鳴瀧窯 呼吸するうつわの窯出し実況中継!

鳴瀧窯があるのは、日本六古窯のひとつ備前焼の産地。中心地である伊部(いんべ)から少し離れた郊外の山陽街道沿い、周囲を畑や小さな山に囲まれた牧歌的な風景の中に佇んでいます。

窯の主は安藤騎虎さん。横浜出身で、23歳のときにこの地にやってきて、研修センターで2年、窯元で5年の修業を経て独立。11年前に窯を構えました。

前の持ち主から窯を買った安藤さんが、少し郊外に拠点を持ったのは、現在の備前の窯事情にも因るようです。
「備前市には煤煙規制というのがあって。備前焼を焼く登り窯だとどうしても煙突から煙が出ますよね。伊部の街に新しい煙突を立てるためには、半径200mの人すべてに承諾を得ないといけなくて。物理的にそれはかなり難しいので、新規で窯を起こす人はどんどん郊外に出て行ってます。うちの場合は前の持ち主が亡くなられて、10年ぐらい空き窯になっていたのを買わせていただきました」。

手間がかかってしまう焼き物
23歳で備前にやってきた安藤さん。その前から、陶芸の道を志していたのでしょうか?
「何をしようかずっと迷ってた感じですね。写真も絵もやってましたし、いろいろ興味のあるものはあったんですけど、決めきれなくて。料理が好きだったので、料理人もいいなあと思ってたりもしてたんですけど、やっぱり迷ってて。ただ伝統工芸とか伝統文化とか、そういうものに興味があって携わりたいなという気持ちが強かったので、そういう意味で、焼き物はどちらも兼ね備えているかなと」。

備前焼は、釉薬をかけずに高温で焼成する焼締めが基本です。安藤さんに備前焼の特徴を聞くと、「手間がかかる」焼き物だという答えが返ってきました。
「まず型を使わないですし、一個一個手でつくりますし、焼くときは薪をくべて登り窯を使います。薬をかけないので土が命。土味も作家ごとに決めていかなければならないので土もつくりますし。それぞれの工程が、全部手がかかっちゃうんですよね」。

まさに窯出し中の登り窯を拝見!
ここで早速、うつわが焼きあがったばかりで、今まさに窯出し中という登り窯を拝見させていただきました。

登り窯の中には、まだ陶器が大量に残っています。今回は、小さい方の窯で約1,000点のうつわが焼成されました。半年に1回という窯出しの現場を実際に見ることができたのは貴重な機会です。


「登り窯で一週間焼くのですが、最初の5日半は前のほうの部屋で、残り1日半が後ろの部屋で焼きます。なので、前の部屋に比べて後ろの方は、当然色はあっさりしています」。


「前の部屋は薪も時間もある程度使って、登り窯ならではの深い色合いをねらいます。たとえば薪を大量にくべて中を窒息状態にする。そうすると備前焼の土って鉄分が多いので黒くなってきて、より深みを増していくんですよ。後ろの方は、あえてわりと素直に、空気が多い状態で焼くので、ちょっと明るめの色になります」。

備前焼になくてはならない登り窯に欠かせないのが、アカマツの割木。アカマツは油が多いのでよく燃えるそうです。窯の傍には、束ねた薪が一束ずつ向きを交互に積まれていますが、今回、1,000点のうつわを焼くのに使われた割木は、約600束です。

「前の部屋は3列あるんですけど、割木を燃やす1列目は一番火が強いのは当然。2列目、3列目とは焼き具合が違ってきます。灰もここが一番かかりますね。灰が多くかかると、その部分が黄味を帯びた表情になります。2列目でも、上の方は、灰が煙突の方に向かって後ろに流れていきますから、結構かかってくる。そのへんを考えながら、どこにどういうものを入れようか決めていきます。細かい焼け具合とか灰のかかり具合は窯から出してみないとわからないので、予想外の柄になる場合もありますね」。

釉薬を使わないので、土や火、灰などの自然の力が大きく作用する備前焼。できあがりは、焼くたびごと微妙に異なるようです。

人間はコントロールできない
「出したてホヤホヤは、まだザラザラしてるんですよね。ここから一つ一つ布ヤスリで磨っていきます。ちょっとした小岩など噛んでいるとそこから水が漏れたりするので、磨った後に全部水漏れ検査をします。だから結構時間がかかりますね」。

