「SOUQイラスト百貨展」に向けて、 日台女子のかしまし座談会

“イラストと暮らすきっかけをつくる”をテーマにしたイベント「SOUQイラスト百貨展」が、1月29日(水)~2月4日(火)、うめだスークの中央街区で開催されます。約60組の注目のイラストレーターが出展しますが、その中から、音楽や映画を題材に描くnorahiさん、台湾からの出展となる紅林(ホリー)さん、そしてキュレーションを担当する台湾出身のCampのアンさん、1979年創刊イラストレーション専門雑誌『illustration』編集部の岡あゆみさんに集まっていただき、現在の日台イラストシーンについて自由に語っていただきました。
- アン
- 今日は、さまざまな形式で絵を表現している台湾のイラストレーター、紅林さんが、たまたま旅行で東京に来てらっしゃるので、ちょうどいい機会と、この座談会に参加してくれました。今回の「SOUQイラスト百貨展」のビジュアルイラストも紅林さんの作品です。
- 紅林
- 初めまして。これ、台湾で買ってきたパイナップルケーキですので、どうぞみなさんでお召し上がりください
- 岡
- うわあ、パッケージがレトロでかわいいですね。
- norahi
- 印刷の感じがいい。“鳳梨酥”の文字もかわいい。

- SOUQ
- 紅林さんには、今度、大阪・梅田で開催される「SOUQイラスト百貨展」に出展していただきます。イラストをメインにしたイベントは、うめだスークでは初めてですが、開催するきっかけは、もともとおつきあいのあるCampさんがプロデュースする「渋谷デザイナーズマーケット」を観に行ったときに、「次は、イラストでイベントをやりましょう」という話になって。
- アン
- 「渋谷デザイナーズマーケット」は、渋谷のクリエイティブ活動の拠点であるSHIBUYA CAST.で隔月で催されていて、イラストレーターさんやインディ魂を持ったクリエイターが集まり、展示をしたり、ライブをやったり。2年ぐらい続けています。

- SOUQ
- 東京でイラストレーションをカルチャーととらえて、コーディネートできるのはCampさんだと思い、「SOUQイラスト百貨展」のキュレーションをお願いすることになったというわけです。
- 岡
- 今回、紅林さんとnorahiさんというお2人のチョイスが面白いと思いました。
- アン
- もともとアートイベントやカルチャーイベントが好きで、お客さんとしてよく遊びに行ったりしていたんですが、実は私、紅林さんともnorahiさんともアートイベントで出会ったんです。norahiさんには2018年の台北アートブックフェアで似顔絵を描いてもらって、今日はそれを持ってきています。

- norahi
- 30秒似顔絵みたいな感じで、即興で描きましたね。
- アン
- そのとき、この人の絵すごく好きだなと思って、話も合って。
- norahi
- 出会った次の日に、もう台北の夜市に連れて行ってもらったんですよ(笑)。私も台湾のこといっぱい知りたかったので、いろんなところに連れて行ってもらって。
- アン
- 台湾の人はすぐ打ち解けますからね(笑)
- norahi
- 台北のアートブックフェアは、2017年と2018年の2回出たんですけど、すごくエキサイティングでめちゃくちゃ面白くて。
- 紅林
- 東京のアートブックフェアは始まってもう10年ぐらいになるんですけど、台北のフェアはまだ4年。主催しているメンバーは、空間デザインや書籍のプロだったりで、全体的にワイルドで楽しい雰囲気です。
- アン
- そう。日本のアートブックフェアは、ブースは結構整然としていてきれいな感じがするんですけど、台北はダンボールでブースが組み立てられたり、自由度は高いですね。
- norahi
- ブースの横でタトゥーを彫ってたりもします(笑)。

