更科有哉 第3回 気持ちのいいバランスを目指して

自らもヨガを極めるべく修行をし続けながら、年に数ヶ月は日本全国を巡りワークショップを行うアシュタンガヨガ指導者、更科有哉さんにフォーカスを当てる今回のスークインタビュー。第3回は、更科さんのライフスタイルと日頃から意識していることについてお話をうかがいました。
- SOUQ
- 素朴な質問なのですが、更科さんがヨガに費やす時間って、どのくらいなのでしょうか?

- 更科
- 厳密に言うと、24時間365日です。
- SOUQ
- え、ずっと!ですか?
- 更科
- はい、実はアシュタンガヨガの「アシュタンガ」とは生きる上での「8支則」(8つの教え)のことで、嘘をつかない、人のものを盗まない、誠実であること、など。その心得や精神的な在り方を実践することの全てが「ヨガ」なんです。ポージングをする修行は「アーサナー」と言って、ヨガの中のほんの一部なんですよ。
- SOUQ
- なるほど!ヨガは生きることのすべてに通じるんですね。

- 更科
- そうですね。そういう意味でも、終わりがないんです。アーサナーの時間は、1日2時間くらいですかね。今朝も5時半くらいから練習してから来ました。毎朝4時くらいに起きるので、夜は9時くらいに眠くなってしまいます。
- SOUQ
- 完全に朝型ですね!

- 更科
- そうですね。僕の場合は7時間は寝ないとダメなので、夜更かしはしなくなりました。睡眠だけが、身体をちゃんと回復させてくれると実感しているので、チャージする時間はちゃんと持つようにしています。
- SOUQ
- なるほど!となると、なかなか友達と飲みに行ったりはできないですよね?
- 更科
- でも、アシュタンガヨガは満月と新月の日は練習が休みなので、前日はめちゃくちゃ遊びますよ。
- SOUQ
- あ、そういう日もあるんですね。ちょっとだけ安心しました(笑)
- 更科
- 1ヶ月に2回しかないので貴重ですよ!(笑)
自分の状況と変化を静かに観察しながら

- SOUQ
- ヨガをはじめてライフスタイルが大きく変化したと思いますが、食生活なども変化はありましたか?
- 更科
- ヨガをしている人って、菜食主義の方が多い印象があると思います。それは「アヒムサ」という非暴力の考え方に基づいているんです。僕も動物性のものを一切食べないヴィーガンの時期がありましたが、今はだいぶ緩くなっていて魚は食べますよ。ただ、食べ過ぎないようにしているという感じです。
- SOUQ
- そのヴィーガンだった時期から、また魚も食べるようになったという変化には、なにか理由が?

- 更科
- 僕は、食生活において心がけているのは、「バランス」なんです。
- SOUQ
- そのバランスは、どんなふうに調整していくのでしょうか?
- 更科
- 自分の取扱説明書を作るような感覚で自身をよく観察して、調子がいいかどうかで判断している感じですね。何かを食べたらそれで終わりではなくて、何を食べたらどうなるかをよく見る。それは、アーサナーの練習をしているとよくわかってくるんです。今日は身体が重いなとか軽いなとか、如実に表れますから。

- SOUQ
- なるほど。普段は食事も何気なくしてしまっていますし、自分の細かい変化に気づけていないですね。そうやって自分を見つめると、より自分自身を興味深く感じられそうな気がします。
- 更科
- そうだと思いますよ。僕は、もともと自分のこと大好きなので最初から興味ありますけど(笑)。自分のことがよりわかってくる、っていうのはあるかもしれませんね。今日は調子がいいなって思うときもありますし、今日はダメな日だったなぁ、みたいな日もありますしね。

- SOUQ
- 状況も心境もコンディションも、繊細に日々変容していますもんね。
不得意なことも逃げずに向き合う
- SOUQ
- 食以外でも、バランスをよくしようと心がけているところってありますか?

- 更科
- 僕はアーサナーの練習の時にも、なるべく不得意なところにも向き合うように意識しているんです。人って、つい得意なことはやるけど、不得意なことは避けてしまいがち。でも、それってバランスがよくないと思うんです。
- SOUQ
- なるほど。確かに、得意と不得意もバランスですね。
- 更科
- サッカーなんかでも、右利きだから右足の方が圧倒的に使いやすいけど、両方使えた方が便利だし身体のバランスとしてもよくなるから、苦手な左足も同じくらい使えるように練習するっていうことはあるじゃないですか。
- SOUQ
- たしかに、ありますね。でも、それが同じようにできないんですよね。

- 更科
- そうそう、だからその不得意を自覚して、不得意から逃げないのが大事だと思うんです。時間はかかるかもしれませんけど、不得意な部分を克服することによって、少しずつバランスが改善されていくというか。僕の場合は、アーサナーで不得意な部分に取り組んでいくと、次第にバランスが整って普段の生活もよくなっていくって〝信じてる〟んです。
取材・文/内海織加 写真/東泰秀 衣装協力/alo yoga
「何事もバランスが大事」と更科さんは言います。常に日々変化する自分の状況を見つめ、その都度どうしたらいいかを判断していく。そうやってさまざまなことにおいて心地よいバランスに整える行為は、彼がアーサナーを通じて身体と向き合い、バランス感覚を保つことに取り組んでいるからこそ、ナチュラルに実践できるのかもしれません。最終回は、ヨガによって手に入れたこと、そして、これからのヨガへの向き合い方についてお話をうかがいました。