キチジツ 第2回 金具まですべて手塩にかけて。

大阪は羽曳野市の住宅街、母校・大阪芸術大学の近くのアトリエで、革雑貨を中心に制作をしている「キチジツ」の倉田篤志さんとあかねさん。今回は、創業当時のお話をうかがいました。
- SOUQ
- 東京で働いていたときは、どういうお仕事をされてたんですか?
- 篤志
- ジュエリー職人でしたね。ジュエリーの原型をつくる仕事をやってたんですね。
- SOUQ
- 原型というのはどこの部分になるんですか?
- 篤志
- 原型というのは、蝋で鋳造の元になる型をつくるんですね。これの職人をやってまして。その会社で革製品の新部署を立ち上げることになって、そこに参加することになるんですね。そこから革を始めたんです。
- SOUQ
- じゃあそれまでは革とは縁がなかったんですね?
- 篤志
- はい。ずっとジュエリーをやってました。学生の頃から。
- SOUQ
- 東京の会社にはどれぐらい勤めてらっしゃったんですか?
- 篤志
- 4年ほどですね。
- SOUQ
- 新事業の革に携わったのはどれぐらいですか?
- 篤志
- 2年半ぐらいですかね。

- SOUQ
- 会社を辞めようと思ったのはいつ頃ですか?
- 篤志
- 元々、会社勤めをする前から自分でやろうと思っていたので。
- SOUQ
- そのときはジュエリーをやろうと思っていたのですか?
- 篤志
- はい。
- SOUQ
- キチジツは「革と金属の工房」ですよね? 金属というのは、ジュエリーの仕事をしていた流れですかね。
- 篤志
- 金具とかも自分でつくっているんですが、これからはさらに難しい錠前とかもオリジナルでつくっていきたいと思っています。
- SOUQ
- やはりジュエリーづくりが役立っているのですか?
- 篤志
- そうですね。同じ方法でつくるので。
- SOUQ
- 革は、たまたま新事業の担当になったのかもしれませんが、2年半やって行くうちに、独立したら革メインでやっていこうと思われたんですかね?
- 篤志
- そうですね。両方やろうと思って。同時にスタートしたんですね。その中で革のほうがすぐ軌道に乗ったので、メインになっていった感じですね。

- SOUQ
- 会社を辞められたときには、商品を流通させるアテみたいなものはあったのですか?
- 篤志
- いえ、全然なかったですね。
- SOUQ
- じゃあとりあえず、自分でやってみようということだったんですね。
- 篤志
- そうですね。
- SOUQ
- そのときは、あかねさんもいっしょにだったんですか?
- 篤志
- はい。就職して1年目に結婚しましたから。
- SOUQ
- 「キチジツ」はお二人で制作されているわけですよね?
- 篤志
- はい。今は子どもが小さいので、ボクがつくる割合が大きくなっていますけど、二人でつくっています。二人とも全工程同じくつくれるので。タイミングによって切り替えながらやってます。

- SOUQ
- 二人とも同じようにつくれるのはいいですね。流通のアテもないところで、最初はどのようにして売り始めたんですか?
- 篤志
- ネット販売ですね。とにかくやってみようという感じで。
- SOUQ
- 最初はなかなか苦労されたかと思いますが、感触はどうでしたか?
- 篤志
- それが、出した月から売れ始めまして。いけそう!と思って、ここに越してきました(笑)。
- SOUQ
- 出した月にすでに売れ始めたんですね。それはすごい。
- 篤志
- ありがたいことですよね。そういうこともあるんですね。
- SOUQ
- そのときにつくられたものは何だったんですか?
- 篤志
- ここに試作品があります。これがいちばん最初につくったペンケースですね。今から比べると、いろいろと拙すぎて恥ずかしいんですけど。

