高橋晋平 第4回 笑いというコミュニケーションを生むため

おもちゃクリエイター高橋晋平さんへのスークインタビュー。最終回は、高橋さんのおもちゃ作りにおいて、最も大切にしていることについて。この夏にリリースされる最新作のお話もうかがうことができました。
- SOUQ
- 高橋さんが作るおもちゃを拝見していると、どれも暮らしに近いところにアイデアの素みたいなものがありますよね。だからか、飽きずにいつまでも楽しめそうな気がするというか。
- 高橋
- そうかもしれません。身近さみたいなものを感じやすいのは、どれも発想の原点は私の個人的欲求だからでしょうね。
- SOUQ
- ちなみに、最新作はどんなおもちゃなんですか?
- 高橋
- 7月に発売になるおもちゃがあるんですけど、それは「アラビックヤマト」のおもちゃです。

- SOUQ
- 「アラビックヤマト」って、あの水のりのです?!
- 高橋
- そうです、そうです!
- SOUQ
- 「アラビックヤマト」がどうおもちゃになっているのか、イマイチ想像ができないのですが……(笑)
- 高橋
- 「アラビックヤマト」って、ボトルの中に水のりが入っていて、それをこうひっくり返しながら、気泡を動かして遊んだりしませんでした?
共有できたよろこびが創作の原動力に
- 高橋
- 私は、子どもの頃、身体も弱くて運動もできなかったので友達ができなくて。だから、この気泡でひたすら遊んでいて、「アラビックヤマト」が友達みたいなものだったんです(笑)だんだん扱いに慣れてくると、気泡を2分割できるようになってきたりして。

- SOUQ
- す、すごい!
- 高橋
- 思い入れの強いアイテムだったので、いつかなにかできたらとは思っていて。「気泡を割ってた」っていうエピソードを人が集まっている場で話したら、その場で3人くらい「割ってた」っていう人がいたんですね。秋田の山の中の小学校で人知れずやってたことに共有してくれる人が、こんなに身近にいたっていうのが驚きで。
- SOUQ
- で、作っちゃったんですね!
- 高橋
- まずは、ヤマト株式会社のお問い合わせフォームに連絡して。
- SOUQ
- お問い合わせフォーム!(笑)
- 高橋
- 私的には、学生時代を支えてくれた「アラビックヤマト」ありがとう!みたいな気持ちがあるので、それも含めて「気泡を割って遊ぶためだけの究極のアラビックヤマトを作りたい!」と熱くフォームに書いたら、直接プレゼンできることになって。偶然にも今年が創設120周年ということで、「やりましょう!」って言っていただけて。ものすごく嬉しかったですね。

- SOUQ
- まさに、個人的欲求と体験を共有できたよろこびから生まれたおもちゃですね!
- 高橋
- そうですね。題して、「やみつき感触トイ 気泡わり専用アラビックヤマト」という商品で、クラウドファンディングを実施中です。これ、気泡がちょうど2分割したのがわかるように目盛りがついていて、きっちり半分にするのはなかなか難易度が高いんですけど、これで大会を開催したいんですよ(笑)。子どもの時に、「これがあれば俺は最強だ!」みたいに思っていて。30年の時を超えて、そういう意気込みをぶつけられる!と(笑)。
笑いが起こる〝きっかけ〟を忍ばせる
- SOUQ
- クリエイティブにおいて最も大事にしていることや譲れないポイントみたいなものはありますか?
- 高橋
- 人を笑わせること。これが、私の人とした最も強い欲求です
- SOUQ
- そういう欲求が生まれたきっかけがあったんでしょうか?

- 高橋
- 私は18歳まで水のりが友達みたいな感じだったんですけど(笑)、テレビで「爆笑オンエアバトル(NHK総合テレビ)」や「ボキャブラ天国(フジテレビ系列)」を見たときに、人を笑わせることってすごいと思ったんですね。ネタを見ていて、頭いいなぁって思うことも多かったですし、笑わせられるって、人間の能力してすごいぞ!と。
- SOUQ
- なるほど!それで、お笑いに興味を持ったんですね!
- 高橋
- はい、大学に進学した時に人として変わりたいっていうのもあって、お笑いに関われる唯一のサークルだった落語研究会に入ったんです。全然ウケなかったんですけどね(笑)。でも、この時の体験が人生を変えたと言ってもいいかもしれません。
- SOUQ
- でも、高橋さんが選んだのは、コメディアンや落語家の道ではなくて、おもちゃだったんですね。
- 高橋
- 人を笑わせる才能はないってわかっていたので、おもちゃで人を笑わせられたらいいなって思ったんです。そして思考錯誤の結果、人を笑わせることができるおもちゃって、おもちゃそれ自体で笑いをとらなくてもいいということがわかったんです。笑いってコミュニケーションですからね。使った人同士の会話の中で笑いが起きないといけない。そのための「仕組み」をどう組み込むかっていうのが、おもちゃ作りのポイントになると思っています。

- SOUQ
- 笑えるものを作るのではなくて、笑いが起こるための仕掛けづくりだと。
- 高橋
- 「人を笑わせるおもちゃが作りたい」っていうのは、就職活動のエントリーシートに書いた時から全く変わっていないんです。自分が作ったおもちゃで笑いが起こったら、それは私が笑わせたことになるかなって思って。だから、本音では、私が作ったおもちゃで遊んだ人たちが笑っている姿を見て、「してやったり」とは思いたいですね(笑)。そのために、直接販売して、手の届く距離感で一緒に楽しみたいのかもしれません!
取材・文/内海織加 写真/東泰秀