Hyaku(ヒャク) 後編 幼い頃の思い出のカケラを拾い集めたブランド

昔からの趣味が、アクセサリーに。
尾道に行き着いたのは偶然だったと話してくれた前編。でも、廣瀬さんの“偶然”はまだまだありました。
「お店をしていると、お客様の生の反応を見ることができるので、気づくこともたくさんありました。“可愛い”とか“もっとこんなのあったらいいのになあ”とか。現場のお客様の声を聞いて生まれた商品やブランドもあります。その一つが、私のもうひとつのブランドの『Vague(バーグ)』なんです」

『Vague(バーグ)』は、「海辺に流れついた陶器のカケラ」をコンセプトに掲げる陶器アクセサリーのブランドです。しかし、廣瀬さんがこれまで手掛けていたのは、テキスタイルデザインのバッグ。どのように生まれたのか、聞いてみました。
「お店に立っているときにお客様の反応を見ていて、アクセサリーがとても喜ばれているなと感じたんです。それで、私もより多くの人に手に取ってもらえる作品を作っていきたいなと思い、アクセサリーをつくってみようと思い立ったんです」

話は遡ること10年前。廣瀬さんが尾道へ移住して来て間もないころのことです。尾道から近くにある「仙酔島」という無人島を気に入って、時間を見つけては足繁く通っていたといいます。こじんまりとした島で、半日もあればぐるりと一周できるほど小さな島。
島に通っている間に、砂浜に陶器のカケラがたくさん落ちていることに気がつきました。色鮮やかなカケラが無数に落ちているのを見つけて、廣瀬さんは大興奮。というのも、廣瀬さんの母方のご実家がある種子島は、太平洋に面しているため、陶器のカケラは落ちていなかったそうなのです。

「もう、必死で拾い集めていましたね(笑)だって、不思議じゃないですか。きっと元々はお茶碗とかの破片だったのが、どこからか海に流されて長い長い旅をして、今この仙酔島にやって来ているんですよ。私も、人生でたまたまこの砂浜に行き着いて。なんだ偶然の出会いを感じて、特に目的もなくたくさん集めていました」
そして、そんな風に集めていたカケラのことを、お客様が求めているアクセサリーを作ろうとしたときに思い出したのです。このカケラの可愛らしさや美しさをアクセサリーのコンセプトにすることはできないかと考えて、生まれたのが、『Vague(バーグ)』でした。
誰かの人生のきっかけになるアイテムを。

土から型を使わず、一つひとつ手作業で形成をしているので、同じ大きさや形のものは一つもない、世界で一点だけのアクセサリーです。釉薬も手作業でつけているので、色も一つずつ微妙に違っています。そこには、組み合わせを考える過程も楽しんでもらいたいという廣瀬さんの思いが込もっています。
「組み合わせを考えているときが、いちばん楽しいですね。同じ大きさでも、お客様によって好みは変わるので、ご自分の好みにぴったりはまるものを探しているお客様を見ている時も、嬉しい気持ちになります」

廣瀬さんが作品づくりにおいて大切にしていることは、この作品が誰かにとってかけがえのないモノになる可能性もあるという意識を持つことだそうです。そう思うに至るできごとがあったといいます。
「百貨店で販売させてもらっているときに、80代くらいのお客様が私のブースに来てくださり、作品を手に取ってくれていたんです。その方が、“すごく素敵なアクセサリーだけど、自分はもう年だしねぇ”とためらっておられましたが私は心の中で、“きっとお似合いになる!”と直感したんです!だから、試着をおすすめしました」

「そうすると、イヤリングをつけたご自身を見たそのお客様のお顔が、パッと輝いたんです。半世紀ぶりにアクセサリーをつけたけど、とっても素敵。これからお出かけが楽しみだわ、そうおっしゃってくださったんです」
そう話してくれる廣瀬さんの目も輝いていました。
「そのお客様との出会いから、アクセサリーを選ぶのって、旅に似ているなと思ったんです。どちらも新しい自分に出会えるというところが」と廣瀬さん。長い時間をかけて旅をして小さくなってしまったカケラたちが、次は誰かの耳もとで、新たな旅をしていくのですね。
取材・文/藤田真奈 写真提供/廣瀬百子
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Creator/Brand

自然の美しさをアクセサリーに落とし込む
Vague(ヴァーグ)
“海辺に流れついた陶器のカケラ”をコンセプトに、陶器アクセサリーを制作。長い旅の間に波(Vague)にさらされ、小さくなってしまったカケラたち。次はあなたの耳もとで、新たな旅が始まります。