華雪 第1回 『「木」を書く』ワークショップ | SOUQ ZINE スークジン

華雪 第1回 『「木」を書く』ワークショップ

華雪 第1回 『「木」を書く』ワークショップ
いま活躍しているクリエイターたちの思いや創作について話を聞く「スークインタビュー」。今回は、書家として、漢字一文字の作品を創作しながら、国内外でさまざまな教室やワークショップも行う華雪さんが登場。2月のとある日、東京で行われた『「木」を書く』ワークショップにおじゃましました。

2019年2月17日、東京都杉並区にある「あなたの公-差-転」で華雪さんによるワークショップ『「木」を書く―字を書くことから見えてくる“わたし”』(共催:日本学術振興会科学研究費基盤(C)「デザインとの協同による共創哲学の理論と実践」〈代表・東京大学・梶谷真司〉、企画:東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」特任研究員・趙斉)が開催されました。「あなたの公-差-転」では、様々な属性や価値観を持つ人たちが、存在を尊重された1人の人間としてぶつかり合い、自分を表現したり対話をしていく自由なスペースを作っていこうとしています。

華雪

ワークショップを体験しました

定員9名を超えて集まった16人は、年齢、性別、住まいもさまざま。華雪さんといっしょに車座になって、まずは自己紹介。ほとんどが初対面同士という中、華雪さんのやさしい語りかけのせいか、冒頭からみんななじんで場は和やかな雰囲気です。

華雪

まずは漢字の起源や成り立ちについて解説してくれる華雪さん。3300年前に中国の黄河付近で、すでに文字の原形が生まれていたということに驚かされます。

華雪漢字の起源と言われる亀の甲羅に書かれた甲骨文字。この写真、文字はレプリカですが亀の甲羅は本物で、当時の様子がうかがえます。

それからボードを用いて、木というものが幹、葉、根から構成されていて、それが「木」という漢字の成り立ちにつながっていることを解説されます。

華雪
華雪ボードについた葉っぱや幹を外していくと、「木」という文字の原型に。

象形文字について学んだあとは、参加者各々が持っている「木」のイメージを紙に書いていきます。言葉で表す人もいれば絵で描く人も。

華雪

それぞれの「木」に対するイメージはさまざまです。最近旅行で行った奄美大島のガジュマルを思い浮かべる人もいれば、小学生のころイヤなことがあったときに登った大きな樫の木、夢に登場した心象風景の中の木など。そして、「木というのは、どこまでが幹でどこからが根っこになるのか?」という素朴な疑問についてみんなで考えたり…。十分に想像力がかきたてられたあとは、いよいよ「木」の字を書いていきます。華雪さんが用意してくれた筆は、およそ30種類! 水牛やリス、サル、イノシシなど、使用している毛の特徴を教えていただきました。

華雪クジャクやダチョウの毛など珍しいものもあり、中には華雪さんが小学生のころに切った髪の毛を使った筆も!

使われている毛によって、太さや濃淡、かすれなど、それぞれ書き味が違う筆。華雪さんは持ち方、握り方によっても書の表情が変わってくると教えてくれます。そしてなによりも大切なのは、自分がなぜこの字を書きたいか、どういう字にしたいかを自問自答しながら書くことだと華雪さんは言います。

華雪いろんな筆の書き具合を実践して見せてくれる華雪さん。

一斉に執筆開始! みんな楽しそうに書きたい字を書いていきます。最初は新聞紙に試し書き、使いたい筆や完成形のイメージが決まったら、紙の種類も自由に選び、書き綴っていきます。「木」という文字ひとつとっても、こんなにも書き手によって形や表情が変わってくるんだ! と驚かされます。

華雪
華雪
華雪

最後は、大きな紙にみんなでまた「木」の字を書きあって終了。そして華雪さんが、それぞれの人が持つ「木」への想いや背景、そこからつながる書のスタイルなどについて細やかにコメントしてくれます。「木」を書くというシンプルなことだけで豊かな時間を共有できた、とても印象に残った3時間でした。

