梅村マルティナ 前編 編むことは、楽しいこと。 | SOUQ ZINE スークジン

梅村マルティナ 前編 編むことは、楽しいこと。

梅村マルティナ 前編 編むことは、楽しいこと。
さまざまなジャンルで活躍するクリエイターを紹介する「ピックアップクリエイター」。今回は、素敵な模様と幸せな気持ちをカラフルな毛糸で作り出す、ニットクリエイターの梅村マルティナさんに話を聞きました。

京都の知恩寺境内で毎月15日に開かれている「百万遍さんの手づくり市」。ここに出店中のマルティナさんを探して境内を歩き進めると、まだまだ残暑厳しい9月だというのに、カラフルな毛糸や編み物が積まれた「梅村マルティナ気仙沼FSアトリエ(KFS)」のブースにはたくさんのお客さんが集まっていました。

えっ、夏に毛糸? 今日なんて30℃あるのに……?

そうポロリと呟くと、マルティナさんは「もちろん秋冬の方がお客様は多いですけど、夏でもみなさん見に来てくれるんです。前回買った毛糸で自分が編んだものを見せに来てくれたりして」と明るく笑って迎えてくれました。

梅村マルティナ
SOUQ
活気があってお祭みたいですね。百万遍さんにはいつ頃から出店されているんですか?
マルティナ
2003年くらいからなので、15年以上ほぼ毎月出店しています。最初は一人で編んだ靴下だけを持ってきていたけど、徐々にアイテムを増やし、今ではKFSとして手伝ってくれるスタッフも増えて、みんなでワイワイと楽しみながら出店しています。百万遍さんは、いわば私の活動のホームです。

マルティナさんにとって編み物は、子どもの頃から身近にある当たり前のものでした。当時のドイツでは学校の授業で編み物を教わることができたそうです。マルティナさん自身、6歳の時から家族全員の靴下を編んでいました。

ドイツで医学を学んだマルティナさんは、京都大学に研究者としてやって来て、その後この町で結婚し、子どもを育て、ドイツ語講師として教鞭をとっていました。その間にも、日々の暮らしの中で当たり前のように編み続けてきたそうです。

マルティナ
編み物をすると心が落ち着くんです。特に、疲れたりイライラしたりした時に、針を手に何も考えずにただひたすら編んでいくと、次第に気持ちが整理されていくんです。
梅村マルティナ
SOUQ
編み物をしたことがない人間にとっては、編み物って目を数えたりして肩がこりそうだなって思うんですけど……
マルティナ
そんなことないですよ。編み物ってとっても簡単なんですよ。単純な繰り返しをするだけでいいんです。うーん、貧乏ゆすりに似てるかな。
SOUQ
貧乏ゆすり?!
マルティナ
貧乏ゆすりとか髪の毛を指にクルクル巻く動作とか、無意識に繰り返すことで心が落ち着くクセってあるじゃないですか。それに似ています。ただ大きく違うのは、編み物はそれがちゃんと物として形になるところ。しかも編み上がったものを見て、誰かが褒めてくれたり幸福な気持ちになったりもする。自分の心を落ち着かせられる上に人を喜ばすこともできるんですよ。
SOUQ
それは……素敵なクセですね(笑)。
マルティナ
そう。編み物に没頭することで、自分だけの世界を作り出せるんです。しかも、いつでも始められて中断も気軽にできる。私にとって編み物は、昔も今も暮らしの中に自然にあるもので、自分の心をコントロールできるもの。それでいうと子どもたちがまだ幼かった頃、私が彼らを叱ろうすると、怒られたくない子どもたちはすぐに編み棒を持ってきて「ママ編んで」って私に渡してきたんですよ。「ママは編み物をしたら落ち着くから、これで怒られないで済む」っていうのが見え見えで。
SOUQ
かわいい!
梅村マルティナ

「編むことで心を休められる人がいるかもしれない」

穏やかで楽しい気持ちで編み上げた靴下は、京都の友人や知人に大好評でした。最初のうちはみんなにプレゼントしていたマルティナさんですが、「日本人はただではもらってくれない。お礼をしたがっちゃう」ことに気づきました

マルティナ
それなら、いっそきちんと値段を付けた方がいいかなと思いまして。買ってくださった方の気持ちをお預かりして、社会を良くする力にできたらと、売上を寄付することにしました。その頃、アフガニスタンでは空爆が行われていて多くの方が苦しんでいました。そこで「宝塚・アフガニスタン友好協会」を通じて、売上をアフガニスタンに寄付するようになりました。
SOUQ
百万遍さんの売上もアフガニスタンに?
マルティナ
そうです。でも、2011年に東日本大震災が起きて、どうしても東北の方々のことが気になって、「ごめんなさい! 今年の寄付は期待しないでください。東北に寄付したいんです」と協会の方に打ち明けたら、快く理解してくれたので、その時から売上を東北の被災地に寄付するようになりました。
SOUQ
素早い行動ですね。
マルティナ
まず、貯めてあった売上をある寄付窓口に振り込んだんですが、どこにどんな形で分配されているかがわからなかったんです。被災した方は避難所でどんなふうに過ごしているだろうと想像してみて、もしかしたら私のように編むことで心を落ち着けたいと考える人がいるかもしれないと思いつきました。その人たちのもとに毛糸と針が届いて、少しでも明るい気持ちを取り戻せたらと願って、毛糸2玉と編み針と簡単なレシピを同封した編み物セットをつくって、被災地支援のNPO団体を通じて被災地に届けてもらいました。
梅村マルティナマルティナさんが東日本大震災被災地の避難所に送ったセット。

