華雪 第4回 巡り鳥のように | SOUQ ZINE スークジン

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華雪 第4回 巡り鳥のように

華雪 第4回 巡り鳥のように
各界で活躍するトップクリエイターに話を聞く「スークインタビュー」。書家・華雪さんの最終回は、最近の活動や制作している作品についてうかがいました。
SOUQ
最近は、作品としてどんな字を書かれましたか?
華雪
いま書いているのは、「鳥」という字です。これまで何回も書いてる字ですけど、今回は渡り鳥をイメージして制作しています。
SOUQ
それは何かエピソードがあるのですか?
華雪
新潟に何年か通っていて気がついたことなんですけど、白鳥が渡来する秋を、新潟に暮らす方たちはすごく楽しみにされているんです。白鳥がやってくると、「今年も来た来た」って毎年のことだろうにみんな喜ばれていて。そして白鳥は3月になると飛んで行ってしまうので、するとみんなソワソワし始めて、白鳥の居場所を見に行っては「まだいるね」と確認したりされている。
華雪
SOUQ
現地に長く滞在しないとわからないことですね。

同じ場所を巡っている

華雪
自分のこれまでを振り返ってみると、京都に生まれて、いまは東京で暮らしています。けれど東京にいつもいるかというと、わりとあちこちぐるぐる動き続けている。それが日常です。
SOUQ
たしかに、国内、海外へとよく移動されてますよね。
華雪
どこか遠くへといっても仕事でしか行かないんですけどね。
SOUQ
ご自身の移動の多さも、「鳥」という字と結びつくということですか?
華雪
はい。あちこちに移動していて、ただ、あちこちと言っても、定点観測的にぐるぐると同じところへ通っている感覚があるんです。
SOUQ
新潟もそうですしね。
華雪
繰り返し通っているということに、おもしろさを感じているんでしょうね。以前、それほど親しくない画家の方から不意に「あなたは巡り鳥みたいね」って言われたことがあったんです。
華雪
SOUQ
「巡り鳥」?
華雪
「ぐるぐると同じ場所をあなたはずっと巡っている」と、占い師的な口調で言われたんです(笑)。忘れてしまっていいことだと思うんですけれど、忘れられない。心に残っているんでしょうね。
SOUQ
それで、「鳥」なんですね。
華雪
「巡り鳥」という言葉に一度向き合ってみようかなと。そう言われる自分のあり方ってなんなのだろうと考えてみたいんだと思います。

書家としての自分にできること

SOUQ
「巡り鳥」としては、華雪さんの出身である関西にもよく行かれますか?
華雪
ずっとお世話になっている大阪・北浜の「アトリエ箱庭」では、定期的に篆刻のワークショップを開いています。昨年からは六甲の「MONTO TABLE」でも隔月で書の講座を行っています。大阪の箕面にも3カ月に1回通っています。
SOUQ
それはどういうお仕事で?
華雪
「らいとぴあ21」(箕面市立萱野中央人権文化センター)で漢字の魅力を伝える講座をしています。
華雪らいとぴあ21でのワークショップの様子。「顔」にまつわる漢字を紹介すると、子ども達は、「目」「口」「心」の字を使って”お面”をつくっていました。
SOUQ
どういうきっかけで始められたのですか?
華雪
社会学者の知人がいて、被差別部落の差別をめぐる話などを聞く機会が数年前から増えてきたんですね。子どもの頃から親には被差別部落の地域には「行ってはいけない」と教わっていました。高校生になって改めて親に「なんで行ったらいけないの?」と訊いても、「とにかくだめ」の一点張りで、実は親も実情をよくわかっていないんだと気づいたんです。けれど私はそのとき、それ以上何も行動しなかった。知人の話を聞くにつれて、いまさらだけど、私にできることは何かないのかなと考えはじめたんです。
SOUQ
なるほど。
華雪
そんなときに、ご高齢の方たちの中に読み書きができない方がいらっしゃると耳にしました。日本の識字率は99%ぐらいあるにもかかわらずです。
SOUQ
世界の中では、日本は識字率高いですね。
華雪
華雪
被差別部落ではいろいろな事情で小学校にも通えず、読み書きができない方がいるという話を聞いて、読み書きにまつわることなら私にも具体的に関われることがあるかもしれないと思ったんです。そう思っていたところに、読み書きの教室をされている「らいとぴあ21」を知人が紹介してくれたんです。「らいとぴあ21」の職員の方たちも私のこれまでのワークショップの活動に理解を示してくださって、漢字の成り立ちを私が伝え、参加者のみなさんに漢字の象形文字を書いてもらうワークショップをすることになりました。「らいとぴあ21」は、子どもからお年寄りまで幅広い年齢層に向けて、いろんなかたちの活動をされていて、私の教室にも、読み書きの教室にいらっしゃっている方から小学生まで、いろんな人たちが参加してくださっています。

釜ヶ崎芸術大学で

SOUQ
いま、その他にはどんな活動をされていますか?
華雪
「釜ヶ崎芸術大学」はご存知ですか?
SOUQ
大阪・西成の釜ヶ崎という街を大学に見立てて、さまざまな講座や講演を行っていますね。詩人の上田假奈代さんが主宰する「NPO法人 こえとことばとこころの部屋(ココルーム)」がやってらっしゃいますよね。
華雪
はい。假奈代さんの名前はずっと存じ上げていたんですけど、お会いする機会がなくて、社会学者の知人から紹介されて初めてお会いしました。「木」を書くワークショップの話をすると、すぐ「何かをやろう!」ということになって、最初は釜芸の講座として、釜ヶ崎にある保育園の子どもたちと釜芸の大人たちといっしょにワークショップをしました。次の年の釜芸では元労働者として働いていらした方たちや地域外からの方たちと書のワークショップを続けています。
華雪
SOUQ
どのようなワークショップですか?
華雪
假奈代さんと相談して、全国を転々として働いてきたおじいさんたちに思い出の土地を書いてもらおうということになりました。「もう何十年も帰ってないんや」と言いながら生まれ故郷の地名を書いてくださる方や空想の地名を書く方も。ワークショップの最後には、ひとりずつの思い出を参加者みんなで大笑いしたり涙ぐんだりしながら聞くんです。釜ヶ崎にも字が書けない方が結構いらっしゃるんですね。字が書けないことを人に言えずに、ずっといままで暮らしてらっしゃった方もいて、假奈代さんと時間をかけて心を通わせ、「わし、字を書けへんから教えてくれへんか」とおっしゃった方もいらしたそうです。文字を書くことは自分を表すことなんですね。釜ヶ崎の方は書が好きな方が多くて、これからも続けていけたらと思っています。

写真/東泰秀

華雪さん活動情報
竹俣勇壱(金工)との二人展『合同船』
新潟絵屋・砂丘館(新潟)
7月2日(火)―7月15日(月・祝)

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