華雪
華雪
華雪

華雪さんにインタビュー

SOUQ
本日は、『「木」を書く―字を書くことから見えてくる“わたし”』に参加させていただきありがとうございました。参加者のみなさんが、とても楽しそうに、そして気合い十分に「木」を書いていましたね。もともと“「木」を書く”ことはどのようにスタートしたんですか?
華雪
ワークショップ自体は10年ぐらい前から京都にある書店「恵文社一乗寺店」などで徐々に始めていたんです。ただ“「木」を書く”ワークショップに意識的に取り組むようになったのは、2011年に起こった東日本大震災がきっかけです。震災後、山形にある東北芸術工科大学が復興支援という形で被災地の方々に向けていろいろな活動を開始されていました。2012年から、その活動の中のひとつとして、わたしのワークショップをやろうと声をかけていただいたんです。ワークショップの対象は福島から山形に避難されているご家族や、震災後も福島県南相馬市に暮らされていたご家族。みなさんを山形に招き、当時制限のあった外遊びも存分に楽しんでもらえるようなワークショップができないかと声をかけていただいたんです。
SOUQ
そうだったんですね。
華雪
「木」の字を選んだ理由は、参加くださるご家族の中にはまだ漢字を知らない幼いお子さんも多かったので、そうした子どもたちにもわかりやすい字を、と思ったからです。曲線が少なくて画数も少なく簡単に書くことができて、漢字の成り立ちである象形文字といま現在使っている字の乖離があまりない字を考えていくと、「木」ってぴったりだったんですよ。
SOUQ
人に身近なものでもありますしね。
華雪東北復興支援ワークショップの様子。写真提供:東北芸術工科大学
華雪
「木」を選んだもうひとつの理由は、ワークショップに参加した人たちが「木」の字を書いていくと自ずと「森」ができる。「森」の字は木を3つ書きますよね。漢字のシステムでいうと、同じ字が3つ重なるとたくさんっていう意味になるんです。木がたくさんあることを同じ字を3つ書いて表しているんです。なので、こうした漢字のシステムの仕組みを子どもたちに体感してもらえるということからも、「木」はいいんじゃないかと思ったんです。
SOUQ
そうか。これは漢字のおもしろさも伝わりますね。
華雪
ワークショップを続けるうちに、これは小さな子どもだけじゃなくて、いろんな状況の人が参加できるワークショップかもしれないなと思い始めて。文字を知らない、漢字を知らない人でも、説明をすればすぐに理解してくれる。そういうこともわかってきて。気づいたら、もう何年やってるのかしら(笑)
SOUQ
今日もいろいろな方が参加してましたもんね。
華雪
半年前、若いときに少しの間暮らしたフランスのトゥールーズに20年ぶりに行ってきたんです。そこで当時の友人に会ったら、彼女は障がいを抱える子どもたちだけの学校の美術教師になっていたんです。ぜひ教室の様子を見学させてほしいと頼んだら、いつのまにかワークショップをやることになっていて(笑)。その学校は、学年ごと10人ほどのクラスに、視覚障がいの子もいれば、重度の身体障がいを抱える電動車いすの子、言語障がいのある子、いろいろな状況の子どもたちがいっしょにひとつのクラスで学んでいるんです。ここでも「木」を書くワークショップをやりました
SOUQ
漢字を書くワークショップをフランスでもやれるんですね!
華雪
もちろん子どもたちは漢字なんか知らなくて、ゲームを通じて知ってるぐらい。
SOUQ
そんなゲームがあるんですか?
華雪
みたいですね。ゲームを通じて漢字は知ってるって言われましたから。日本という国もあまりわかってない子どもたちに「木は知ってるよね?木の絵は描ける?」って言ったら、それぞれ独特な木の絵を描いてくれるんです。それぞれハンディキャップは抱えているんですけど、それでも最終的に「木」という字を書いてくれました。
SOUQ
木には、文字を超えてシンクロできるなにかがあるのかもしれないですね。
華雪フランスの子ども達が書いた「木」。
華雪
5年前に韓国に行ったときにも、韓国の小学校の国語の先生を対象に木のワークショップをやりました。
SOUQ
子どもではなく、先生だったんですね。
華雪
そうなんです。1970年の漢字廃止宣言以降、韓国ではしばらく漢字は使わずハングルを使うという教育方針がとられていて、私より下の世代は漢字の読み書きがほとんどできなくなっていて、自分の名前を漢字で書くのもおぼつかない状況があったんです。2014年当時、もう一度漢字を教育の中に取り入れるためにはどうしたらいいかということが議論されるようになって、私のワークショップを試してくださったようです。
SOUQ
もともと漢字文化があった国で、ワークショップはどうでした?
華雪
木に家系図をイメージされる方が多かったんですよ。それまで日本で何度もワークショップをやってきて、そういうイメージに出会ったことはなかったんですけど、大きい木を描いて、自分が思い出せるだけの家族、親族を小さい木で描くとか、家族ということに結びつける方が非常に多くて。祖先を大切にする朝鮮ならではの文化違いを感じました。
SOUQ
それはおもしろいですね。
華雪
やっぱり木って身近だからこそ、世界のどこでもいろいろなイメージがわくんだなというのがわかって、おもしろいモチーフだなと思います。

取材・文/蔵均 写真/東泰秀

「木」を書くワークショップを、日本で、海外で開催し続けている華雪さん。次回第2回は、小さいころから魅せられている漢字について話を聞いていきます。

華雪さん活動情報
ブログ(教室の案内やエッセーを掲載しています)
https://kasetsuws.exblog.jp/

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