小倉ヒラク 第1回 発酵デザイナーと呼ばれて。

ユニークで独自の活躍をするクリエイターにインタビューするスークインタビュー。今回は「発酵デザイナー」という、これまでなかった肩書きを持ち、さまざまなフィールドで活躍されている小倉ヒラクさんに話をうかがいました。インタビュー場所は、小倉さんが店長の齊藤光典さんと二人三脚でオープンさせた、大阪の味噌ラーメン専門店「みつか坊主 醸-Kamoshi-」にて。まずはこのお店の話からスタートです。
- SOUQ
- 小倉さんがこのお店をプロデュースされる発端は、どういうきっかけだったのでしょうか?
- 小倉
- 8年ぐらい前に「箕面ビール」の直売店でビール飲んでたら、隣にすげえニコニコしているお兄さんがいたんですよ。それが、この「みつか坊主 醸-Kamoshi-」店主の齊藤兄さんで。僕も独立してデザイナー業を始めた頃で、たまたま自分がデザインしたお味噌を持っていて見せたら、「オレ最近味噌ラーメン屋始めたんだよねということになって。それから仲良くなりまして。
- SOUQ
- 豊中にある「みつか坊主」1号店オープンの頃ですね。それからいっしょに、この店づくりを始めたんですか?
- 小倉
- この場所は、もともと駐車場だったんですよ。ある日斎藤兄さんに連れてこられて。「なんなの?」って聞いたら、「ここを店にしたい」って言うんですよ。ふつうラーメン屋さんって基本的には回転率を上げるために天井がすごい低かったり、J-POPが大音量でかかって結構うるさかったりするんですけど、「オレたちは真逆な店をつくりたい」って言って。それで天井高が4mぐらいあったり、バーカウンターつけたり。オープンして5年ぐらいになりますけど、おもしろい店ですね。

- SOUQ
- その頃はもう、発酵デザイナーとして活動されていたんですか?
- 小倉
- ちょうど始めた頃ですね。実はこのお店もその1つの契機なんですよ。立場としては、斎藤兄さんがクライアントで私がデザイナーなんですが、とにかく斎藤兄さんと味噌を見に行きまくりました。その頃からデザイナーよりも発酵の人がいいなと思うようになって。
- SOUQ
- 発酵デザイナーとして活動するようになる?
- 小倉
- そうなんです。発酵デザイナーとか発酵のことやってますというと、みんななんか『タモリ倶楽部』に出てくるニッチ芸人みたいなイメージを持つ人もいるんですけど。
- SOUQ
- それ、ちょっとわかります(笑)。
- 小倉
- 実際僕がやってることの話をすると、斜め上に範囲広い! ってビックリする方も多いですね。
- SOUQ
- 発酵デザイナーっていう肩書きは、新聞記者の方がつけてくれたんですよね?
- 小倉
- そうそう。毎日新聞の方がつけてくれて。

- SOUQ
- そう名乗ろうとなったときに、今みたいに仕事が広がっていくのは予想されてたんですか?
- 小倉
- 3年ぐらいはカスミ食って生きていくかなと思ってましたが、一応勝機はあって。実は微生物を使った応用産業って、市場規模めっちゃでかいんですよ。だから僕が発酵デザイナーをやろうと思った2013年、2014年頃の時点で、食品だけで5兆円ぐらいあるんですよね。
- SOUQ
- それは市場が大きいですね。
- 小倉
- 環境技術とか医療にも微生物の有用技術を応用したものがいっぱいあるので、そういうものも入れると10兆円を余裕で超えるという非常に大きな市場で、それに特化したクリエイターが僕1人しかいない。これって超ブルーオーシャンじゃない? って。
- SOUQ
- 考えたら、発酵に関わることって幅広いですよね。
- 小倉
- 2、3年は仕事の意味があまりわかってもらえなくて、仕事がこないかもしれないけど、そのあとは、きっといいことが待ってるに違いないと思っていました。
- SOUQ
- でも実際は、2、3年も待つ必要もなかった…。
- 小倉
- そうですね。なんか微生物やりますって言った直後から仕事が超いっぱいあったので、非常に幸運でしたね。

- SOUQ
- どういう出会いがあり、仕事が広がっていったんですか?
- 小倉
- 肩書きがついたことも大事で。それはたまたま運よく新聞記者さんにつけてもらったんだけど。発酵デザイナーって変じゃないですか、どう考えても。なにやってんだ?みたいな。僕も正直、今でも自分のこと説明できないですからね(笑)。でもとにかく微生物や発酵という、やたらニッチなところに特化しているやつがいるらしいということは伝わった。
- SOUQ
- 変というか、発酵という言葉とデザイナーという言葉を組み合わせたところにセンスを感じますけどね。
- 小倉
- 偶然ですけど、ありがたいことです。グーグルのSEO対策ってあるじゃないですか? デザイナーって言葉を入力しても、僕は一番上には出てこない。でも発酵+デザイナーで検索すると僕1人しか出てこないんですよ。
- SOUQ
- 本当に。実際に検索したら「小倉ヒラク」しか出てこない。

- 小倉
- 仕事のキャリアをつくるときって、最初はなんでもできるほうが仕事をもらいやすいと思っちゃうかもしれないけど、実際は逆で、僕はこれしかできません、やりませんというほうが、仕事の糸口はつかみやすいというのが、そのときに思ったことでありまして。だって、10兆円産業ですよ。ゆうても案件死ぬほどあるわけですよ
- SOUQ
- それを独占状態…となれば、発酵デザイナーを名乗る追随者は出てこないんですか?
- 小倉
- いまのところいないんじゃないですか。弟子入りさせてくださいという人はいますね。ムリって言ってますけど(笑)。でもたぶん、微生物業界とかバイオ業界、クラフトの醸造業界って、どんどんマーケットが元気になっているので、おそらく僕と似たような仕事をする人は求められるべきなんじゃないかなと思ってます。僕も利権を囲い込んだりはしないんで(笑)。

- SOUQ
- 予期しないところから、仕事のオファーはありましたか?
- 小倉
- そうですね。どっちかというと向こうのほうから積極的に勘違いしてくれて、きっとヒラクくんはこういう仕事をするんじゃなかろうかというのをご親切に書面つくって依頼してくれたりして。「ちょっと僕そういうことやったことないんですけど」って言っても、「でもできるでしょヒラクくんなら」ってなって。それでだんだん職能が広がっていったのはありますね。新しい肩書きをつけるのって、いい面悪い面、いろいろあるけど…たとえば胡散臭いとかね。でも実は、人のインスピレーションを喚起することがある。きっとこういう仕事もできるに違いない。私の中の発酵デザイナーの定義はこれです!みたいな。僕はそんなこと1回も思ったことなくても。あっそうなんだー。それはそれでおもしろいからやるか!って。
取材・文/蔵均 写真/桑島薫

みつか坊主 醸-Kamoshi-
大阪市北区大淀南1-2-16
TEL:06-6442-1005
「発酵デザイナー」と名乗る唯一のクリエイター・小倉ヒラクさん。次回・第2回は、いま日本全国で進めている現在進行形のプロジェクトについて話をうかがいます。
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