JUBILEE(ジュビリー) 前編 テキスタイルで 人の心に灯をともせたら

パターンの組み立ては音楽を奏でるように
JUBILEE(ジュビリー)をはじめ、さまざまなテキスタイルを生み出しているデザイナー、シミズダニヤスノブさんのアトリエは、とある広大な団地の一角、昔ながらの八百屋さんがあるエリアに数件並ぶ、商店街の中にあります。人々の暮らしの敷地に突如現れたスタイリッシュな一室は、昔ながらの団地の中ではほんの少し異質で、その不思議な非日常感になぜだかワクワクしてしまいます。爽やかに出迎えてくれたシミズダニさんは、鮮やかな黄色いシャツを着ていて、それがとってもお似合い。もしかして、と「このシャツはご自身でデザインされた布で?」とお聞きすると、「そうなんです」とシミズダニさん。


聞けば、魚のエンゼルフィッシュをモチーフにしているそう。でも、興味深いのは、単純に同じモチーフが並んでいるわけでなく、配置の仕方が変わっている部分があって、柄の中に展開が見えるところ。
「ひとつの魚の形をベースにして、それをジオメトリックに組み立てているのですが、一枚のテキスタイルの中に一匹で泳いでいる魚と、群で泳いでいる魚を表現しています。水族館に足を運んだ時に、彼らの泳ぎ方にもいろいろあることを知って、それを柄にしてみたくなったんです」
エンゼルフィッシュの柄もそうですが、シミズダニさんのテキスタイルはリズミカル。モチーフが単純に繰り返されるだけでなく、途中で変化してまた元にもどるような展開は、まるで音楽のよう。

「プリントデザインは、一定のリズムで繰り返されることによって躍動感や活気がうまれ、奥行きが加わるものです。普段は、絵の具やペン、鉛筆など、その時々でいろいろな画材を使ってベースとなるパターンを手で描いて、それをパソコンに取り込んで組み立てていきます。布へ広がる心地よいリズム感を想像しながらデザインいます。ちなみに、音楽を聴きながらドローイングして、それが発想の元になることもありますよ。リズムやメロディの印象を形にしてみたり、セミの鳴き声や電話で友人とおしゃべりしているときの話し方を絵にしてみたり。音やリズムがインスピレーションに繋がることは多いですね」

立ち止まって見えてきたテキスタイルで届けたいこと
シミズダニさんの手がけるテキスタイルを見せていただくと、その表現はバラエティ豊か。並んでいても違和感のない統一感はあるものの、絵の表現やモチーフはさまざまです。
「階段のように登っていくジグザクとしたラインのものは、マスキングテープを貼った時に、その重なりでできた濃淡がおもしろいなと思って作った柄です。両面色紙を触っていて、ひねった時にできた形と色の出方がヒントになってできた柄もあります。手を動かしている中で、偶然見つけられるおもしろい形ってあるんですよ。切り絵をしたり切ったものを構成し直したり。頭の中で熟考するよりも、手を動かしながら作っていく方が多いですね」


また、キャンプなどアウトドアもお好きだというシミズダニさんらしく、太陽の光や三日月、石ころなど、自然物をモチーフとしているものも多く存在します。
「昔から石ころが好きなんですけど、石に見られるような自然に創られた模様を目の当たりにすると、毎度、敵わないなぁと思ってしまいます。自然が創る動きのあるかたちは圧倒的です。空の色ひとつ取っても、自分ではこの色は出せないなぁ、と思いながら近い色を探っている感じです。自然からは、いつも大きな影響を受けていますが、自分のフィルターを通して、感動や印象を表現していけたらと思っています」


「これは、今までご紹介した柄とは、少し違う切り口で作ったものなんです」そう言って見せてくれたのは、他の柄とは少しだけトーンが異なるアブストラクトな印象のテキスタイル。この柄は、シミズダニさんにとってある挑戦だったと言います。 「2011年3月に起こった東日本大震災は、制作について立ち止まって考えるタイミングでした。多くの人が絶望し不安を抱える中で、私には何ができるだろう、と。一度は、プリントデザインをメインに活動している自分が役に立てることはないのではないかと弱気になることもありましたが、被災地の人を少しでも元気にできる柄を描こうと思って、応援している声や気持ちを届けるようなイメージの柄と、千羽鶴を折るプロセスを表現した柄を描いたんです。両方に心がけたことは、デザイン自体が暗くならないようにすること。色は明るく鮮やかに、そして元気になれるものにしようと。
プリントデザインは、身に付けて暖かいなどの機能性はありませんが、人の感情にアプローチしたり、見る人が明るい気持ちになれたりするものじゃないかと、今は思っています。バッグの中に入れて持ち歩くと気持ちが晴れる。この2011年の制作を経て、そんなテキスタイルを作っていきたいと、あらためて思うきっかけになりました。」

食べるものと同じように、目にするものもまた、日々の栄養になる気がします。シミズダニさんが作り出すテキスタイルは、まさにそういう心に作用するビタミンのようなものではないかと思うのです。後編では、シミズダニさんの発想について、また日頃からいいアイデアを生むために心がけていることについて、お話をうかがいます。
取材・文/内海織加 写真/宮川ヨシヒロ
Story
このクリエイターの関連ストーリー
Creator/Brand

テキスタイルデザイン
JUBILEE(ジュビリー)
2008年4月から「プリントデザインからはじまるモノづくり」をコンセプトにオリジナルのテキスタイルを使ったブランド『JUBILEE』を始める。