マスキングテープが生まれる夢の工場


「ファクトリーツアーは年に1回、桜が咲くころに、2週間開催しています。1日1,000人ぐらいの方が来てくださるので、合計約14,000人が参加してくれます」と本社工場長の佐藤充さん。

たった2週間で14,000人! 周囲は田園風景もちらほら見られる、のどかな場所にあるカモ井加工紙の本社工場。ここに「mt」のマスキングテープファンが訪れ、工場見学や期間限定のショップやカフェを楽しむそうです。
「50人乗りのバスが一日に20便、倉敷駅から到着します。全国の『mt』ファンの方がポイントを貯めてツアー参加の応募をしてくれるんですね。海外からもいらっしゃいますよ」と教えてくれたのは、今回の取材の案内役、営業部部長の高塚新さんです。

ファクトリーツアーの参加に毎年50,000人の応募があるというほどの「mt」人気。今ではすっかり私たちの暮らしの中に根づいているのですが、「mt」ブランドがスタートしたのは2008年。まだ10年ぐらいの歴史しかないとは意外な気もします。
「カモ井加工紙では、昭和30年代の半ばに車両に貼る工業用テープをつくったのがマスキングテープのはじまりですね。そこから用途を広げ、さらに『mt』をスタートさせて、柄が入ったかわいいテープをつくり始めました」と高塚さん。

たった10年ほどでこれほど広く普及し、文房具として雑貨として、ライフスタイルに欠かせなくなったマスキングテープは、どのようにして生まれてくるのか? ファクトリーツアーと同様に工場見学をさせていただきました。

カラフルで楽しくなる製造工場
広々としたカモ井加工紙の敷地内で、マスキングテープに関わる工場は主に2つ。まずは製造工場を訪れました。エントランスでいきなり目に入ってきたのが、マスキングテープで描かれた工場での行動指針。スタートから、カラフルでかわいいマスキングテープの世界に引き込まれます。

「ここでまず、紙に粘着剤や剥離剤を塗って、大きなテープ巻きをつくります。いわばマスキングテープの素。500柄から1,000柄をこの状態でストックしておいて、あとはお客様のオーダーに応じてどんどん小さくしていきます」と佐藤さん。

「mt」のブランドがスタートした当初は、色のバリエーションのみだったそうですが、そこからストライプやドット、チェックなど柄がどんどん増えていって、これまでに2,500種類以上のデザインのテープがつくられました。
「ジャンボ巻きを、オーダーに応じて紙管に貼り付けて巻き取って、切っていくのが次の工程です。マスキングテープの幅は15mmが標準なんですが、3mmや6mmの細幅の製品は、強度のあるプラスチック管に巻きます」と佐藤さん。

工場を巡っていくと、一般的にイメージされる工場の無機質さとは違って、あちこちにカラフルなマスキングテープで装飾がされています。



「ファクトリーツアーが始まってから、『mt』ファンのお客様に少しでも楽しんでいただきたいという願いから、このような装飾をしています。来ていただいた方は、とても喜んでくださりますね」と高塚さん。

紙管に巻きつけられたテープは、最終的に製品にするべくカット。カモ井加工紙では“狙い切り”と呼ばれるマスキングテープならではの工程もあります。
「ストライプや総柄のようなものなら、どこで切っても変わらないのですが、たとえば猫の顔がデザインされたテープの場合、刃を入れるところによっては顔が半分に切れたりして、製品にならない柄もありまして。ずれないように狙って切っていきます」と佐藤さん。
白を基調にモダンな梱包工場
できあがった製品を包装したり梱包するのはまた別の工場となります。もともとあった建物を5年前にリノベーションしたというこのファクトリー、そのデザインや素材のかっこよさに目を奪われます。

「こちらの工場は白を基調にしています。『mt』を梱包する箱が白なので、それが映えるように壁はガラス張りにしてるので、ときどき気づかずに頭をぶつけたりするんですけど(笑)」と工場長。