- SOUQ
- スタイルは今のものと変わってないですね。
- 篤志
- そうですね。これが売れ出したので、そのまま継続してつくっている感じですね。
- SOUQ
- 売れるからといって、そんなに大量生産できるものでもないですよね?
- 篤志
- はい。売れるのはうれしいことなんですが、手縫いも初めてやったぐらいでしたし、まあ最初は、必死で寝る間もなくという感じでした。
- SOUQ
- ペンケースだと1日どれぐらいつくれるもんですか?
- 篤志
- 最初の頃は、1日1個とかですね。今だと1日4、5個はつくれるようになっているのですが。
- SOUQ
- 注文に制作が追いつかない感じですね。
- 篤志
- しばらくは休みがない状態で、ひたすらつくっていましたね。
- SOUQ
- 寝る時間はありましたか?
- 篤志
- たまに(笑)。忙しいときは、疲れたと思ったら、床に寝転がって仮眠して、起きてまたつくる。最初の年はそんな感じでしたね。
- SOUQ
- どんどん注文は増えていったのですか?
- 篤志
- そこからじわじわと注文をいただきました。

- SOUQ
- いきなり売れ出したということは、下積み時代がないということですよね?
- 篤志
- そうですね。いきなりだったんで。
- SOUQ
- 革の小物や革雑貨って、世にたくさんあると思うんですけど、売れた理由はなんだったんでしょうね。
- 篤志
- やっぱり、ないものをつくろうと思って。新しいもので、機能と見た目も面白いものと思って、ちょうど思ってた通りのものができたので、良かったんじゃないですかね。この口金とかすごい好きで。
- SOUQ
- ドクターバッグを参考にされたと聞きました。
- 篤志
- そうです。ドクターバッグを骨董市で見かけまして。古いやつは真ん中上に錠が付いてるんですね。細い取っ手が付いてて。それがなんともきれいだなと思って。

- SOUQ
- 昔からこういうパカっと開く構造がお好きだったんですか?
- 篤志
- こういう動く蝶番とか、金属の蓋物とか、そういうのが好きで。ペンダントでもちょっと開くものとかはいいですね。
- あかね
- ちょっとギミックのあるものが好きだよね。金具で欲しい形がないとなると、妥協せずに、理想に合わせてワックスからなにからいろいろ調節して、できた金具に対して、「きれいやなあ」とつぶやいてます(笑)。
- 篤志
- 金具はつくることが多いですね
- SOUQ
- 革雑貨を手づくりしてる方でも、金具などは別注している人の方が多いと思うのですが、すべて自分たちでつくられるんですね。

- あかね
- あるもので理想に近いものであれば使うのですが、ちょっとこの角がイヤやなとか気になると、いつのまにか調整しちゃうんでしょうね。
- 篤志
- 買ってきたものでも、どうしても手を入れちゃいますね。
- あかね
- とにかくいろんなところをさわるのが好きなんで、こだわりといったらこだわりなんですが、そこを自然にやっちゃうんですよね。
- 篤志
- ネジは、角とかちょっとした出っ張りとか残っているのがイヤなんで、磨きますね。革のやわらかい質感に対して、エッジがどうしても硬く見えて、合わないんですよ。だから、やわらかいツヤ消しの仕上げにしまして。これだと革と質感が合います。
- SOUQ
- ツヤ消しにするには、磨くんですか?
- 篤志
- はい。1個1個ワシャワシャと。
- あかね
- ヤスリみたいなのがあるので。
- 篤志
- ヤスリのタワシみたいのがあるんですね。
- あかね
- それで撫でて、全体的にツヤ消しされるように磨いてます。
- 篤志
- 金属の表面に方向性をつけたくないんですね。ヤスリでさっと磨くと線が入っちゃうので。線、すなわち方向性が入ると楕円に見えてしまうんですよ。
- SOUQ
- なるほど。
- 篤志
- 全方向の線が均一に入ることによって、きれいな丸みに見えますので。ちょっとしたことですけど、こういうのがこだわりですね。

取材・文/蔵均 写真/桑島薫
ディテールへのこだわりを言葉の節々に出す篤志さん。次回第3回は、さらに、「キチジツ」のものづくりへのこだわりを掘り下げます。
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