- アン
- 今日お越しいただいたnorahiさんと紅林さんといっしょに仕事をするのは初めて。今回の「SOUQイラスト百貨展」に2人に出て欲しいと思ったのは、意外に共通項があったからなんです。2人ともイギリスに留学されていたし。また、岡さんとは前職で知り合ってからSNS上で何人か共通の台湾人イラストレーターの知り合いがいて、日本国内だけでなく海外の作家もたくさん見ている気がしていました。その後弊社のイラストレーターも出店しているイベントにプライベートで来られているところに再会。イラストへの愛をすごく感じました。今回はイラストのイベントということでイラストレーション専門の編集者として長年見て来られたものや考えていることをうかがいながら、イラストの魅力をもっと広められればと思ったんです。
自分で考え、変えていける時代
- SOUQ
- ちょっと世代が上の私は、イラストというと圧倒的にミスタードーナツの原田治さんやペーター佐藤さんが思い浮かぶんですけど、それからイラストの世界もいろいろと変わってきたと思います。岡さん、雑誌の立場から見て、今のイラストシーンについてどう思われますか?
- 岡
- 2011年の震災以降、それぞれの作家がより自立的になったのでは、と思います。クライアントからの依頼で描くことをしつつも、自分でグッズやZINEをつくるとか、新しいことを始める人たちが増えました。SNSが急速に普及したことで自ら発信することも当たり前になったので、そこで人気があるイラストレーターを企業が起用することも当たり前になりましたよね。

- norahi
- それはすごくわかります。私は、学校を卒業してから絵で食べていきたいという気持ちはずっとあって、加えて、自分自身1つの表現方法に絞らずに活動をしたい思いがあったので、一般的にクライアント側にはそれは「頼みにくい」ことだとわかっており苦しみや葛藤がありました。それが震災以降、岡さんがおっしゃったように、つくる側の気概が生まれてきたり、SNSの発達で誰もが作品を発信できる時代にもなってきているので、クライアントワークだけに絞らなくてもいいのかなとだんだん思ってきていて。最近は「よし、自分でつくったものをどう見せていこうか?」というふうに挑戦のような気持ちへ変わってきていますね。

- 岡
- 上の世代の方々が“イラストレーション”、“イラストレーター”という仕事を確固たるものにしてくださった分、それを踏襲しないとって気持ちもあったと思うんです。そのことに尊敬と感謝はしつつも、若手は若手で柔軟に考えてやっていこう、がんばろうという気持ちに私自身もなりました。
- norahi
- 自分でどうやっていくかを考えないとずっとやっていくには難しい時代になってきているとは思います。
- 岡
- そうなんですよね。どの分野でもどんな職業でも同世代と話ししていると、好きなものをつくり続けるために、がんばらないといけないと思っている人が多い。大変だけど活気がありますよね。
- norahi
- ありますね。イラストレーターを目指しているわけではないのだけれど、絵が好きだからインスタグラムに投稿してみようかという人たちもいっぱいいる。みんな表現がすごい自由だったりして、「うお!負けてられないな!」と。(笑)
- 岡
- そういう気概、心底カッコいいと思います。編集者としては、もともと絵を職業にするつもりがなかった人でも伝えたいことがはっきりあって、それがいろいろな人に届いてメジャーになるという動きは面白いなとも思います。
- SOUQ
- 台湾の事情はどうですか?
- 紅林
- 台湾ではイラストレーターという職種がちゃんと認知されたのはここ4、5年の話です。企業からお仕事いただいて仕事をしている人はすごく少ない。今、日本ではクライアントに頼らず個人で何かをしていかなければならないという話が出ましたが、台湾では最初から自分でやらないとダメです。日本みたいに雑誌があって、ちゃんとイラストレーターにフォーカスが当たることはなく、見せ場は少ないですね。
- アン
- 紅林さんが言うように、見せ場としての雑誌の挿絵の仕事やギャラリーの数も東京に比べるとまだまだ少ないですね。実はこれも今回台湾からのアーティストを呼びたいと思った理由の1つです。今回台湾からは10人のイラストレーターさんをお呼びしているのですが、みなさん東京、ロンドン、マドリードなどさまざまな国で活躍されており、できるだけ見せ場をつくりたいと思っています。

- SOUQ
- そういう状況で、紅林さんはどのようにイラストレーターになっていったのですか?
- 紅林
- イギリスに留学していたときは、美大で絵を学んでいたわけではなく、展示管理の勉強をしてまして。台湾に帰ってきていろんな展示の仕事をしていたのですが、台北にある「下北沢世代」という小さな本屋さんでいっしょに面白いことをやりたいねということになって、そこで初めて個展のようなものをやりました。そのとき、東京のギャラリー「commune(コミューン)」の方がたまたま台北に旅行できていて、「いい絵描きますね。1年後にうちで展示しませんか」と誘われて、そのとき初めて絵を描いていこうと思いました。
- 岡
- 「commune」でやった展覧会ですよね。そこで販売されていたZINEを私今でも持ってます。一目惚れして買いました。
- 紅林
- ほんとですか! ありがとうございます。初めての個展だったので、作品もストックがなく、準備するのに1年かかりました。