当時を振り返りながら、マルティナさんの夫の梅村さんは苦笑しました。

梅村
最初、家族は反対したんです。水や食料が必要とされる緊急事態に毛糸は邪魔に扱われるんじゃないかと言って。最初はNPOの人たちも「はぁ、毛糸?!」という感じでした。
マルティナ
京都を出発する車にちゃんと積まれているか確かめにも行ったんです。やっぱり水や食料が優先されて置いていかれそうになって。
梅村
でも、「気力がないときにこそ、無心になって編み物をすることで心が休まる人がいるかもしれない」というマルティナの話に、一人のスタッフの方が耳を傾けてくれて、宮城県の避難所に少量のセットを届けてくれました。

そのときのセットには、マルティナさんの息子さんが描いたレシピとイラストが添えられていました。そこには、マルティナさんの自宅の電話番号も記載されていました。

マルティナ
私と同じような思いの方に届けばいいなという気持ちだけだったんですけど、10日くらい後に電話がかかってきたんです。「気仙沼市の小原木中学校避難所の者です。毛糸をありがとうございました。足りないのでもっと送ってほしいです」という連絡でした。それから毛糸を追加で送ったり、電話でお話ししたり、みなさんの編み上がった作品の写真をいただいたりしていくうちに、この方たちに会いたいという想いが募っていきました。そして、6月11日に、家族みんなで小原木中学校避難所を訪れることが叶ったんです。
梅村マルティナ

編むことで、人と人、場と場をつなぐ

SOUQ
避難所ではどれくらいの方が編んでいたんですか?
マルティナ
約180人のうちの20人くらい。もともと編めた方が編んでいたようでした。「夢中で編んでいると辛い記憶を忘れられる」「編んでいると、まわりの人が『きれい!』と褒めてくれてうれしかった」というお話を聞きました。毛糸や編み物をきっかけに、地震や津波以外の話ができて助かったと言っていただきました。
SOUQ
しかも、これだけカラフルなものが編み上がると、気持ちも明るくなりますよね。
マルティナ
ただ、行ってみてわかったのは、毎日生きることに精いっぱいの状況では、新たに編み物を覚えようというのは難しいということ。そこで、編めない人にとっても何か楽しいことを生み出せないかと考えて、7月には一人で気仙沼に毛糸を運び三つ編みと糸結びだけで作ることができるタコの人形づくりを始めました。
SOUQ
それがこの「小原木タコちゃん」ですね。
梅村マルティナ
マルティナ
ドイツではたくさんの足で幸せをつかむとされるタコをマスコットにしました。これなら、編み物ができない方も参加していただけます。女性たちだけでなく、船乗りさんやお子さんも手を動かしてくれました。そして1回目には約80匹のタコちゃんができ上がり、この百万遍さんに連れ帰ってきました。
SOUQ
タコちゃんは販売ではなくて「養子縁組」という形でお渡ししているんですよね?
マルティナ
気仙沼の人たちの想いが込められたタコちゃんを、被災地ではない方々のもとに家族の一員として迎え入れていただきたいというプロジェクトなんです。だから販売ではなくて「養子縁組の仲介手数料」をいただき、そこから気仙沼の作者の方に制作費を払い、寄付をしています。タコちゃんは被災地と被災地ではない場所をつなげるメッセンジャーなんです。
SOUQ
百万遍での反応はいかがでしたか?
マルティナ
関西では東北を遠く感じている方も多くて、最初は驚かれることもありましたが、気仙沼で見てきたことなどをお客様にお話していくうちに、私たちの想いや取り組みを理解していただけるようになってきました。気仙沼でつくられたタコちゃんに出会ってもらう場所として、ここ百万遍さんはとても大事な場所です。その後、気仙沼からタコちゃんや編み物のつくり手さんを呼んでワークショップを開いたりして、みなさんの生の声をお届けしていくことで、どんどん人と人のつながりが生まれていったように思います。
梅村マルティナ

取材・文/浅利芙美 写真/桑島薫

やさしさと行動力で人と人をつなげて、幸せを編み上げて行くマルティナさんのものづくり。「特別なことをしているわけじゃない」と語るマルティナさんは、「編むことは、楽しいこと」という純粋な気持ちに突き動かされているというのが、ひしひしと伝わってきました。インタビューの後編では、マルティナさんを魅了したドイツ生まれの「魔法の毛糸 Opal」のことや、手づくり市から百貨店での催事までさまざまな場で編み物の楽しさを伝えている最近の活動について、詳しくお聞きします。どうぞお楽しみに!

イベント情報
~毛糸にふれればみんなしあわせ~
「マルティナさんとしあわせを編む魔法の毛糸フェア」
1/22(水) - 28(火)(最終日17:00閉場)
阪急うめだ本店10階 南街区「セッセギャラリー」

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