焼締めの備前焼で、“景色”を産み出すのに重要な役割を果たすのが藁です。
「重ねて焼くときに、間に藁を入れているんですね。そうするとくっつき防止になるんですよ。もともと緩衝材として使っていたのですが、その跡が緋襷(ひだすき)という模様になります」。


そのほか、備前では、 “ボタ”と呼ばれる、耐火度の高い粘土をせんべい状にしたものも焼成のときに使います。温度が高くても溶けないので、例えば皿の上に藁を置いてその上にボタを置いて重ね焼きしたり。意図的に丸い抜け模様をつくるときにも使います。


「備前焼って原始的な焼き物なので、作為的にやったことってあまりなくて。必要に迫られて何かをしたことが、結果的に焼きの景色になってるんですね。絵付けをしたり、釉薬をかけたりするのは、人間がコントロールしているものですよね。備前焼はそれができない。よく備前焼の作家さんが、いい意味でも悪い意味でも「一つとして同じものがない」と言います。よく言えば1点ものだし、悪く言えば同じクオリティのものができない。均質化というのはなかなか難しいところではありますよね」。

藁やボタなどを使って、うつわの表情に変化を出していく備前焼。安藤さんが藁を敷いた皿の仕上げにかかってくれました。
展示会で披露される新作とは?
今回焼きあがったうつわの中から、5月22日(水)から「スーク暮しのアトリエ」で開催される「鳴瀧窯-narutaki-のうつわ まいにちつかう備前」に多くのものが並びます。中から、いくつかピックアップすると…。
「これは、今度の展示会用につくった新作です。酒器なんですけど、備前焼って生地が呼吸をしてくれるので、酸化を促進するんですね。だからワインとか日本酒、焼酎など、空気を含ませるとおいしくなるものと非常に相性がいい。逆に醤油とか空気を含ませたらダメなものはよくないですね。普通に片口として使えるので、中国茶を入れて注ぎ分ける煎茶用にも使ってもらえますよ」。

続いて安藤さんが勧めてくれたのが、その名もペアちょこ。これは、藁を挟んで上下にかぶせた状態で焼いているので、下のうつわの内側と上のうつわの外側の模様がまったくいっしょ。「焼いてる時から一心同体、生まれながらのペアなので、結婚のお祝いとかにいいですよ」。


安藤さんは、「鳴瀧窯」と個人名である「安藤騎虎」の2つのブランドを展開していますが、今回の「鳴瀧窯-narutaki-のうつわ まいにちつかう備前」展では、「鳴瀧窯」の作品が並びます。
「食器がメインの『鳴瀧窯』のほうは、備前焼を今まで知らなかった人にも日常使いしてもらいたいものをつくっています。ですから、できるだけシンプルで手取りも良くて、何気なく日常で使えるうつわ。それを『スーク暮しのアトリエ』で、ある程度のラインアップをお見せしたいと思っています」。

料理が好きで、陶芸の道に入るきっかけにもなったという安藤さん。うつわと食の関係について、どう考えてらっしゃるのでしょうか。

「備前焼は、焼き物としては主張が強く、作家自体も主張が強いので、うつわ自体がすごく主張してお皿だけで完成しちゃっているみたいなのが結構多いんですね。僕はうつわというのは料理が添えられて100%と思っているので。備前焼を好きな方にとっては、僕のうつわは全体的に線が細いですし物足りないと思うかもしれない。だけど料理が乗って様にならないとうつわじゃないと思っているので、そこは『安藤騎虎』でも『鳴瀧窯』でも変わらないですね」。
取材・文/蔵均 写真/桑島薫
Creator/Brand

作陶家
鳴瀧窯-narutaki- (なるたきがま)
元来保存容器など生活雑器として広く流通した、日本で最も古いやきものの一つ、備前焼。
現代に息づく”焼き締め陶”を日々の暮らしに取り入れて頂きたいと、作陶家 安藤騎虎が展開するテーブルウェア専門のブランド。