絵の見方がわからない
- norahi
- 私もイラストを仕事にするきっかけは、ギャラリーでの展示でしたね。学校を卒業してからすぐ、一度社会経験が欲しいと思い、靴下をつくる会社の企画デザインの部署に入社しました。会社で働く間もずっと何かをつくりたくて、ZINEをつくってたんですけど、もっと本腰を入れてやりたいなと思って。東京・神宮前の「HB Gallery」で個展をやったところで5年ほど働いた会社をやめました。私もその個展をきっかけに、イラストレーターとしてやっていこうと決意しました。その決意のあと、1年間イギリスに行って、それからフリーランスになって、3年目です。

- SOUQ
- 今では自身のイラストを使ったアパレルブランド「UKABU apparel」も立ち上げておられます。何かきっかけがあったんですか?
- norahi
- もともと絵を描くことは好きだったのですが、身に付けるもののことを考えるのが好きで。「HB Gallery」での展示に友達が結構来てくれたんですが、「絵の見方がわからない」って、すごく言われたんですよ。それが少し寂しく思ったので、絵をもっと身近にしたいと考えて、みんなが身に付けるものに絵を落とし込んでいってみようかなと思い始めました。

- SOUQ
- 絵は額装して飾ったものを鑑賞しなければならないという流儀に縛られている部分はありますよね。そこを寂しいなと思われたのは、今回の“イラストと暮らすきっかけをつくる”というテーマにシンクロするかもしれません。norahiさんは、そこからプロダクトを始めたのですか?
- norahi
- そうなんです。音楽と映画が好きで、それらにまつわる収集癖があったりして。徹底的に自分の好きなものに囲まれていたいから、描くなら自分の愛するものを描いてそれを身に付けたい。それが頭の中で形になってきたのは、2年前ぐらいです。「UKABU apparel」の立ち上げがそのタイミングですね。表現方法に縛られない方法が見つけられて、最近は結構スッキリしてきましたね。
- SOUQ
- グッズは、今回の「SOUQイラスト百貨展」でも販売されるのですね。
- norahi
- はい。トートバッグとかを出すつもりです。

- 紅林
- このバッグ、色の合わせ方がとってもかわいいです。
- norahi
- そうですか! 色の組み合わせ、結構熟考しているのでうれしいです。身に着けるものだと絵以外の要素があった方がいいなと思っていて。たとえばこのバッグなんですが、ビル・エバンスの「You Must Believe in Spring」という曲を聴いていてなんかひっかかったんですよ。で解説を見たら、それがエバンス自身が不幸があったときに自分を鼓舞するためにつくった曲だと書いてあって…。
- SOUQ
- 何か感じるものがあったんですね。
- norahi
- じゃあ、私にとってはポジティブな行為は何なのかな?と考えると、朝ごはんが思いついたんですよ。それで、“I BELIEVE IN EVANS AND MORNING(私はビル・エバンスと朝ごはんを信じる)”というバッグをつくって。朝、カバンを選ぶときにこれ身につけたらちょっと明るくなるかなあと。

「SOUQイラスト百貨展」の楽しみ方
- 紅林
- 自分が好きなものを絵で表現するのは、すごく気持ちが上がりますよね。イラストレーターって、クライアントがいて、その人の要件に合わせて絵を描くのもちろん達成感があるんですが、好きなものを描いて、自分が自分のクライアントだと思って制作するのも今の時代だからこそ楽しめる。どちらもやりたいですね。
- SOUQ
- 紅林さんが、今好きなものってなんですか?
- 紅林
- 読書が好きです。自分の作品集も日本の文庫本サイズにしたんですけど、実は台湾ではこのサイズの本はなくて。これよりもっと大きいのが一般的です。私は文庫本サイズが好きなのでつくったら、台湾でも人気がありました。あと散歩が好きですけど、いろんな時間帯の台北の街を散歩して絵にしています。

