啓文社印刷 活版印刷の技術を継承、プラスαの広がりを | SOUQ ZINE スークジン

啓文社印刷 活版印刷の技術を継承、プラスαの広がりを

啓文社印刷 活版印刷の技術を継承、プラスαの広がりを
クリエイターたちのものづくりを支える工場や工房を訪ねる「ファクトリーファイル」。第2回目の今回は、活版印刷を始めとする印刷全般を広く行なっている啓文社印刷を訪れました。

神戸のJR三宮駅から歩くこと約12分、住宅やマンションが目立つ街並みの中に、「ガレーヂ申し込み受付中」という看板が壁に掲げられた年季の入った味のある建物が現れます。

啓文社印刷

「うちは創業70年なんですが、建物は70年前からずっと変わってないですね。もともとは洋菓子の工場で、建物を譲りうけて、そのまま使っています」。  なんとも神戸らしいエピソードを披露してくれたのは、今回訪れた啓文社印刷工業の4代目社長・安達真一さん。啓文社印刷は、一般的な印刷のほか、自分好みに手帳をカスタマイズできる「tete」をプロデュースしたり、活版ワークショップを開催したり、多角的に印刷の可能性を探っている意欲的な会社です。今回は、名刺などで人気がある活版印刷についてお話をうかがいました。

啓文社印刷啓文社印刷工業社長の安達真一さん。

「うちの会社の特徴の一つとして、活版印刷、オフセット印刷の両方をやっているということが挙げられると思います。活版印刷をやっているところは今は少なくなってきていて、専門的に活版印刷をやっているところが多いんですね。商業印刷のほとんどを占める一般的なオフセット印刷もやっているうえで、活版印刷もしているところは、実は少ないんですよ」と安達社長。  確かに、独特の風合いを持ち、その魅力を廃れさせず継続してほしいと願う人も多く、根強い人気の活版印刷ですが、こぢんまりとした工房で、活版だけをやっている印刷所も多いような気もします。啓文社印刷では、年季が入って風格のある活版印刷の機械を3台も所有。紙の種類や印刷の用途によって使い分けています。

啓文社印刷ドイツ・ハイデルベルグ社の活版印刷機。3台ある活版印刷の中で一番大きく、A2サイズまで印刷できます。

「古い機械も多く、50年から60年ぐらい使い続けています。活版の機械自体が昔のものだから、今持ってらっしゃる印刷会社は少ないと思いますよ。新しくつくられることもないので、ここに3台が現存していることは貴重なんじゃないでしょうか」。  安達社長いわく、機械によって特性があって、小さい機械はA4など小さいサイズの紙や比較的厚い紙を刷ることができるとのこと。大きな機械はA2サイズまでを印刷することができて、和紙など薄い紙にも刷ることもできます。用途によって機械を分けて印刷できるのは、啓文社印刷ならではですね。

啓文社印刷

活版印刷について、もう少し聞いていきましょう。活版印刷というと文字を1文字1文字組み合わせて印刷にかける印象がありますが…。 「活版印刷って、活字を1文字ずつ拾って組み合わせるパターン、そしてパソコンなどでデザインした活版用の版を使うパターンがあるんですね。活字でやる場合は実際、その場で文字を拾っていく文選という作業があるんですけど。現状では、そのオーダーはそれほど多くないです。だいたいが版をつくって印刷するパターンですね」と安達社長。

啓文社印刷活版印刷で使われる活字
啓文社印刷パソコンなどでデザインされた活版印刷用の版。

活版印刷の主役である活字について安達社長に聞いてみたところ、活字は印刷しているうちに 少し消耗してくるとのこと。今は、かすれるような文字がかえって味があるという意見もありますが、1回すり減ってしまうと、もう使えないらしい。 「磨耗して使えなくなった活字は、差し替えて使うんです。昔は活字は自前で鋳造してつくってたんですよ。型に鉛を流して1文字ずつ。でも活版印刷がだんだん減ってきて、今はもうつくらない。関西でつくるところはもうなくなってるので、東京の会社にお願いしています。3社ぐらいしかないんで、そこがなくなっちゃうと非常に厳しいことになります。だから活字を発注することで、その会社が潤って続いていけばいいなと思います」。

啓文社印刷

活版印刷についてひと通り話しを聞いたところで、実際に印刷するところを見せてもらうことに。今回は、カラーでオフセット印刷した用紙に、活字と版を組み合わせて活版印刷をすることになりました。実際に作業をしていただくのは、活版印刷歴10年の三辻雅路さん。啓文社印刷で活版印刷機を動かせる3人のスタッフのうちの一人です。

