岩本清商店 若い力で、新風吹き込む伝統的桐工芸


瓢箪町は、兼六園やひがし茶屋街、近江町市場周辺といった観光客が集うエリアとはまた違った空気感。「外国人の方は、裏道とかいろんな道を歩くようで、『ここはなんだ?』といった風情でフラッと寄ってくれたりしますね」とは、「岩本清商店」で桐工芸品を制作する内田健介さん。内田さんは2004年、パートナーであり、この老舗の四代目・岩本清史郎さんの娘・岩本歩弓さん、そして弟の岩本匡史さんとともに、東京から金沢の地に生活の場を移しました。


昔は生活必需品だった火鉢
「火鉢は、元々この寒い金沢では実用品。法事などの集まりでも、昔は家でやることも多く、そこでは、二人に一つぐらいの割合で置かれていたそうですよ。だから、古い家を解体すると、蔵からいっぱい火鉢が出てきたりします」と内田さん。

金沢では、昔は数十件も火鉢をつくる桐工芸業者があったらしいのですが、ストーブに取って代わられて、今はほとんどなくなりました。90年以上の歴史を持ち、桐火鉢をつくり続けてきた「岩本清商店」も、四代目の清史郎さんは自分の代で店をたたむことを考えていました。でもそこに、歩弓さん、匡史さん、内田さんが東京から戻って来て…。 「金沢に戻ってきた頃は、正直、いまどき火鉢ってどうなんやろう?と思っていて、ちょこっとトレーとか新しい商品を中心につくっていたんですね。でも、『岩本清商店』は、元々火鉢をつくっていたんだから、まずは自分たちで使ってみようということになって」と内田さん。

実際に火を入れてみたら、その使い心地のよさにあらためて火鉢の魅力に気づいたという内田さんたち。匡史さんが、轆轤(ろくろ)を回して、再び火鉢を積極的につくることになりました。 「つくってみたら、コンパクトな火鉢がじわじわと売れています。若い人も、使ったことない人でも、卓上で干物などを軽く炙ったり、おもちをじわっと焼いたり。火鉢がある風景では、時間の流れがゆっくりになるのがいいですね」

コンパクトで、コロンと丸いフォルムの火鉢は、若い人にも人気が出そうです。「桐の木地は、焼くと木目の凹凸がきれいに出るんで、いっそのこともっと丸くしたら、おもしろい木目が見られるんじゃないかということで丸い形になりました」。この愛らしい火鉢は、どのようにつくられていくのでしょうか? ショップの奥にある工房を訪れました。
轆轤でつくられる、まんまるの火鉢

ショップや家屋がある建物から、中庭を挟んで建っている工房を訪れると、そこは昭和の名残りそのままの味のある空間。中庭から差し込む自然光が、また心地よさを醸し出しています。

火鉢をつくる岩本匡史さんは、東京から金沢に帰ってきてから、山中の石川県挽物轆轤技術研修所と、木地職人の水上隆志氏の工房で、あわせて5年間修業をしています。ご自身でつくったという数種類あるカンナを使って、円筒に近い形をまんまるになるように削っていきます。 「桐は、ボソボソとした比較的やわらかい木なので、硬い木と違って、よく削れはするのですが、きれいに仕上がりにくいんです。だからしょっちゅうカンナを研いだり、刃を薄くして、繊細に削れるようにしていますね」と匡史さん。
匡史さんは、カンナでずっと削り続けるのではなく、ときどき手を止めては、定規やカタを使って寸法を計っています。「同じ大きさ、同じ形のものをつくらないといけませんから」と匡史さん。
周りを削り終えたら、今度は火鉢の灰や炭が入る部分をくりぬいていく作業です。かれこれわずか20分ほどの時間で、円筒形だった桐はまんまるい形へと姿を変えました。

ちょこっとトレーの仕上げ
次は、「岩本清商店」の最近のヒット作、ちょこっとトレー制作の工程を拝見します。こちらは内田さんの担当です。

「2004年に金沢に帰ってきたとき、火鉢も実生活で使っていたものだから、自分たちが実生活で使えるものをつくりたいねということで、ちょこっとトレーを作り始めたんです。伝統工芸とはいえ、その都度その都度時代にあったものをつくっていたはずだから、そういうことをやろうと」と内田さん。

もともと、トレーとコースターは製品としてあったので、それをくっつけるという発想で生まれたちょこっとトレー。若い人を中心に人気が出て、さまざまな蒔絵が入ったバリエーションも誕生。内田さんは、ベースの桐をバーナーで焼いていきます。
バーナーの火力は勢いがあり、桐の木が一瞬燃え上がります。 「表面は、燃えるんですけど、一度炭化すると中は燃えにくい。メラメラとは燃えにくいんですよ」と内田さん。木目がそれぞれ違っていて、火で焼くことによって、くっきりとそれが現れてきます。 焼いたトレーは、今度は煤(すす)を落とす工程に入ります。ここで活躍するのが、工房内で存在感を際立たせているベルト。

「一つのモーターで、このベルトすべてを回しています。丸のこぎりとか、今から使う煤を落とす機械とか」。
桐を高温で焼くとどうしてもソリがでるので、それを直してから煤落としをします。煤をはらったら、上からウレタンを塗って完成。ツヤ出しをするには、さらに布で磨きますし、漆を塗る製品もあります。
桐工芸品とコーヒーの相性のよさ
火で焼いた桐の色は、どこかコーヒーの色に似ていて、内田さんや歩弓さんのコーヒー好きもあいまって、たくさんのコーヒーグッズもつくられるようになりました。

そのほか、ホネの形をした箸置きや、洋梨やいちごのイラストが入った桐箱など、伝統の技をベースに、若い感性を生かした商品もショップにはたくさん並びます。


岩本歩弓さんは、金沢の若い作り手や店主の個性が出ているショップなどを紹介する本『乙女の金沢』を編集し、ものづくりのネットワークを活かしながら活動しています。それが「岩本清商店」のものづくりにも良い影響を与えているような気がします。

「金沢は美術工芸大学もありますし、卯辰山工芸工房という、金工や漆、陶芸、ガラスなど、様々な技術研修を受けられる施設もあります。そこから出て独立する人もいますし、つくり手さんにとっては、暮らしやすい街かもしれませんね」と内田さん。 金沢を訪れたときには、美術館や名所めぐりの合間に、ぜひ訪れてほしい工房です。
取材・文/蔵均 写真/桑島薫

岩本清商店
石川県金沢市瓢箪町3-2
TEL:076-231-5421
10:00ー18:30
火曜休み