木に魅せられたつくりびとが、息を吹きこむ木工品

「やっぱりそばにあると、気持ちが落ち着きますよね。それに、その子その子によって性格が違って、ひねくれた子だったら反ったりもするし。でも、そういう子は手間と時間をかけて水分をあげたり、育てる面白さもありますね。包丁を当てたら傷も入るけど、それも年を重ねるごとに味になり、深みが出てきます」。
木の魅力って何ですか? という問いに対して、石田さんはまるで我が子や友だちについて語るように答えてくれました、本当に木を愛しく思っていることがひしひしと伝わってきます。そんな石田さんが、かわいい木たちを作品に変えていくのは、兵庫県加古川市にある工房。もともと材木屋さんだった建物で、周囲には畑が広がります。


「湿気も適度にあって、木を置いておくには向いてる環境ですね。周りに家がないから大きな音も出せますし」と石田さん。
たくさんの木材に囲まれた広い工房で、石田さんは一人、木々と向き合います。こういうふうに木にのめり込んでいったきっかけとは何だったんでしょう?

「20歳ぐらいの頃に、知り合いがやっている製材所に初めて遊びに行ったとき、すごい数の木材が積まれていて。その迫力に感動して、木を触る仕事がしたいと思いました」。
当時、料理の修業をしていた石田さんは、それから調理師をしながら、趣味で木の作品を少しずつつくり始めます。その後、木工の仕事を本格的に始動、テーブルなどの家具をつくり始めます。
そして数年後、「つくったものを見ていただき、販売する場所が欲しくて」、お隣りの高砂市にギャラリー&茶房「ろくやおん。」をオープンさせます。
「最初は家具中心に制作していたのですが、私は元調理師なので、料理をつくったり食べたりするときに、こんなうつわや道具があったらいいなと思って、木の端材でカッティングボードなどをつくり始めたんですよ」。

木それぞれの個性
「ろくやおん。」で使っている木材は主に5~6種類。ときどき変わったものも扱いますが、ケヤキ、タモ、クリ、サクラ、トチノキに加え、最近クルミの作品も多くなりました。木の種類によって特徴はあるのでしょうか?
「ケヤキは木目が結構はっきりしています。一番木という感じがするからか年配の方が好みますね。クリは家具に使われる事も多く、若い方も好きじゃないでしょうか。クルミはちょっと赤みがあり、かわいらしいとよく言われますね。サクラも女性に人気ですよ」。

木目以外に違いはあるのでしょうか?
「ケヤキはかなり硬いほうですね。木の中心の赤い部分は特に硬いです。クリの木も昔は線路の枕木に使われていたほど硬い。タモの木はバットに使われているのでこれまた硬い」。
どうやら「ろくやおん」では硬い木がよく使われているよう。「本当はやわらかいほうがつくりやすいんですけどね」と石田さんは笑いますが、パンを切るのに使うカッティングボードは、刃が粗いパン切り包丁でも傷がつきにくく、また、調理師としての経験から、木目が詰まって重いものは切るときに動きにくいので使いやすいそうです。

始まったワークショップ
「それじゃあ、みなさんつくってみますか! まずは好きな木を選んでください!」
木についての説明を受けてる最中に、突然石田さんの元気な声が響き、カッティングボードづくりの即席ワークショップが始まりました。予期せぬ展開に喜ぶSOUQ ZINE取材陣一同。それぞれ好みの木を選び、まずはどのような形にしたいかを鉛筆で書いていきます。

「みなさんが使う機械では急カーブは難しい。糸鋸で切るわけじゃないので、緩やかカーブにしてください。アールを大きくする方がやりやすい…」。
ぎこちなくカッティングマシーンに向かう素人たちに、ときには厳しく、しかし愛情をもってていねいに指導してくれる石田さん。もちろん完成品のクオリティはまったく違いますが、できあがるまでの工程は同じということです。



カッティングしたあとは研磨機で磨きます。磨く機械もいろいろ種類があり、削る場所や木の種類で削り分けます。
「研磨機で磨くのは、力加減によっては摩擦で焦げたりするので、初心者には難しいですね」と石田さん。自らお手本を見せてくれると、見事に木がなめらかにきめ細かくなっていきます。


さらに、サンドペーパーでも再度磨きます。
「磨きが足りなかったら、ふきんなどの繊維が少し引っかかります。タモは特に繊維が強くチクチクするタイプの木質ですのでよく磨きます。サクラは比較的なめらかですけどね」。

次の工程は穴開け。穴を開けるドリルにもさまざまなサイズがあり、大小自由に穴を開けられます。


最後にオイルを塗って仕上げます。石田さんは亜麻仁油を使用しているそうですが、ご家庭であればオリーブオイルでもいいそうです。
「何度も何度も塗れば、木目がすごくきれいになりますよ。側面もすべて塗ってください。使い始めてからも頻繁に塗ると美しさが保たれます」。

取材陣、苦労しながらもなんとか完成させたのですが、とてもここでお見せできるほどのものではないので、石田さんの作品をご覧ください。

食卓を楽しくする作品たち
「ろくやおん。」には、カッティングボードの他にもオリジナリティのあるユニークな作品がたくさんあります。中でも家の形をしていて、引越しや新築祝いに贈ると喜ばれそうなのがシュガーポットです。


「普通のお砂糖入れよりもこういう形のほうがオブジェっぽいし、お客さんがきたときにテーブルの上に出しっぱなしでも、絵的にいいかなと思いデザインしました」と石田さん。
同じような発想で生まれたのがスパイスボトル。一輪挿しとしても食卓にアクセントを与えてくれそうです。

「ろくやおん」のカッティングボードや皿が販売されている、スーク暮しのアトリエでも、どの木にしようか30分以上かけて吟味してくださるお客様もいます。1点1点形も木目も色みも違うから、悩んでしまうのもよくわかります。
「たとえば樹齢50年の木だと、切った後でも生きた分の50年は生きていると言われていて。ずっと呼吸してるんですよ」。
石田さんがつくる “生きる”木工品は、暮らしに息吹を与えてくれそうです。

取材・文/蔵均 写真/桑島薫
Creator/Brand

木工作家
ろくやおん。
木、本来の趣を生かして自然体に近く。木の温かさや優しさが沢山の方にお伝え出来ればと思い主にキッチンで使える様な物を作っています。使いやすさとお料理映えする器などを作っており代表作品はカッティングボードです。