啓文社印刷文選(活字を選んで拾うこと)をする三辻雅路さん。

まずは、印刷をするための組版をつくります。今回は活字と「tete」と言うロゴを組み合わせて植字。文選箱と呼ばれるさまざまな活字が入った箱から、必要な活字を拾って組合わせていきます。

啓文社印刷ホームページアドレスとなるアルファベットを文選。

「活字を組むほかにも、コミというものを組み込んでスペースとしていきます。このコミ、全角、半角、3分の1、4分の1など、いろいろな種類があります。コミを組んで行くのも計算式があって、数学的要素もあるんですよね」と安達社長。

啓文社印刷コミを組み込んでいく。どこかテトリスのよう。
啓文社印刷コミのあとは、「tete」のロゴの版を組み、その上にまた活字をしていきます。
啓文社印刷活字とロゴの版で組み版が完成。ちょっとしたズレもないように、コミとコミの間に紙1枚を挟みこんで調整をしています。

組版ができあがったので、いよいよ印刷します。印刷機は「110YEARS OF HEIDELBERG」というメダルが付いているドイツ・ハイデルベルグ社の印刷機。この機械では、A4サイズまでの小さい紙の印刷が可能です。

啓文社印刷
啓文社印刷印刷機にセットされた組版。

「活版印刷って原理は簡単で、版があって、それを圧で押し、ハンコみたいにポンポンって接触することで印刷されます」と安達社長が言うように、機械はリズミカルに、版を押していきます。

三辻さんは、機械が印刷をしている間も、ネジを調整したりハンドルを触ったり、常に印刷機の面倒を見ている感じです。機械まかせにするのではなく、道具を操縦しているよう。 「圧の強さによって、活版印刷の凹凸が変わってきますから。微妙な調整をするために、機械に薄い紙を挟んだりもしますね」と三辻さん。 安達社長は、「圧加減とか。そのへんは職人の感覚によりますね。あまり押しすぎると裏側に凸がボコッと出るんで。でも押さなければ活版の良さが出ないし、そこらへんの微妙な調整は、職人の感覚と勘になってきますね。アナログといえばアナログなんですよ」。

啓文社印刷

活版印刷の味わいとして、今では凹みがあったほうがいいというお客さんもいるそうですが、昔の職人さんは、凹凸がないように印刷するのが当たり前だったそうです。 「昔の感覚でいうと、凸凹させるのは下手な職人。でもここ数年はそれが味になってきているので、今の良さと昔の良さをどれだけ組み合わせるかというところが大事ですね。文字がかすれるのもいい味だと言いますが、昔なら、それも下手くそ。それを分かった上で操作しないとダメということなんです」と安達社長。

啓文社印刷オフセットで印刷をした写真の上に、活版で文字を印刷しました。

先に述べたように、活字は印刷していくうちに少し消耗してきます。安達社長は、「刷っていったとき、最初のほうと最後では文字の具合が変わってきます。最初はシャープできれいなんですが、だんだんかすれて薄くなったり、角が取れて丸くなったり」と。

啓文社印刷今回の印刷でも、最初のほうで印刷した文字(下)と終盤の文字(上)では、かなり違ってきています。

「文字がへたってきたら、圧をあげるなどして調整します」と三辻さん。かすれるのも味のうちかと思いますが、職人さんにとってみては均一に印刷したいものなんでしょう。 「かすれ具合や凹凸具合などは、お客様の希望をヒアリングして、それに合わせて、じゃあこれぐらいの感じでやっときますという感じで刷っていきます。数値では加減は調整できないので、職人の判断でやっていますね」と安達さん。名刺では、やはり活版印刷独特の凸凹があり、少しかすれるぐらいの文字も人気があるそう。そんな活版印刷に合う紙ってあるのですか、安達社長? 「やっぱり、ちょっとフカフカしてやわらかい紙のほうがいい。コースターなどでよく使うクッション紙とかですね。これはもともと緩衝材だったので、昔は印刷用として使うなんて発想は全然なかったのですが(笑)、今は重宝されてますね」。

A2サイズが刷れる大きな印刷機では、ウエディングパーティのウエルカムボードが印刷されていました。本のカバーや帯、作家さんのポストカードなど、オフセット印刷と活版印刷を組み合わせる印刷のオーダーも多いという啓文社印刷。箔押しの組み合わせも可能なので、活版プラスαの可能性はますます広がりそうです。

啓文社印刷

取材・文/蔵均 写真/桑島薫

[啓文社印刷]
●兵庫県神戸市中央区二宮町1-14-19 TEL:078-241-1825

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