中原慎一郎 第3回 原点は、多彩な実家の商売

生まれ故郷の鹿児島をはじめ、東京、サンフランシスコでも活動するランドスケーププロダクツの中原慎一郎さん。今回のインタビューは、実家の仕事のことから始まり、人をどうやって活かしていくかについて話をうかがいます。
- SOUQ
- インテリアから食まで、ランドスケーププロダクツや中原さんが手がけていることは本当に多彩なんですが、それは昔から変わらないんですかね?
- 中原
- 会社を辞めて独立したときは、お店も始めながら内装の仕事も同時に始めたり、最初からいろいろなことをいっぱいやってました。そういうところは、根っこをたどると自分の親の商売に近いんですよ。
- SOUQ
- そうなんですか。ご両親はどういう仕事をされてたんですか?
- 中原
- 魚屋と肉屋をやりながら仕出し屋をやったり、家の中で下宿もやってたり。だから家には常にたくさん人がいて。小さいときから、協働してなにかをする、人といっしょに働くというのが染みついていて。

- SOUQ
- それはまた多彩な商売ですね。
- 中原
- 仕出し屋では集まったおばちゃんといっしょに弁当つくったりしてて。宴会があったら、お弁当を持って会場へ届けるのですが、宴が始まる前に僕たちはもう帰っちゃうわけ。その感じは、いまの自分の仕事のやり方に通じてるなあと思いますね。
- SOUQ
- お膳立てをしたら、あとはどうぞ盛り上がってくださいって感じですかね。
- 中原
- そうです。同業者の中には、宴会に出てライブまでやっちゃうタイプもいますけどね(笑)。
- SOUQ
- いっしょに盛り上がらないと気が済まないタイプ(笑)。なるほど、中原さんは、基本自分一人だけで動くことはあまりないんですね。

- 中原
- 自分でやると、だいたい結果が見えちゃうところがあるじゃないですか。こうしないと気が済まないとなってイライラも募るし。もちろん人を使ってイライラする人もいっぱいいるんでしょうけど、僕は人を使って何かをするとき、その人のやり方を楽しむタイプなんで。こういうふうにやらせてみたり、こうなるにはどう導いたらいいかというのを考えるのが好きで。そのときどきに、この部分はこの人がやればおもしろくなると配置を考えるのがすごく楽しいんですよね。
天狗には楽しい罠をかける
- SOUQ
- 人をどう活かすか…。
- 中原
- 薩摩藩は、日本が鎖国状態のときに十数人の留学生を偽名を使ってイギリスに送り出してるんです。ああいうのをやったみたかった。あいつ行かせたらいいんじゃないかとか、あいつ入れるんだったらこいつ入れようとか(笑)。めっちゃくちゃおもしろいだろうなあ。

- SOUQ
- それはなかなか日の目を見ずに燻ってる人間に、スポットを当ててあげたいという気持ちもあるんですか?
- 中原
- それほどむずかしいことは考えてないんですけどね。単純にこの人はこうするとおもしろくなるとか、こういうパフォーマンスをしそうとか考えるだけなんで。逆にむずかしいのは、うまくいって天狗になってる人がいるでしょ。それをどうするか。それもおもしろいんですけどね。
- SOUQ
- めんどくさそうですけどね(笑)。

- 中原
- いやいや、おもしろいんですよ。楽しい罠を仕掛けたりして(笑)。それをクリアしたときに、さも自分でできたと思ってるのを見ると、こっちはまたうれしいわけですよ。
- SOUQ
- 懐が深いですね。
- 中原
- 経営者って二極に分かれるんですよ。そいつがうまくいったことに対して腹を立てるタイプと、そうじゃないタイプ、俺は後者で、まんまとハマったなと思うタイプなんで。全然それでいいんですよ。天狗になってたりすると、また次の試練が来るじゃないですか。人生そうなるようになってますから。そのときにはまた新しい罠をかけますね。
- SOUQ
- それはちょっと意地悪ですね(笑)。

- 中原
- まあ自分も罠にはまりますからね。とにかく失敗をスタッフのせいにするのがイヤで。結局その人が足りない部分をどうやって埋めるのかというのが僕らの仕事だから。その人が想像以上にやってくれたときは褒めればいいし、足りないときはそれを理解してあげて、どうサポートするかが会社の仕事だから。それがおもしろいですよね。
便利さよりも頼もしさ
- SOUQ
- それを楽しめるのはいいですよね。普通めんどくさいとか気を使うとかになるじゃないですか。いい上司と部下の関係ですね。
- 中原
- それを気づいてくれる人とそうじゃない人がいると思うんですけど、楽しくやってるのがいちばんいいかなあと思います。茶化したりするときもあれば、真剣に諭すときもありますけど。

- SOUQ
- ランドスケーププロダクツのスタッフの職種ってさまざまですよね。
- 中原
- そうですね。あんまり肩書きみたいなものにとらわれてないですね。つながってるということが重要で。こないだも司馬遼太郎の『二十一世紀に生きる君たちへ』という本を読むと、 “いちばん重要なのは頼もしさ”って書いてあるんですよ。
- SOUQ
- 頼もしさ?
- 中原
- 確かに俺もそう思うんですよね。いまの世の中いろいろ便利なツールが出てきて、デザイナーだって世にあふれる時代になってきて。だれが頼もしいかってなる。家建てるにしても、プロジェクトにしても、だれに頼んだら頼もしいかって考えたときに選択されるような会社であり個人じゃないとダメ。そういう部分がいまはいちばん重要なんじゃないかと思います。便利さじゃなくて。
- SOUQ
- 本当に、便利なものは増えましたけどね。
- 中原
- 便利さと頼もしさは違いますよね。便利って刹那的なときもあるし、次の便利がでてきたらすぐ越されてしまう。いつも頼もしくありたいですね。
取材・文/蔵均 写真/桑島薫
会社の部下をはじめ、さまざまな仕事でどう人を活かしていくか? それを考えるのが楽しいというのが、中原さんがいろんな分野で活躍されている一つの理由のような気がします。次回最終回は、ランドスケーププロダクツについて話を聞いていきます。