tronco(トロンコ)第2回「引き算」の型に〝らしさ〟を添えて

さまざまなジャンルで活躍するクリエイターにフォーカスを当て、お話をうかがう「ピックアップクリエイター」。「tronco(トロンコ)」の立花怜己さんの第2回は、彼女のものづくりについてより深く掘り下げていきます。ごくごくシンプルなデザインの中には、一体どんなこだわりが潜んでいるのでしょうか。
- SOUQ
- 前回、「お道具入れ」も、立花さんの〝欲しい〟が発想の原点になっているとお聞きしました。他のアイテムもそうですか?
- 立花
- はい、基本的には自分が欲しいものか、友人知人の要望で作ったものがベースになっていることが多いですね。革靴も、自分の欲しいものを作ったのがはじまりです。

- SOUQ
- ユニセックスで履けるデザインで、かわいらしいですね!形はクラシックですが、色はファッションのアクセントになりそうなものもあって、魅力的です。
- 立花
- ありがとうございます!もともとは、私がメンズの革靴に欲しいなぁ、と思うものが多かったんですね。24.5センチとかなら、男性用の小さいサイズはあるのかもしれませんが、私は22センチなので小さすぎて履けるものがなくて。それで、自分の履けるもので性別にとらわれないデザインの靴を作ろうと思ったんです。
シンプルな型に、色で遊びをプラスする
- SOUQ
- troncoさんの革靴は、チャップリンが映画の中で履いていそうな感じがしますね。

- 立花
- まさに、この靴は「chap shoes(チャップシューズ)」という名前が付いているんです。この靴に名前が付いていない頃、お客さまにそう言っていただいて。
- SOUQ
- つま先あたりのシルエットが印象的でした。ほんの少しキュッと上がっている感じがチャーミングですね。
- 立花
- 私はかかとが小さいので、既製品の靴だとかかとがすぐに脱げてしまうことが多いんです。だから、この靴は、かかととサイドでしっかり固定できて、足の先の方は自由になるような型にしています。なので、もしかすると履く人を選んでしまう靴なのかもしれません。
- SOUQ
- なるほど。靴もルームシューズもそうなのですが、革の色が絶妙ですよね。
- 立花
- 靴やルームシューズは、形はなるべくシンプルにして、色で遊びを加えるようにしています。

- SOUQ
- 革の色も立花さんがご自分で?
- 立花
- はい、これは形にする前と形にしてから、それぞれ刷毛で塗って染めを施しています。革の染めって不思議なもので、何度か染めを重ねても、最初の刷毛のタッチが後から出てきたりもするんです。だから、最初の塗りは大切なんです。

- SOUQ
- 刷毛で塗っているとは思いませんでした!
- 立花
- 緑なんかはそのままだと鮮やかになりすぎてしまうので、一度、刷毛で染めた後に、茶色の靴墨を上から塗ってふき取ったりしながら色を調整しています。
- SOUQ
- それで、こんな絶妙なニュアンスカラーに仕上がっているんですね。
- 立花
- 実は、この靴紐もコーヒーで染めているんです。

- SOUQ
- コーヒーで!?ですか!!
- 立花
- 紅茶も試したんですけど、あまり色が残らなくて。コーヒーはいい感じに染まりました。
こっそり忍ばせる、さりげない小さな主張
- SOUQ
- そういう小さなこだわりが、troncoさんらしさなのでしょうね。
- 立花
- 「自分だけが知ってるこだわり」みたいなものをこっそり入れるの、好きなんですよ(笑)量産ではできない手の加え方というか。
- SOUQ
- どのアイテムも、デザインがごくごくシンプルなだけに、その細部のこだわりが生きていますよね。
- 立花
- 確かに、デザインは意識的にシンプルにしようと思っています。私は、心配性なところがあるからか、無駄にたくさん折り込みたくなってしまったり、縫う場所を増やしたくなってしまったりする傾向があるんです。


- SOUQ
- 意外ですね!
- 立花
- 自分のブランドを立ち上げる前は、メンズ用の革製品を作る工房で修行をしていたのですが、troncoの試作品をその信頼できる当時の同僚に見せたときに、「やりすぎ!」と指摘されたんです。そこには、デザインのこともそうですが、工数も考えなくては採算が取れないということも含まれていて、本当にありがたかったですね。
- SOUQ
- それで、とてもシンプルな今の形に?

- 立花
- はい、そうですね。自分がついついやり過ぎてしまうタイプだということを自覚しているからこそ、「引き算」ということは、いつも意識的に大切にしています。
取材・文/内海織加 写真/東泰秀
「引き算」で生まれたデザインと細部のさりげない手の掛け方、そのバランスの巧妙さがtroncoさんの味なのでしょう。次回は、立花さんが革を使ったものづくりをはじめたきっかけについてお話をうかがいます。
Creator/Brand

革作家
tronco(トロンコ)
ニュートラルなデザインと生活に寄り添う革製品のブランドです。
革やキャンバス生地を使用した、靴や財布などの革小物、お道具入れや収納バッグ、ルームシューズなどの生活雑貨を制作しています。