okapi(オカピ)第3回 ずっと長く続く縁の大切さ

設計事務所からクリエイティブユニット・grafでの勤務を経て、カバン作家デビューをした「okapi」の佐藤文さん。今回は、仕事をする環境や長く続いている関係のすばらしさについて話を聞いていきます。
- SOUQ
- 一つのバッグをつくるのに、時間はどれぐらいかかるんですか?
- 佐藤
- それよく聞かれるんですが、わからないんです。1個だけに集中して通しでつくるわけじゃなくて、10個とか20個を並行してつくり始めるので。まず裁断なら裁断、縫製なら縫製とまとめてやる。いろんな工程が交錯して、いろんな流れがあるので、よくわからない。
- SOUQ
- なるほど。制作はポップアップなどイベントに向けてつくることが多いのですか?
- 佐藤
- そうですね。もちろん、そういう機会に向けても制作するのですが、ずっとつくってますね。たぶん時間が空くのが怖くて、結構いろんな仕事を詰めるんですよ(笑)。お店に立って販売するとき以外は、ほぼ家でつくってます。それができるから、たぶんバッグづくりを仕事に選んでるんだと思います。

- SOUQ
- 制作するアトリエはどれぐらいの広さなんですか?
- 佐藤
- アトリエじゃないです(笑)。1DKで、寝るのも食べるのも仕事するのも全部同じ部屋なんで、それが今フラストレーションですね。
- SOUQ
- 一部屋ですか。
- 佐藤
- 部屋とダイニングだけなんで。ダイニングにも材料とか物がたくさん置いてあります。
- SOUQ
- 仕事をするときの机は、寝るときには折りたたむとか?
- 佐藤
- 今は仕事がベースになってるので、ミシンが置かれた台は動かさずに、食べるときに小さな机を出す(笑)
帆布という素材を生かして
- SOUQ
- カバンの生地はすべて帆布になるのですか?
- 佐藤
- そうですね。たまに麻や綿もあるのですが、基本は帆布です。

- SOUQ
- 帆布はどこから仕入れてるのですか?
- 佐藤
- 大阪の船場センタービルに帆布の卸屋さんがいくつかあるんですけど、そこで買ってます。帆布って倉敷と滋賀がメインでほぼ100%そこでつくられていると帆布屋のおじさんに聞きました。
- SOUQ
- そうなんですね。倉敷は有名ですけど、滋賀って帆布のイメージがあまりありませんでした。
- 佐藤
- 高島帆布というのがあって、結構つくられているそうです。何軒かの帆布屋さんで、厚さが違うものを4、5種類買って使ってます。生成りの状態で買って、それに色を自分で塗っていく感じです。
- SOUQ
- 帆布も生地の種類がいろいろあるんですね。
- 佐藤
- たとえば体に沿う部分で柔らかくしたいところは薄手を使うとか、形を保持したいデザインでつくりたいときは、しっかりした生地を使うとか。帆布は使うと経年変化が出るので、その頃の状態をイメージして選びます。

- SOUQ
- 帆布以外の素材は使っていますか?
- 佐藤
- 革もちょっと使ってるんですけど、革の職人さんが私の作品を見るとすごく驚くんです。
- SOUQ
- なんででしょうね。
- 佐藤
- 聞いてみると、普通革やカバンの勉強をした人はこういうことはしないということをたくさんやってるみたいで。普通に考えるとよくないことだと思うんですけど、知らないからやっちゃってて。
- SOUQ
- それはそれでいいのかもしれませんね。
- 佐藤
- それはお客さんにはわかってもらってることだから、いいかと思ってるんですけど。知らないからできるというところはあるんだろうなとは思います。
- SOUQ
- 佐藤さんのものづくりのスタンスとして、職人的に一筋に打ち込むという感じではないのかもしれませんね。

- 佐藤
- それだけやるという性格ではないから、知らないことをやったり、いろんな人といろんなことをやるほうが楽しい。これいいなあとか、あの人と何かやりたいなあってなるのは、grafで働いていてことも大きいかもしれませんね。
- SOUQ
- 確かに、あそこはいろんな人とつながっていきますもんね。
ギャラリーで実現した演奏会
- 佐藤
- それと、私のバッグを置かせてもらったり縁があるのは、何かしらでずっといっしょにやってた人とか会社で働いてたときに会った人が、声をかけてくださることが結構多くて。初めて会ってすぐ始まるよりは、ずっと長く続けていることの中で今があるっていうのがすごくいいなと思っています。
- SOUQ
- 最近、そういういい縁はありましたか?
- 佐藤
- バッグをつくり始める前にミュージシャンの高木正勝さんや、ピアニストの平井真美子さんの仕事を手伝っていた時期があったんですね。
- SOUQ
- アートに音楽にと多彩な活躍ですね。
- 佐藤
- 最近、平井さんが京都で演奏会をやったんですけど、会場の「ONE AND ONLY」というギャラリーは私が随分前に知り合った方がやっていて、昨年末に「ギャラリーをオープンするからカバンを扱いたいんです」と言ってくださって。行ってみるとすごく素敵だったんですよ。だから、平井さんをここに連れてきたいと思って話をしてみたら、とんとん拍子に話が進んで、今年の5月に演奏会が実現しました。


撮影:河合久美子
- SOUQ
- それはうれしい話ですね。
- 佐藤
- 自分のカバンが置いてあるところで平井さんがピアノを弾いているのを見ると、ずっと昔から私がやってきたこと、カバンの仕事、いろんなことが組み合わさってきてるように思えて…今がすごく楽しいです。
取材・文/蔵均 写真/岡本佳樹
昔からの縁を大切にして、今が楽しいという佐藤さん。次回最終回は、個展会場の「LIFE IS A JOURNEY!」の旅の話から、大好きだというデンマークの話へ!