小倉ヒラク 第2回 47の残していくべき文化 | SOUQ ZINE スークジン

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小倉ヒラク 第2回 47の残していくべき文化

小倉ヒラク 第2回 47の残していくべき文化
「発酵デザイナー」という肩書きで、さまざまな分野で活躍をされている小倉ヒラクさん。第2回は、来年春に東京・渋谷で開催予定のユニークな展覧会について話を聞きました。
SOUQ
本を執筆されたり、ワークショップやってらっしゃたり、仕事は多岐にわたると思うのですが、今はどのように仕事をこなされてるんですか?
小倉
最近は博打打ちみたいな仕事の仕方になってきてます(笑)。大きなプロジェクトを自分でお金集めてやって、うまくいったらお金になって、失敗したら死ぬみたいな、“SUCCESS or DIE”な仕事の仕方が多くなってきましたね。
SOUQ
一か八かですね。そういう案件はいくつかあるんですか?
小倉
いや、いくつも動かさないで、年に1個か2個。忙しくて今はクライアントワークもほとんどできないので。
SOUQ
いま進行中のものは?
小倉
来年、渋谷「ヒカリエ」の「d47 MUSEUM」で行われる展覧会をプロデュースするんですね。それは「47都道府県の発酵」というテーマで。ふだん、このミュージアムって、地方から人やモノを集めてくるスタイルなんですが、今回は真逆で。すべてのところに僕が行くっていうスタイルなんです。効率悪すぎだろうって思いますが、ホントに1つ1つ回ってるんですよ。昨日は京都の大原の山に登って、柴漬けの現場を見に行ってきました。
小倉ヒラク小倉さんが発酵のリサーチで訪れた京都の大原にある「辻しば漬本舗」さん。
SOUQ
すべて発酵するものを集めてくるということなんですか?
小倉
そうなんです。一応ルールがあって、1都道府県、原則1つずつ選んで、同じものでかぶっちゃいけないという。だからふつうの味噌とか醤油とか日本酒とか、そういうのは出てこない。
SOUQ
少しはかぶりそうですけど、47も違うものを集められるのですか?
小倉
できます!なぜなら僕は発酵デザイナーですから。なんで、みんなが知らない発酵食品が死ぬほど出てきます。
SOUQ
これまで、どのようなところを回られましたか?
小倉
たとえば、高知県の嶺北という地方に、碁石茶というお茶があって、15年ぐらい前までは、小笠原さんというひと家族でしか栽培してなかったんですよ。そこが細々と続けていて、で、健康ブームとかでちょっと話題になって、いま数家族ぐらいまで増えてるんだけど、小笠原さんが続けていなかったら滅びちゃってた文化なんですよね。
SOUQ
そのようなお茶があることも知らなかったですね。
小倉
岩手県の西和賀町というところにも、雪納豆という、冬の間に雪の下に大豆を埋めて納豆をつくるという発酵食品をずっとつくり続けているおとうさんとおかあさんがいて。
SOUQ
やはりそれも知らない。
小倉ヒラク
小倉
実際現場に行ってみると、その人たちがつくるのをやめちゃったら、なくなってしまうものもたくさんあって。そういうおばあちゃんたちにメールで画像送ってくださいと言ってもムダなので。僕が行って、おばあちゃんたちの写真を撮ってきて、話を聞き書きしてきて、それを展示にします。
SOUQ
すごくいい企画ですね。
小倉
1週間前に行ったのは、鳥取県の智頭町。そこでは柿の葉寿司をつくってるんですね。一般的に柿の葉寿司ってハレの日用の節句の食べ物とされてるんですけど、本当の原型って、お盆のときの精進落としの食べ物なんですよ。
SOUQ
柿の葉寿司というと、奈良や和歌山をイメージしますけど、智頭町にもあるんですね。
小倉
あります。その原型をずっとつくり続けている村があって。そこでオリジナルのつくりかたを知っている数少ない人のうちの1人が勝子おばあちゃん。
SOUQ
勝子おばあちゃん、元気でよかった。。
小倉
精進落としって、ご先祖様が帰って行ったよおつかれ、という意味なんですね。柿の葉の上にごはんを乗せて、智頭町ではその上に鱒を載せるんですけど。鱒って魚じゃないですか? お盆の間に魚を食べたらダメ!っていう風習が日本にはけっこうあって。
