『RITUAL』後編 線としての一本一本の響き。幻想的な水引アート

手を動かしてピンときた直感を大切に

アイテムに使用する水引は、地元飯田市の販売業者さんで購入。だいたい決まった業者さんから購入することが多く、取り扱う色の種類が違うため、色によって仕入れ先を選択されているとか。その他、販売されていない色の水引は染色を自らすることもあります。 そこからデザインはもちろん、土台となる木板の加工やコーティング加工に至るまで仲田さん自身が担当しています。
現在、ブランドは仲田さんを中心に、編集・エディトリアルデザインを担当するパートナーと2人で運営し、制作補助、販売を数名のスタッフで行っているそうです。中心はピアスやイヤリングといったアートジュエリー。まだ試作を繰り返していた頃、最初数㎝四方の木の板に貼られた小さな“水引のピース(一片)”を見て、アクセサリーにしてみては? というパートナーのアドバイスを基に、現在では様々なデザインを制作するに至っているそうです。

ちなみに、今回SOUQでもお取り扱いしているフラスコ型の花器「Vase」は、仲田さんの滞在的にある制作イメージから具現化されたそう。 アクセサリーを中心に制作している中でなぜ急に花器? と思われた方もいるのではないでしょうか? 「もともと壺や、フラスコの形態やフォルムに惹かれていて、作品として作っていたんです。あと、壺は昔から儀式などで使われることも多く、水引との親和性もあるなと思ったのも理由の一つです」 そこから実用的に使えるようにするにはどうしたらいいか考え、背面にガラス管を取り付け、花器として商品展開するように。

一個一個アイテムに合わせてナラの木板をカットし、丁寧に研磨することからスタート。ブランドを始めた当初は、カットも手作業でやっていましたが、最近は様々な機械を導入していて、より安定したプロダクトとしての完成度を持たせた作品を作れるようにしています。 カットした木板の上へは、水引を1本1本配置して貼り付けていく「貼水引」というブランドオリジナルの技法を用いてデザインが施されていきます。ハサミやピンセットを使いながら仕上がっていく繊細で計算された美しいデザインは、小さな木板の上に唯一無二の世界観を生み出しています。
水引を使ったデザイン部分は、手を動かして決めていくときと、あらかじめテーマがあるとき、両方のアプローチから作成しています。
「自分のスタイルとしては、どんな色を作ろうかとか、配置はどうしようかとかやりながら考えていくことが多いです。とにかくたくさん試作を作って、そこからいいモノに改良を加えていって…という感じですね。テーマがあるときは季節的にこんな色合いのアイテムはどうかとか、パートナーからアドバイスをもらって作ることもあります。」 どこにどの色をどんな風に配置するのか。 頭の中にあるイメージを、手を動かしながら具現化し、納得がいくまで作り込む。 アイテムを制作する中での一番の山場です。
水引の素材としての美しさを最大限に引き出す
そんな本来の水引の用途とかなり異なるアプローチでアイテム作りを行う上で、意識していることとは。 「構造的にできない表現もあるので、できない部分とできる部分の間のギリギリのところを攻めています(笑)。その上で、美しく水引が見える無理のない表現を意識しています」 水引の線としての一本一本の響き。きっちり束にして揃えたときに現れる洗練された形式美に神経を使いながら、日々制作しています。

デザインが完成した水引の色面には、耐水の樹脂を塗ってコーティング加工が施されます。この樹脂もどんなものでもいいわけではありません。自分たちで調合したオリジナルのものを使用。何度も試作を繰り返し、水引の色合いや風合いが一番キレイに見える調合になっています。この加工があってこそ、鮮やかな色合いや素材感が保たれているのです。 「アイテムによって加工方法を変えていければ」と話す仲田さん。「今は水引を別の素材で覆う方法も試みていて、いくつかの商品には採用しはじめています。」と飽くなき探究心は衰えることがありません。
新・日本の美意識を感じさせる作品作り
最後に今後挑戦していきたいことをうかがうと「美術やジュエリーの作品をもっと制作していくことはもちろんですが、それとは別に今、兜とか雛人形とか、歳時記にまつわる作品を作っているんです」とアイテムを見せてくれました。素材にはもちろん水引が使われていて、刀や台座もついてオブジェとして飾れます。他にも金太郎やダルマなど、古くから日本に親しまれているモチーフを使ったオリジナルのオブジェも制作しているそう。 「日本古来からある歳時記は、同じく古くからある水引と親和性があるので、いろいろ試していきたいなと思っています。日本に古くからあるもの、水引、自分の表現の3つがうまく混ざり合って、これまで見たことがないようなかっこいいものできたら」

日本のこれまでとこれから、その両方がつまった新感覚のアイテムたち。 肩肘張らずに、自分の好きだと思うデザインで楽しむ日本の伝統。 ピンとまっすぐのびる直線的な部分としなやかさ、両方を兼ね備えた水引の素材としての可能性と、その魅力を独自の感覚から捉え、制作をし続けている仲田さんだからこそのなせる技といえそうです。

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Creator/Brand

水引で描く、あたらしい物語
RITUAL(リチュアル)
RITUAL=儀式 をブランド名に、日本の伝統素材である"水引"の可能性を探求。水引のもつ、儀礼や儀式などの”伝統的側面”と、描く・創作する、という"個人的側面"を親和させたジュエリー・オブジェ・美術作品を制作している。水引は、作家出身地であり現在アトリエのある、長野県飯田市の飯田水引を使用。