなって、電力会社に売電もしてて。年間7,000万円も電気を売ってたりするんですよ。
- SOUQ
- 7,000万円もですか! すごいですね。
- 服部
- その村の1年間の施策費用は1億8000万ぐらい。ということは3分の1を売電で賄ってるから、そんなに税収はいらない。税金が少なくなるんだったら、「おいらもやるっぺか!」って、小水力発電への支援をしてくれる。

- SOUQ
- どのような支援ですか?
- 服部
- たとえば、4代前ぐらいの人たちが、自分達の畑に水を引くために掘った小川を活用するべきやってなって。畑だけでなくて水力発電に応用する。最先端でしょ? だからみんなエネルギーについては自負あるんですよ。ボクらはちゃんとしたエネルギーで生きているっていう。
- SOUQ
- 自分たちでつくったエネルギーですもんね。
- 服部
- 村も潤っているし。それでみんな元気になってきて、昔はみんな使っていたけど廃止された銭湯をもう一度復活しようぜと。山にある木をみんなで伐採しに行って、チップにしてみんなの銭湯を再生している。エネルギーってなんなのか? ということを考えるだけで、デザインの編集欲が湧いてきて、拡がって行くように思うんです。

- SOUQ
- すごいパワーですね。
- 服部
- 最近おもろいなと思い出したのは、エネルギーって電気のことだけじゃないなあと。人がなにをエネルギーにして動いて、生活していってるかと考えたら、顔の見える人たちがいて、その人たちの顔を見たら、エネルギーが湧いてきて、返したくなるというエネルギー。その再生可能なエネルギーの中で、ボクらが生きていける未来というのはどうなるか? というのを考えられたらすごくいいのになと思って。
- SOUQ
- 服部さん、今日はすごくエネルギーについて語ってますね。
- 服部
- (笑)。エネルギーに最近すごく興味があって、何にでも置き換えられる話やなあと思って。クリエイターの人たちは、そういうことを意識していると思いますけどね。小さい生産をしている人は余計にそういうことを考えているんちゃうかなって。そうなると、ほんとに自給自足みたいな。つくることが自給することに変わっていく。そういうのはいいなあと思ってるんですけどね。

- SOUQ
- 究極的には自給自足になっていくんですかね。
- 服部
- なるんじゃないですかね。自分たちの生活だけを捉えての自給自足は想像できるんですけど、そうじゃなくて、仕事も含めたサイクルの中で、都市でも田舎でも、もしかしたらクリエイティブ・コミュニティの中でも自給自足という考えは成立すると思う。
- SOUQ
- 未来に向けて、いろいろとご活躍の服部さんですけど、近々の活動のご予定を教えてください。
- 服部
- 今年の11月に、パリで開催される「ディデイズ」というデザインのフェスティバルに出ます。

- SOUQ
- 服部さんはどのような形で参加されるんですか?
- 服部
- デザインフォーラムを現地の方と主催します。といっても、みんなでセッションするという感じではなく、ここでも学生とワークショップをやろうとしています。
- SOUQ
- やはり未来について考えるものですかね?
- 服部
- まあそれも含まれるのですけど。パリの5つの美大から学生15人を集めてもらって、食のリサーチをやってほしいとお願いしています。リサーチの方法は、まずパリ中心から3km圏内の食をリサーチする。で、次が30km圏内、それから300km圏内、最後に3m圏内としてるんですよ。
- SOUQ
- だんだん調査する範囲を広くしていって、最後にごく身近なところに帰ってくる。
- 服部
- 3km圏内だと、だいたい街の圏内なんですよ。食といっても加工業とレストランの人ぐらい。30km圏内に行くと、加工業に加えてちょっと農業、300km圏内まで出て行くと、牧畜とか一次生産者が出てきたり、昔の郷土料理とかも出てきたりする。都市からどんどん離れて行くたびに、食の問題というのが全部違って見えてくるはすだから、それをリサーチして発表をしてもらいます。
- SOUQ
- 面白いですね。

- 服部
- で、最後にもう一度、自分の周りの3m圏内の問題を解決してみるということをやる。パリの子たちって日常的に外食なので、料理をつくらない、つくれないかもしれない。だけど、そうしたリサーチをすることによって、恋人や家族との食の関係を考えるようになる。
- SOUQ
- いろいろなことに気づきそうですね。
- 服部
- はい。それを最後に発表してもらうんですけど、晩餐会をやりたいなと。
- SOUQ
- 晩餐会!
- 服部
- たとえば、30km圏内で見つけたもので前菜をつくり、300kmで見つけたものでメインディッシュをつくり、最後3kmのものでデザートをつくったりとか。それをアウトプットとしてデザインする。ダイニングテーブルをどういう形にするかとか、テーブルコーディネートをどうするとか。それをやることによって、パリからの距離感もデザインの視点で色々見えてくるんじゃないかと。
- SOUQ
- リサーチすることによって課題が見つかり、それを解決するためには、こういうデザインをしなければならないっていうのがわかってくる。
- 服部
- そうそう。

- SOUQ
- そういう課題がなかった場合、どうデザインしたらいいかもわからないんですかね?
- 服部
- アーティストじゃないですからね。デザイナーの場合はクライアントとか、誰かといっしょに仕事をしている。そういう人がいて課題を与えられるから、自分たちのデザインができるはずなんです。誰のためにつくっているのかというのもすごい大事だから。マーケティングを応用していたとしても、誰のためにというのは必ずついてくるはず。相手が見えることが、つくるエネルギーにもなりますから。だから、リサーチをしてデザインするのは面白いなあと思います。
- SOUQ
- 服部さんは、リサーチしにあちこち行ってますもんね。どこかへ行ったり、誰かに会ったりということに費やす時間はかなり多いんじゃないですか?
- 服部
- インプットは多いですね。移動中にアウトプットの整理をするって感じかな。
- SOUQ
- これからますます、いろいろな場所でリサーチしながら、街づくりやデザインに関わっていきそうですね。

- 服部
- う~ん…とはいえ、最終的には彫刻家で死にたいと思ってるんですよ。
- SOUQ
- そうなんですか?
- 服部
- 大学で彫刻を学んだ事もあり、、、。彫刻家として死にたいなと思っている。課題解決のデザインだけじゃなくて、創作としてのモノづくりはやりたいなと思ってるんですけどね。
- SOUQ
- そこは、デザイナーではなくアーティストとしての生き様?
- 服部
- でも、社会的なこととか人とか宗教とか、そういうものを捉えて作品をつくるような気もしています。デザインのアプローチとは違うかもしれないけど。彫刻をするためのストックは今結構あるんですよ、形とか素材とか。そろそろやらんとなあと思ってるんですけどね。
- SOUQ
- 死ぬときに彫刻家であればいいとすると、まだ早いんじゃないですか?
- 服部
- もう48歳なんで。そろそろ取り組まなくっては!と悶々と動き出しています。20年位かけてモノに出来たらな~っと。
- SOUQ
- やはり一人前になるには、それぐらいの年月が必要なんですね。
- 服部
- イサム・ノグチとか有名な彫刻家も、めっちゃデザインはやってたりするんですよね。中でも、ヨーゼフ・ボイスって彫刻家は、晩年「社会彫刻」という言葉を残した。社会の構造を彫刻的思想で整えたり、形にすることができるという考え方なんですけど。社会彫刻家かあ…今ボクがやってるのは、ひょっとして社会彫刻と言えたらな~。もしかしたら、彫刻をつくらなくても、すでに彫刻家になれると思ったりもするんですけどね。なんてねー・・・おこがましいコト言いました。すいません。笑

取材・文/蔵均 写真/桑島薫