小倉ヒラク今も昔ながらの作り方で柿の葉寿司を作る、鳥取県の智頭町在住の勝子おばあちゃん。
SOUQ
精進ですね。
小倉
僕の母方の田舎が佐賀の港町なんですけど、すごくよく覚えているのが、漁師のおじいちゃんが、お盆に入ると漁に行かなくなるんですよ。なんでかというと、ご先祖様に連れて行かれて戻って来れなくなっちゃうと思ってるから。で、みんな漁をやめて酒ばっかり飲んでるんですけど。そうやって海に行かない、海のものを口にしないというのは、ご先祖様が来てる時のサインなんですよね。
SOUQ
なるほど。
小倉
それと同じように智頭町では、ご先祖様が帰ったら、みんなおつかれって言って柿の葉寿司を食べる。お寿司のカタチから、そこの村の人たちが神様やご先祖様にどうやって向かい合ってたのかが結構見えてくるんですよね。
SOUQ
人以外のものとの向き合い方ですね。
小倉
すごくおもしろいのが、智頭町って山の中なんですけど、海の土地の文化圏と信仰としてはつながっている。海の土地の世界観というのは、さっき言ったみたいにお盆の間は海に入らないとか、先祖が海からやってくるという考え方なんですよ。智頭町は山の中にあるのに、海の文化とつながっている。こういうところから異なる文化のつながり、歴史の流れみたいなものが見えてくる。
小倉ヒラク
小倉ヒラク
SOUQ
たしかに智頭町って杉で有名で、山の中のイメージがあります。
小倉
だから智頭町って海の文化と山の文化が融合していて。そんなの僕全然知らないわけですよ。勝子おばあちゃんの話を聞いているうちに、おばあちゃんそれどういうこと?って聞いたら、「うちの村はホントに信心深くて。お寿司がないと神事がなにも始まらないのよ」って言い始めて。ホントに?って感じで。そういうような日本のルーツを知るグレートジャーニーみたいになってます。
SOUQ
その土地の文化を知る旅ですね。
小倉
だから僕の中では、今回の展覧会では単純に食べ物とレシピを紹介するのではなく、発酵文化ってその土地の文化とか、自然環境とか、暮らしている人たちのスピリチュアリティに根付いたものなので、その土地にどんな精神性が受け継がれていったかとか、どういうふうに大陸から文化が渡ってきたのかとか、そういう文化人類学的な観点でアーカイブしていってるんですよね。すっげえめんどくさいんですよ。もう後悔していますね(笑)。
小倉ヒラク
SOUQ
でも47都道府県にそういう文化が脈々と続いてるのは、うれしいですね。
小倉
本当は100個も200個もあると思うんですよね。今回は、僕の体力じゃ47都道府県しかできないけど。日本文化っていうと、みなさんが全然イメージできないようなものもたくさんあるわけで。僕はそういう、ものすごくニッチなものの集積が日本文化と思っていて。そこに焦点を当てたいと思っています。
SOUQ
智頭町の話を聞いているだけで、いろんなおもしろい話がありますもんね。これをミュージアムで展開するのはかつてない試みかもしれません。どれぐらいの期間やってるんですか?
小倉
来年の4月26日から2カ月半ぐらいです。
SOUQ
絶対おもしろそうですよね。早く見たいです。
小倉
発酵食品のカタログみたいなもんだと思って見に行ったら、謎の日本のディープサイドに連れていかれるみたいな(笑)。
SOUQ
勝子おばあちゃんは会場にきてくれるんですか?
小倉
いやあ勝子おばあちゃん今足悪くて。ちょっとあんまり無理させちゃいけないなと思ってるんで。でも普段だったら絶対出会えないものをつくっている職人に、いっぱい会えるような展覧会になればいいですね。

取材・文/蔵均 写真/桑島薫

来年の春、「d47 MUSEUM」で開催される発酵の展覧会が、本当に楽しみです。次回・第3回は、日本のみならず世界中をフィールドワークする小倉ヒラクさんが思う日本の発酵、世界の発酵について話をうかがいます。

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