tamaki niime 第4回 老若男女に身につけてほしい

播州織の日常着、「tamaki niime」のデザイナーである玉木新雌さんにお話を聞く「ピックアップクリエイター」の最終回は、新雌さんの次なる挑戦と、服を届ける人々への想いをうかがいました。
- SOUQ
- コットンの無農薬栽培もされているとか。
- 玉木
- 5年くらい前からかな。私自身は、それまで畑で何かを育てた経験がなくて。食材はスーパーで買うもの、という意識で育った。もちろん、野菜にしてもお米にしても土で育てたものをいただく、ということは知識として知っている。でも、体感としてわかっていないというか。
- SOUQ
- 農業とは無縁で。

- 玉木
- でも、憧れはありました。毎日向き合う糸を考えてみても、素材の綿(コットン)が植物だということは理解できるけれど、ずっと買うものだと思っていて。ところが、買う糸が素晴らしい糸だと胸を張れるか?というと、とてもジャッジできない。たとえ栽培地へ赴いたとしても、その一時では私にはわかりえないと思って。
- SOUQ
- たしかに、長い目で見ないとわからないことがありますよね。
- 玉木
- あと、やわらかいショールを作りたいという課題が私にはあるのに、それまでは織る行為でその感触を追究してきた。でも、さらにやわらかくするなら、素材も考えなくてはいけないと思ったんです。

デザイナー、鍬を握る
- SOUQ
- 産地へ行っても納得できそうにない、ならば作ろうと?
- 玉木
- そう。綿は植物で育てるものなんだと、我に返って。ワンシーズンは、まず自分でやってみようと。
- SOUQ
- とにかく自分でやってみる、それが玉木さんの哲学?
- 玉木
- やらなきゃ気が済まない(笑)。やってみることで、何か得られるヒントがあって、次に進めるんじゃないかって。休耕地を借りて、鎌と鍬を使って人力で。商売にはならないな…と実感しながらも、楽しくて。糸はこの綿からできるんだ!って親近感が湧いて、この体験をスタッフやお客様にもしてもらえたらいいなと思って。

- 玉木
- コットン栽培は引き続きやっています。
- SOUQ
- どれくらい収穫できるものですか?
- 玉木
- 昨年(2018年)は400kgくらい。でも、うちは年間7tの綿を使うのです。
- SOUQ
- そんなに! 自家栽培だけでは追いつきませんね。
- 玉木
- なので、育ててみたいという方に種をお分けして、収穫できた綿を買取する取り組みもしていて。この周辺にも畑は広がっていて、いつかLab周辺がコットン畑になればいいなっていうイメージはあるんですけど。
老若男女の日常着
- SOUQ
- ショールの閃きから、パンツやスカートなど、いまではラインアップが多彩に。この広がりが生まれるきっかけは何だと思われますか?


- 玉木
- 老若男女みんなに、「これ、いいでしょ!」と言えるものを作りたいと思ったんです。そもそものきっかけは、自分が母親にプレゼントできるものがない…と思ったこと。誕生日や母の日は毎年やってくる。いまは一緒に暮らしてないし、何が欲しいかもよくわかんない。ムダなものを贈っても仕方がないし。
- SOUQ
- たしかに、毎年悩んでいる気がします

- 玉木
- 自分はこんなに仕事に打ち込んでいるのに、自分が一生懸命作ったものを贈れないっていうのは、ねぇ…。最初に作ったシャツはトガっていたから(笑)。でも、ショールだったら母にも、父にも、おばあちゃんにも贈れる!って思ったの。プレゼントするなら、本当にいいもの、自分が満足できるものをあげたい、っていう気持ちがあって。ショールからいろんなアイテムを増やしてきたけど、やっぱり自分のなかではショールが原点にあるのは、母にプレゼントできる、老若男女におすすめできるものということが大きいかな。

- SOUQ
- 玉木さんは男性がショールをするようになった立役者でもある。
- 玉木
- 立役者!(照笑) いま、とてもありがたいのは、お母さんと息子さんが親子で買いものに来てくださる。息子とお母さんがお揃いのブランドを着ることって、なかなかありえない。息子さんは自分のショールを買って、お母さんは服を選ばれたりして。家族でそれぞれの買いものをしてくださる方が多くなりました。そういう意味では、思い描いていた老若男女の日常着を、というイメージが実現できているようで、すごくうれしい。
取材・文/村田恵里佳 写真/桑島薫