「『mt』はいろんな形態がありまして、箱に入れたり袋に入れたりというのは機械でもやるのですが手作業も多いです。箱の種類も何十種類もありますね」と佐藤さん。

きっかけは熱烈なファンから
工場見学を終えて、次に向かったのは史料室。こちらも梱包工場と同じように、もともと糊をつくっていた工場をリノベーション。ガラス張りの1階には、マスキングテープでラッピッングされたミニクーパーや自転車などが置かれています。




2階に上がると、カモ井加工紙の96年の歴史の流れがわかる写真や資料が置かれています。元々はハエ取り紙で事業をスタートし、その技術を生かしてマスキングテープが生まれたのです。


96年前からハエ取り紙をつくっていたカモ井加工紙は、昭和30年代に工業用マスキングテープをつくり始め、2008年には「mt」ブランドをスタートさせました。無地の工業用テープにデザインを加え、今のようにかわいいものになったのは、どういうきっかけ? その原点が史料室に置いてありました。

「このZINEは、『私たちはマスキングテープが好きだ』という3人の女性がつくったものです。当時の工業用テープを『質感も機能性もいい』と文具的に使ってくれていて、その好きさが高じて、自主的にZINEをつくって販売してたんですよ」と、高塚さんが見せてくださったのが『Masking Tape Guide Book』。


「当時のマスキングテープの種類を紹介したり、テープの上に字を書いてみたらどうなるだろうと検証をされてたり、封筒を閉じるのに貼ってみたり。“私たち、こんな風に使ってますよ”というのを掲載されていて。これって、今の使い方の先駆けですよね」。


高塚さんが説明してくれたように、当時は無地しかなかった工業用マスキングテープの魅力をさまざまな角度から取り上げたこのZINEのクオリティは秀逸で、制作した数百冊があっという間に売れたそうです。
「好評だったので第2弾をつくることになり、工場見学をしたいということで3人がうちに来てくれたのが交流のきっかけ。そこから、もっとカラフルなものや柄物を揃えてみてはどうかということで始めたのが『mt』なんです」。
熱いファンのマスキングテープへの想いが、「mt」を誕生させたというわけです。それから11年、カモ井加工紙の史料室には、歴代のテープが誕生順に展示されています。

「mt」のマスキングテープは、瞬く間に浸透し、今では海外でも人気を博しています。
「今はアジア諸国のほか、アメリカ、オーストラリアなど20カ国ぐらいに定番品として輸出しています。『mt』が出るまでは、こういうふうに使われている和紙のテープはほぼなかったんじゃないでしょうか。薄くて貼りやすく、剥がすときに糊が残らないマスキングテープは、日本の文化とも言えますね」と高塚さん。

うめだスークでの「mt」展
11月27日(水)から12月10日(火)まで、2週間にわたり開催される「mt Christmas with UMEDA SOUQ 2019」。昨年のイベントもフロアにマスキングテープを敷き詰めるなど、空間装飾が話題を呼びました。

「うめだ阪急さんは、集客力だけでなく発信力もすごいので、熱い想いを持ったお客さんが来られる。僕らがふだんは交流のないような方が来られて、出会いがあるのもうれしいですね」と高塚さん。

今年のイベントのテーマは“おうちで楽しむクリスマス”。今回の「mt」は、ディスプレーデザイナーであり、暮らしの装飾家でもあるミスミノリコさんとコラボレーションし、マスキングテープにシールやボックスなどを組み合わせたキットを用意。新しいクリスマスの楽しみ方を提案する予定です。

熱心なファンの想いから生まれた「mt」のマスキングテープ。今では「mt CASA」という家の壁や道具などをコーディネートする幅広のテープもラインアップに加え、日本人の暮らしを変えていっていると言えるのではないでしょうか。今年は、マスキングテープが彩るクリスマスを楽しんでみませんか?
取材・文/蔵均 写真/桑島薫
阪急うめだ本店10階『うめだスーク』中央街区5・6・7番小屋
mt Christmas with UMEDA SOUQ 2019
11月27日(水)~12月10日(火)
※最終日は午後5時終了