ポリ袋から生まれる「PE(ペ)」の独創的素材 | SOUQ ZINE スークジン

ポリ袋から生まれる「PE(ペ)」の独創的素材

ポリ袋から生まれる「PE(ペ)」の独創的素材
京都発のクラフトスタジオ、Pull Push Products.がゴミ袋などに加工されて使用されているポリエチレンフィルムからつくる「PE(ペ)」をピックアップ”! 代表の佐藤延弘さんに話を聞きました。

周辺には、世界遺産の龍安寺や仁和寺、東映太秦映画村などがある京都市右京区エリア。嵐山と北野白梅町をつなぐ京福北野線、通称嵐電の鳴滝駅前にPull Push Products.のスタジオとショップがあります。

PEPull Push Products.のスタジオ&ショップ前で佐藤さん。店内に掲げられている嵐山などの切り絵は、ここがスーパーマーケットだった頃の名残です。

「電車が10分おきに通るのですが、それほど人通りも多くなくていいですね。このあたりには、杉浦能舞台や映画監督の実邸、オムロンの創業者・立石一真さんの旧邸があったり。文化的な薫りがするところですね」。

そう語る佐藤さんは、左京区にある京都精華大出身。右京区にスタジオを持ったのはどのような経緯でしょうか?

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「大学を卒業して就職したのが模型会社で、遊園地のコーヒーカップやお化け屋敷の造作物などを原型からつくっていたんです」。

京都市南区にある模型会社に勤めながら、自身のプロダクトもつくり始めようとしていた佐藤さん。26歳になる2002年にPull Push Products.をスタートさせますが、右京区に移ってきたのは、その1年後のことでした。

「まずは嵯峨野に移ってきました。京都市内でホームセンターが近くにあるところということで不動産屋さんに探してもらっていくつか回り、嵯峨野に道から奥まったところにある平屋があったので、ものづくりにはいいなと思い決めました」。

PE

ホームセンターの近くという条件が、今も自分で手を動かしていろいろつくってしまう佐藤さんらしいですが、それ以来、嵯峨野→太秦→鳴滝と右京区内で移動することになります。今のスタジオに移ったのは2017年末のことです。

「太秦では民家を借りてたんですけど、つくるものが大きくなってきて手狭になって。作業場としてもっと広いところが欲しくて探していたら、ここが見つかったんです」。

PE現在のPull Push Products.のショップから見る風景。目の前を嵐電が行き交います。

茹でたり炙ったり、実験を重ねて

大学時代に建築デザインを学ばれていた佐藤さんは、Pull Push Products.の最初のプロダクトとして、モルタル素材の「Motif」シリーズをつくります。

PEPull Push Products.の最初のプロダクトシリーズ「Motif」。建物の壁など建築材料として使われるモルタルを素材としています。

「大学では、工学的な設計というよりはデザインの思考や概念をつくることを学びました。家具やラジオやステンドグラスをつくり、自分の興味はものづくりにあるんだなと4年間でなんとなくわかりました。『Motif』は日常で見かける都市の風景や建物をモチーフにしています」。

「Motif」のあとに、セカンドコレクション「PE」を発表することになります。これは、ゴミ袋やレジ袋などに使用されるポリエチレン素材をアイロンを使って加工していくユニークな作品。ブランド名も「Polyethylene(ポリエチレン)」の略表記「PE」に由来します。この独特な作品は、どのような発想、過程で生まれたのでしょうか?

PE

「『PE』をつくろうと思ったきっかけは、いろんなところにありまして。僕は、さまざまな素材を手遊びするクセがあるんですけど(笑)、『PE』の前はモルタルという固い素材を扱っていたでしょ。だからちょっと違う感触のものを触りたいなと思って、レジ袋とかゴミ袋の質感を変えられないかということを、なんとなくふわっと考えていたんです」。

PE

熱湯に入れてみたり、バーナーで炙ったり、ポリエチレンに対して実験をいろいろ試みた佐藤さん。その期間は3年にも及びます。

「そういう実験をしていたのは20代半ばぐらいで、すごく面白かった。学生の感覚も残りつつ、社会に出て仕事もしてお金ももらいつつ、ものをつくっていくというワクワクの中で、いろんなものをつくるのは苦じゃなかったです。素材ができたらこれで何をつくるかは後から考えていく感じでした。見たことがない素材を自分で生み出していけるのは興味深かったですね」。

PE現在販売している「PE」のカラフルなカードケース。

商品という形で店に並びだしてからも、素材のシワ感を変えるためにいろいろつくり方を模索していった佐藤さん。これで売っていいという納得できるものができるまで10年かかったそう。それにしても、ゴミ袋やポリ袋がこのように完成度高く生まれ変わるとは想像もできないのですが、いったいどのようにつくられているのでしょうか。

「仕組み的にはすごく単純。ポリエチレンのフィルムを重ねていってアイロンで熱するのですが、熱を加えるとやわらかくなり、それを冷ますとまた固くなる。5枚、10枚と重ねると、層によって溶けかたが変わってくるんです。上の層は縮んでるけど、下の方はそうでもないとか…」。

PE

詳しく説明してくれる佐藤さんですが、基本的にゴミ袋などのフィルムを重ねてアイロンをかけるだけという工程。それだけでカラフルでシワやツヤも美しい素材をつくりだすマジックには驚かされます。

PE「PE」のアイテムをつくるのにメインで使われているタキイ電器のアイロン。同社は今では工業用アイロンはつくらなくなってしまっていて、「これが壊れたら、もう修理してももらえないので困ります。でも壊れないんですよね」と佐藤さん。
PE商品の角の処理をするのに使うのは和裁用のコテ。切断面が裂けないように、これで角を溶かします。
PE生地と生地を重ねるのに、はんだごてを使って溶かしながらくっつけていきます。

かっこいいゴミができた!

