華雪 第3回 書を表現するということ | SOUQ ZINE スークジン

華雪 第3回 書を表現するということ

華雪 第3回 書を表現するということ
写真:『牛――なにも見失ってはいないのに、なにを探しているのか』2017 KUMU金沢-THE SHARE HOTELS-)
前回のインタビューで、小さい頃から漢字の成り立ちについて興味があったと話してくださった書家の華雪さん。今回は、書という表現を作品にするうえで心がけていることを聞いていきます。
SOUQ
漢字の成り立ちを解釈して書にするときに、作品としては、ひとつひとつ書き方や表現方法は変わってくるものですか?
華雪
変わってきますね。ひとつの漢字がどんなふうにできたのかという成り立ちを踏まえると、たとえば一本の縦線が、その字を構成する上でとてもたいせつな一画だとわかります。またその意味についても歴史の中で変遷しながら軸となるものがあります。私にとっての表現は、ひとつの漢字が4000年近く抱えてきた基本となる部分を踏まえ、いま、自分がその字を通じてどういった思いや考えがあるのかをどう表わすかということなんです。そのために、どういうふうにその字を書けばいいのか、どういうふうに展示空間をつくればいいのかといったことを常に考えています。

エピソードをエッセイに

SOUQ
文章というと、キャプションですね。それは必ず作品に書き添えてらっしゃるんですか?
華雪
高校2年生のときに、先生の知り合いの喫茶店で初めて書の展示をさせてもらいました。その際、白川静さんの漢字字典に載っている文字の成り立ちをキャプションに引用したんです。たとえば「月」の字であれば、“三日月のかたち”というふうに。そうしたら、展示を取材に来てくださった京都新聞の記者の方が「話を聞いていたら、あなたはもっといろいろ考えてるでしょ?」とおっしゃったんです。そして「それもキャプションとして書いてみれば?」と言われたんです。
華雪
SOUQ
何か感じるものがあったんですかね。
華雪
そのことがきっかけになって彼女との文通が始まりました。もう30年近く前のことです。当時はメールもなかったので。
SOUQ
FAXも世に出始めたばかりの頃ですよね。
華雪
彼女はその後、京都新聞から平凡社に転職されるんですけど、10年ぐらい文通は続きました。
SOUQ
それはずいぶん長い間続きましたね。
華雪
手紙にはいつもそのとき興味のあることを便箋何枚にも書いていたんですが、あるとき、彼女から「手紙に書いてくれているような自分の身の回りのことを、ちょっと文章に書いて送ってみて」と言われ、言われた通り書いて送ったんです。するとそこからさらに「もう少し長く書いてみて」に変わり、「この表現、どこかで読んだようなことがある文章だから、もっと自分のことばで書き直してみたら」と言われたり…
華雪
SOUQ
なかなか厳しい指導ですね(笑)。
華雪
でもそのうちに「本つくってみない?」と言われて、彼女はそんなこと考えていたんだとびっくりしました。私の1冊目の作品集『静物画――篆刻ノート』(平凡社2001)は、彼女が編集してくたものなんです。
SOUQ
華雪さんに期待していたからこその愛の鞭だったんですね。
華雪
書を書くことにつながる自分の思いや考え、それは自分の日々のことや生活の中からどういうふうに出てくるのか。彼女のおかげで、そうしたことをエッセイとして書くようになりました。以来、書と文章を組み合わせて制作するというかたちの作品が自分にとっての定番になっていきました。
華雪
SOUQ
書だけを展示することはないんですか?
華雪
最近は、少し長めのエッセイを印刷したものを会場の入口に置くというかたちで落ち着いています。会場では「いまはエッセイは読まずに観て、帰ってからゆっくり読みます」とおっしゃる方もいらっしゃいますけど、そうした方からの感想にも刺激をもらうことが多くあります。
SOUQ
書だけを観ての感想ですね。
華雪
はい。自分では決して得られない感想ですから。文章を読んでいない方が書を観て言ってくださった感想とキャプションとして書いた内容が近いと、思いが伝わっているところもあるのかなと考えたりもします。もちろん文章を読んでも読んでくださらなくても、作品に対して自分とは違う思いや捉え方をされる方もいらっしゃいます。展示会場にいて、実際にいろんな捉えようがあることを知ると、一字書の可能性を感じられてうれしいんです。

時の移ろいも作品として

SOUQ
その他に、華雪さんらしい展示スタイルというのはありますか?
華雪
私の場合、書だけを見せるというよりは、インスタレーションも含めて作品を表現することが多いので、展示の場所をどう設定するかはよく考えています。
SOUQ
インスタレーションというと、空間を含めての展示ですね。
華雪
空間づくりを強く意識し始めたきっかけは、地方で公開制作を頼まれることが増えてきてからですね。どこかへ行ってその場所と関わって、その場所で作品をつくり、展示をします。
SOUQ
その場所ならではの制作の仕方ですかね。
華雪
新潟では毎年、もう15年ぐらい展示をしています。きっかけは、知人から展示をしてみないかと声をかけていただいたことでした。初めて行った新潟では、広い空や信濃川と海が交わる河口の雄大な様子に心惹かれました。以前から好きだった新潟出身の作家坂口安吾の『桜の森の満開の下』に「空が落ちてくる」という一節があるのですが、安吾が描いたのはこの空だったんだと感動したことを覚えています。ひとつの土地にこれほど惹かれる理由ははなんだろうと、新潟にについて自分なりに調べて作品にしようと強く思った時期もありました。
SOUQ
初めてなのに、なぜか肌が合う場所ってありますよね。
華雪
興味を持った場所を実際に自分の足で歩いて、そこで出会った方の話を聞いたりしながら制作した作品を展示させていただく機会が増えるにつれて、私は書だけを見せたいわけじゃない。展示に至るまでのプロセスも含めて伝えたいことがあるんだと気がついたんです。それがインスタレーションを始めた大きなきっかけのひとつだと思います。
SOUQ
何か場所や出来事に出会って、それにまつわる字が浮かんできて、そこから空間づくりへと進む感じですかね?
華雪
そういう感じです。空間づくりでは、展示を観る人が、どこから入って、どの位置に立つんだろう?ということも考えます。たとえば時間帯によって光が差し込む位置が変化する場所を見つけて、そこに作品を置いて時の移ろいによって見え方や感じ方が変わる効果を期待したり。
SOUQ
それはすごく観てみたい!
華雪
数年前には新潟の巨大な米蔵の中で、照明作家の方に協力いただいて数分かけて光がうつろうインスタレーションをつくりました。そこでは白い紙に白い顔料で書いた「鳥」を展示しました。光に照らされてはじめて「鳥」の字のかたちが影になって現れるというものでした。
華雪
SOUQ
芸術祭などはいろいろな場所で自由に空間づくりができそうですが、ギャラリーでの展覧会もそうですか?
華雪
結構自由度の高いギャラリーで展示させていただくことが多いですね。あるギャラリーでは、初日には「家」の書をひとつだけ置いた展示にしました。
SOUQ
作品ひとつですか?
華雪
はい。会場が閉廊した後、夜中制作して、最終日までひとつずつ「家」が増えていくという展示でした。
華雪
SOUQ
なるほど。
華雪
初日に来られたおじさんに「何もないじゃないか!」と怒られました。でも最終日にまた来てくださって、「ちゃんと増えたな」って(笑)

写真/東泰秀

文章や空間も含めて作品だという華雪さん。次回最終回は、最近の活動や作品について話を聞いていきます。

華雪さん活動情報
個展『鳥散』
コロンブックス(名古屋)
5月18日(土)―5月20日(月)

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