- norahi
- 台湾の人は日本に文庫本があるということは知っているのですか?
- 紅林
- 日本のカルチャーは台湾ですごく浸透しているので、知っている人は多いと思います。台湾の出版社がなぜこのサイズの本を発行しないかはわかりません(笑)。この2つの本は、2015年と2016年の展覧会に合わせてそれぞれつくりました。「SOUQイラスト百貨展」にも出品しますよ。外国の方でも読めるように、小さな翻訳が中についています。

- norahi
- これすごくいいですね。
- 岡
- ほんとうに。英語も日本語もすごい上手。
- 紅林
- 楽しんでほしいので、カジュアルな感じで。翻訳は100%正しくはないかもしれないですけど。
- 岡
- それがいいんじゃないですかね。ちょっとポエティックで、面白い。「タメ口すんなーーー」って一文とかすごく好きですね(笑)。

- 紅林
- 翻訳つけてよかったのは、いろんなところに持っていけること。
- 岡
- でも、台湾の人って、あんまり読めなくても気にせず買いますよね。日本人は読めるかどうかすごく気にすると、海外の人たちによく言われます。
- 紅林
- 台湾の中には、外国から輸入されたものがすごく多くて。英語や日本語…読めない言葉のものも多いし、読めないところを想像することに楽しみを感じるので、読めなくても買っちゃう。
- 岡
- それはすごく素敵な考え方ですね。香港のデザイナーの友だちも「若い頃から文章は読めないけど想像しながら読んできたんだよ」って言ってました。彼らは日本のファッション誌やデザイン誌にもすごく詳しい。
- アン
- 私の家に読めないものがたくさんあります。絵本だったり、作品集や写真集など、正しく読めないから自分なりの自由な楽しみ方ができるのが好きですね。
- norahi
- 日本人はすぐに正解を求めてしまうんですかね?
- SOUQ
- この本も、「SOUQイラスト百貨展」に出展していただけますか。
- 紅林
- はい。台湾では、毎年1回個展をやっているのですが、そのときには必ず本とグッズをつくるようにしています。SOUQではこの3年間のものをまとめて見てもらいたいなと思っています。

- アン
- 今回のイベントでは原画の展示とグッズの販売以外に、作家さんご本人によるワークショップをたくさん用意していただいているんです。norahiさんには曲を書くワークショップを提案していただきました。
- SOUQ
- 「あなたの1曲」を書く?
- norahi
- 以前に音楽にまつわる展示をやったときに、来てくれたお客さんに曲名が書いてあるカードを引いてもらって、たとえば「あなたの1曲はレット・イット・ビーです!」というおみくじみたいなことをしたんですよ。それが音楽の会話のきっかけになってすごく面白かったので、今度は身に付けられるサコッシュに「あなたの1曲」を書いてお客さんに渡すのも面白いねという話をアンさんとしていて(笑)。
- 岡
- 面白そう。
- SOUQ
- 楽しみですね。額に入れて飾るだけじゃない、イラストのいろいろ。岡さん的には、「SOUQイラスト百貨展」、どのようなところが見どころですか?
- 岡
- このお二人が出るというだけで、もうすごく楽しみです!暮らしの中に息づくイラストレーションというテーマはここ数年ずっと気にしていることなので、norahiさん、紅林さんはもちろん、今まで知らなかった方々の作品やZINE、グッズに出会えるのも楽しみです。

写真/東泰秀
「SOUQイラスト百貨展」は、「もっと、イラストと暮そう!」をテーマに、東京・台湾のイラストレーター、グラフィックデザイナー、出版社、本屋などおよそ60の作家さんが参加する、体験型イラスト展。SOUQを彩るさまざまなイラストレーターさんの原画展はもちろん、普段の生活のなかで使える雑貨やファッションアイテム、イラストに関する書籍のほか、バレンタインに向けて数量限定のチョコレートやお菓子もご用意しております。また、会期中には似顔絵やシルクスクリーンなどのワークショップも楽しんでいただけます。
イラスト鑑賞、ワークショップ体験、お気に入りの雑貨を見つける、という3つの楽しみ方から、大好きなイラストレーターに出会えるかも!?見つけて、自由にイラストを楽しんでみてください。
イベントはいよいよ、1/29(水)から。週末には作家さんと会える催しもありますので、お見逃しなく!

「SOUQイラスト百貨展」
阪急うめだ本店 10階 中央街区パーク
2020年1月29日(水)~2月4日(火)※最終日は午後5時終了