最初に「PE」の素材が誕生したときは、佐藤さんはどういう想いだったのでしょうか?

「初めてレジ袋がシュワっとなってクシュっとなったときは“ウォー”という感じで、かっこいいゴミができた!って(笑)。もしこれが外に落ちてたら絶対拾って家の壁に飾るよな、でもみんなは別にいらんだろうなあと(笑)」。

そして、「PE」の特徴のひとつである鮮やかなカラーの素となるのは、やはりポリ袋の色?

PEヴィヴィッドカラーがスタイリングにアクセントを与えてくれそうな「PE」のフラップケース。

「もともと、色付きのポリ袋をホームセンターなどで集めてました。当時はまだ指定ゴミ袋の制度が決まってないところがあって、いろんな色のゴミ袋が売っててすぐ買えたんですけど、だんだん減ってきて。ネットでいろいろ探したら、子どものお遊戯に使う衣装用のポリ袋が教材屋さんで売ってることがわかって、いろんなメーカーから取り寄せたんです。今は30色ぐらいのフィルムを使っています」。

PEPull Push Products.のスタジオ内にあるポリエチレンのフィルムのストック。「市販されているポリ袋は、グリーン系と赤系が多いですね」と佐藤さん。

「これは2年前までの基本色です」と佐藤さんが見せてくれた色見本は、本当に色とりどりで、ポリ袋だけでこれだけの表現ができるのは見事です。

PE「PE」シリーズで使われる色見本。見本市などに出展したときなど、これを見た業者さんから「この生地だけ売ってくれませんか?」と言われることも多く、つくり方を一から説明すると、「えっ、これアイロンでつくってるんですか!」と驚かれるそう。

「今取り組んでいるのは、シルバーに色を重ねていくメタリック調。重ね方によって色が微妙に違ってきて、シルバーの上に黄色、ピンク、ブルーを重ねたりすると、同じ生地でも光の感じや見る角度で違って見えます」。

PEシルバーに黄色、ピンク、ブルーのフィルムを重ねてできた生地を使った「PE」の財布。

次はプラスチックを素材に

「PE」に代表されるように、Pull Push Product.のプロダクトは、面白い素材が多いと感じます。建築の図面を複写する青焼を使った「diazo(ジアゾ)」シリーズもその一つ。

PE青焼を素材にした「diazo」のシリーズ。

「大学で建築を学んでいたとき、1、2生年の頃まで青焼の機械が研究室にあったので使っていたんですよ。それで卒業してから何年か経って、壁に貼っていた青焼が、茶色くなって色褪せていくのを見て素敵だなと思って。色褪せるというマイナスのことが楽しいなと思い、それをもうちょっと日常の楽しみとして商品にできないかと考えました」

鮮やかな青がだんだんと色褪せていくという色の変化。佐藤さんは、実際に経年変化したボックスを見せてくれました。

PE新品の状態から7年が経ち、色が変化した「diazo」のボックス。

「これはつくってから7年以上経ったもので、外側はグラデーションで茶色くなってきてます。なんとないただの日焼けなんですけど、箱にすると中に閉じ込めていた年数がわかるのが面白いかなと。大事な人にもらった手紙などを入れておくと、箱を開けたときに鮮やかな青が目に入ると、記憶的にも感覚的にも当時のことがよみがえりそうですよね」。

人との関わりを大事にしたいとストーリー性も加味して作品づくりをしている佐藤さん。今後使いたい素材はどんなものでしょうか?

PE

「ポリウレタンというプラスチック素材です。一般的にはスポンジなど固いものになるウレタン素材なんですが、これを使って何かつくりたい。プラスチックなんだけどクラフト感があるというか、自分なりに編集し直してつくれればいいなと思っています」。

プラスチックというと、エコやエシカルという観点から、最近海洋汚染の問題なども取り上げられがちですが、佐藤さんはちょっと違った視点を持っているようです。

「社会の流れとは分けてものづくりをしたいと思っていて。エコということももちろん大事なのですが、こだわると見えなくなる部分もある気がしていて。純粋にこういう素材を使って、こういうものができましたというところに向かおうとしています」。

PE木枠の中にプラスチックの樹脂を流し込んでつくる「tekito-na」のシリーズ。

「プラスチックは燃えますが、燃える素材って炭素が入っていて、人間に近いんじゃないか。木などと同じものを持ってるのかなという雰囲気があって、工業製品のための素材じゃないなという感じはあるんですよね。特に拒否反応もある今だからこそ、プラスチックのことを考える意義があるのかなと思っています」。

素材に向き合って、人にも向き合って、自分なりの解釈と価値を作品に注ぎ込んでいく佐藤さんとPull Push Products.。これからも、小さな駅前で実験と試行錯誤を繰り返しながら、驚きのあるプロダクトをつくり出してくれるに違いありません。

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取材・文/蔵均 写真/桑島薫

ショップは現在リニューアルオープン準備中(2020年5月)オープンしたら、是非訪れたいですね!

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PE(ペ)

クラフトデザイナー

PE(ペ)

「PE(ペ)」は、素材とストーリーをモノ作りのコンセプトとし、使うときの楽しさや触れたときの質感を大切にしたアイテムを発表しているクラフトブランド「Pull Push Products.」より、2007年にスタートしたコレクションです。

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