近畿編針 “茶筅の街”で生まれる、美しい竹編針

「高山町は茶筅の国内シェアが90%以上。そこから茶杓とか茶さじとかをつくっている会社や工房も多いです」。 こう話してくれたのは、今回のものづくりの現場・近畿編針の代表取締役・尾山恭子さん。近鉄けいはんな線学研北生駒駅から車で15分、のどかな風景が広がる奈良県生駒市の高山町は、その昔から茶道具、特に抹茶を点てるのに使われる茶筅の街として知られます。これら茶道具の原料は竹。近畿編針は、金属やプラスチック製も多い編針の世界で、竹製のよさを伝え続けている会社です。

編針の素材には竹がいい。
「高山町で編針をつくっているのは、多いとき10軒以上ありましたが、いまはほんの数軒。一人でやってらっしゃるところもあるので、人を抱えてやっているところとなると、さらに少ないです」と常務取締役の尾山敬さん。全国でも、竹の編針をつくる会社は、もうほとんどないそうです。

近畿編針は、1916 年創業。2年前に100周年を迎えた業界の老舗。ニッポンの竹編針代表として、自社製品の約4割をヨーロッパやアメリカで売り上げている。 「素材が竹というのがポイントで、エコな素材として認識してもらっているので、海外で評価されてると思います。さわりごごち、すべり具合、見た目の美しさも支持されているのではないでしょうか」と敬さん。


竹製が評価されているという編針。金属やプラスチック製とでは、どのよう違いがあるのでしょうか? 「金属やプラスチックは、編むときにカチカチ音がするとか、持ったときに手が冷たいとかはあると思います。竹は軽いですしね。それと、竹と金属では、同じ人が編んでも目のそろい方が違ってくるんですよ。竹は適度な弾力とすべり、しなりがあって、編み目をそろえるのに作用していると思いますね。金属は硬くて、しならないので、目がそろいにくい」と恭子社長。
孟宗竹と真竹の違い。
竹の種類にもざまざまありますが、近畿編針では主に孟宗竹を使っているそう。 「竹は中が空洞なんで、ふちの部分の身の厚さがどれぐらいあるかで、どんな太さの編針がつくれるかが決まってくる。真竹は細いので肉厚が薄く、細い針しかつくれないんですよ」と敬さん。 恭子社長いわく、竹は、水分や養分を運ぶ維管束が多いほうが素材には向いているそうです。実は真竹のほうが維管束が多いのですが、太い針にするにはふちの部分が薄すぎるので孟宗竹を使っています。 「同じ孟宗竹でも、中国のものと日本のものでは維管束の数が違いますね。持ったらすぐわかります。日本のほうがずっしり重くて。維管束の数が多いんですね」

今は伐採した竹を竹ひごにする作業は外注。しかし、ゆくゆくは自社で竹を育てるところから関わっていきたいそうです。 「やっぱりトータルでやれるほうが品質の確保もできますし。これからのブランドを考えると、その部分が重要になってくると思うんです」と敬さん。 「竹は、うまく利用できれば捨てるところはないんですよ」と恭子社長が言うように、自分たちで栽培からプロダクト、端材利用までコントロールして、放置竹林などの問題にも取り組んでいけるようにと構想を描いています。

竹の棒から編針が生まれるまで
「竹は自然素材なので、一つ一つバラツキがある。最終的に製品にするとき、それをいかになくすかが課題ですね。これはもう職人の経験と勘によるところが大きいです」と敬さん。 「だから機械も大変なんですよ。工業規格に当てはまったものをきっちり仕上げていくのとは違うから。オーダーでつくってもらうか、木工機械を改造したものがほとんどですね」と恭子社長。 そんな大層な機械はなく、「機械と道具の間ぐらいな感じ」という敬さん。さて、いよいよ現場である工場をのぞいてみると…。


1・磨き
まずは、竹ひごの表面をきれいにし、太さを整える作業です。


2・先付け
磨いた竹ひごの先を削って尖らせる。今はサンドペーパーで削りますが、昔は砥石で削ってこともあります。

3・丸め
先の部分が平らなのを丸くする作業です。手作業で取りつけたサンドペーパーが高速度で回って削っていく。ペーパーの当たり方によって丸まり方が変わってきます。

4・バフ
全体をきれいになめらかにして、針の滑りやすさを出すための作業です。ちょっと厚めの木綿の布で、当たる場所を変えながら磨いていきます。仕上げは、針先の滑りがいいように天然のロウを塗ります。
5・刻印
磨かれてきれいになった針1本1本に、サイズや号を刻んでいく。

6・選別、検査
製品となった編針に欠陥はないかを全品検査。手作業と目視がすべてです。


編み物の楽しさがつまったショップ
近畿編針では工場にショップ「趣芸」を併設しています。毛糸はドイツを中心に、スペイン、アイルランド、ラトビアなどの色鮮やかな編み物用の輸入物毛糸を展示・販売。ニットと革を組み合わせたキットを企画、ワークショップも開催するなど、編み物をもっと身近に感じることができるさまざまな試みを仕掛けています。




このショップに、ロシアからの観光客が、学研北生駒駅から1時間ほどかけて歩いてやってきたこともあるそうです。どうしても「Seeknit」の編針がつくられる現場を訪れたかったとのこと。“茶筅の街”から世界へ。竹編針の輪は着実に広がっているようです。
取材・文/蔵均 写真/桑島薫

竹あみ針と手芸用品のお店「趣芸」
奈良県生駒市高山町4368
TEL:0743-78-1119(要予約)
10:00~16:00