高橋晋平 第3回 おもちゃをきっかけに、 変えられることがある

斬新なアイデアで数々のユニークなおもちゃを生み出しているクリエイター、高橋晋平さんにお話をお聞きしている今回のスークインタビュー。第3回は、実際に高橋さんが手がけられているおもちゃと、そこに込められた想いについて。遊んで楽しいだけじゃない、おもちゃの新たな側面が見えてきました。
- SOUQ
- 前回ご紹介いただいた『民芸スタジアム』もそうですけど、高橋さんが作ったおもちゃって、大人も子どもも関係なく楽しめるものが多いですよね。
- 高橋
- そうかもしれませんね。特に、大人用とか子ども用とかは考えていませんからね。親子で一緒に遊んでいただけるものも多いかもしれません。最近、仙台の企業と一緒に作って5月25日に発売になったばかりの『お笑いノート』も、ぜひ親子で楽しんでほしいですね。

- SOUQ
- ノートだけどおもちゃ、おもちゃだけどノート、なんですね?!
- 高橋
- これは、ノートの中に簡単な枠組みがあって、それを順番に記入していくと自動的にお笑いの台本になるっていうもので。「普通ならこう」っていう内容と、「普通はそうじゃない」っていう反対の内容を同時に考えることで、「ボケ」と「ツッコミ」ができていくんです。

- SOUQ
- なるほど!おもしろいですね!子どもにとっては、ちょっとした勉強にもなるっていう?
- 高橋
- そうなんですよ。これ、実際に子どもとやってみたんですけど、けっこう楽しくて。子どもでも、なかなかいいネタ作るんです(笑)
間違いこそ、おもしろいし価値がある
- SOUQ
- 正解じゃないものを見つけるって、普段はなかなかしないことですよね。
- 高橋
- そうそう。このノートでは、正解じゃないもので遊んで欲しかったんです。現代って、どうしても正解だけにフォーカスを当ててしまいますよね。何か探すときも、キーワード検索ですぐに何かがひっかかる。それはとても便利なことですけど、正解を探すことからは、新しいことって生まれづらいなって思うんです。
- SOUQ
- 確かに、すでにある情報の中から正解を探そうとするのと、新しいものを生むのは、真逆の行為かもしれませんね。
- 高橋
- 間違えたくない、間違えたら恥ずかしいみたいな気持ちがあるから、正解をスマートに見つけようとするっていうのもあるのかなと思うんですね。でも、私は、間違いにこそ価値があるって思っていて。行動でもアイデアでも、思い切り間違いをブチ込める人が、何か新しいものを生み出せるし、価値があると思うんですよ。

- SOUQ
- それが失敗したとしても、そこに次へのヒントが隠されていたりして。
- 高橋
- そうなんですよね。だから、あえて間違いに行く、くらいのマインドは必要だと思うんです。お笑いの「ボケ」って、間違いの最たるものじゃないですか。間違うことは恥ずかしいことじゃないし、おもしろいことなんだよっていうことを子どもたちに体験して欲しかったんですね。
意味を持たないから伝わることがある
- SOUQ
- スマホを使って遠隔で鳩を鳴らす『OQTA(オクタ)』も、とてもユニークなおもちゃですよね。遊び要素があるおもちゃとは一味ちがっていますよね。

- 高橋
- こうやってアプリを立ち上げて、タップするんですね。そうすると、今頃、うちのリビングで鳴ってるんです。こっちは実家の。はい、今こっちもタップしたので、実家の居間でも鳴ってます。ここのも鳴らしてみますね。
- 鳩時計
- (数秒後……)ぽっぽ、ぽっぽ。
- SOUQ
- あ、鳴った!鳩が出てくる感じ、かわいいですね!
- 高橋
- これは、発案は私じゃないんですけど、このアイデアを聞いた時に刺さりまくっちゃったんです。すごすぎる!と思って。それで、一緒にやらせてほしいって懇願したんですよ。
- SOUQ
- どんなところに魅力を感じたんでしょうか?
- 高橋
- 私の両親は地元の秋田にいるんですけど、長い間分かり合えないところがあって、関係性がいいとは言えない状態だったんです。必要なことはもちろん連絡を取るけれど、それ以外は電話もしない。でも、いつもどこかで気にしているし、その関係を変えたいっていう気持ちはあったんです。そんな時に、『OQTA』の原型となるアイデアを聞いて、電話はできなくても〝ぽっぽ〟ならできるって思って。
- SOUQ
- メールとは違って、そこに意味は乗らないですよね。ただ、鳴らすっていう。

- 高橋
- それがいいんです。言葉として送るのではなくて、ただ送る、ただ鳴る。返事や反応も求めない。その意味のなさがこのおもちゃの最大のポイントなんです。音量も、聞こえるか聞こえないかくらいのささやかな音量にしています。気づかないこともあるかもしれない。それでもいいと思っています。
- SOUQ
- 意味はなくても、〝ぽっぽ〟と鳴ったら、「一瞬、思い出してくれたのかな」みたいな気持ちにはなりますよね。
- 高橋
- お互いに想像を膨らませるんですよね。これを鳴らしたらよろこんでくれるかなと思いながら押す、思い出してくれたのかなと思って鳴き声を聞くっていう。そういうところが、ある種〝落語的〟だって思っているんです。落語も、想像を膨らませて楽しむものですからね。『OQTA』を作った私ともう一人の開発者は、落語好きっていう共通点があって。そういう意味でも分かり合えた部分があったんだと思いますね。
- SOUQ
- 言葉にならない想いってたくさんありますし、そういう曖昧さの中で育まれる愛情ってありますよね。実家にも贈りたくなりました!
- 高橋
- そう言っていただけると嬉しいです。我ながらおすすめですよ!
取材・文/内海織加 写真/東泰秀
高橋さんのクリエイティブの原動力になっているものはなんなのでしょう。最終回は、そんな高橋さんがおもちゃ作りに譲れないことについて、お話を伺います。