tronco(トロンコ)第3回 「靴」への好奇心に導かれて

ものづくりの世界で活躍するクリエイターにお話をうかがう「ピックアップクリエイター」。「tronco(トロンコ)」立花怜己さんの第3回は、立花さんが革でものづくりをはじめたきっかけについて。意外にも、「革自体が好きだったわけではない」!? となると、何が彼女をものづくりへ導いたのでしょう?
- SOUQ
- 「お道具入れ」はキャンバス生地を使っているアイテムですが、そういうものにもさりげなくレザーの部分があって、デザインのポイントになっていますよね。
- 立花
- はい、どこかには必ず革を入れたいと思っているんです。

- SOUQ
- なるほど!「お道具入れ」のパイピングもそうですが、ちょっとレザーの部分があると、カジュアルさの中に程よい上質感みたいなものが出ますね。ところで、もともと革がお好きだったんですか?
- 立花
- いえ、実は、革のものづくりに出会うまでは、革製品は持ったこともなかったくらい無縁だったんです。
- SOUQ
- なんと!そうなんですね(驚)。それが、どうして革の世界に?
- 立花
- 私が革と出会ったのは、大学2年生の頃。革と出会ったというより、靴作りと出会ったという感じで。靴を作るための素材として、革を知ることにもなったんです。
知ろうとする「行動」が人生を動かした
- SOUQ
- 大学では別のことを学んでいらっしゃったんですね。
- 立花
- はい、建築を専攻していました。お芝居など舞台が好きだったので、ステージの空間デザインに携われたら、という気持ちもあって。

- SOUQ
- その空間への興味が、衣装や小物に移った瞬間が?
- 立花
- 大学では建築以外にも興味のある授業は受けていたのですが、とある授業で銅板を叩いて靴を作るという課題があったんです。
- SOUQ
- 靴のオブジェを作る、みたいな?

- 立花
- そうですね。その課題に取り組む期間は、自分の履いていたスニーカーをとにかくじっと観察する日々で。靴がものすごく好き、みたいな感じではなかったので、この機会ではじめて靴というのものを見て、次第に、「靴ってどうやってできているんだろう」って、その造りが気になりはじめちゃったんです。
- SOUQ
- 何か好奇心掻き立てられるものがあったんですね。
- 立花
- そうですね。それで、靴教室を自分で調べて通いだしたんです。
- SOUQ
- すぐに行動に移すって、素敵です!
- 立花
- 運良く少人数で自由さもある教室だったので、雑誌を参考にしながら、半年かけて最初の一足を作ったんです。
- SOUQ
- その時はまだ、将来は建築や空間デザインを志していたんですか?
- 立花
- はい、大学には通っていたんですけど、正直、将来はどちらに進もうか迷っていましたね。靴教室も週に3回くらいは通うようになっていましたし。私、建築模型を作るのは好きだったんです。だから、学校には趣味の模型づくりをしに行っている、みたいな感じで(笑)

- SOUQ
- きっと、手を動かすことはお好きだったんですね!
- 立花
- 確かに、そうかもしれませんね。最終的には、靴作りの方に進んだんですけど、今になって思うのは、現在やっているようなものづくりと大学で建築で学んでいたことは、決して無関係ではなかったんだなぁ、と。
- SOUQ
- 建築で学んだことが、今のものづくりに生きているとか?
- 立花
- はい、建築を学んでいる時は、立体を平面に落とす、みたいなことはたくさんやっていたので、立体を平面にするとか、平面から立体を作るっていう力は、学生時代に身につけることができていたんです。だから、一枚の革という平面素材から立体物を作るということも、比較的イメージしやすかったんだと思います。


- SOUQ
- なるほど!確かに、troncoさんのプロダクトを見ていると、大きさや用途は違えど空間を作っている、という感じはしますね。
- 立花
- 建築出身の靴職人の方って、実はけっこういらっしゃるんです。何か、通じるものがあるんでしょうね。
ミシンが私を成長させてくれた
- 立花
- 革を縫うミシンってちょっと特殊なので、機械や素材に慣れるために靴の教室では最初にブックカバーを作るんです。作り方はとてもシンプルなはずなんですけど、私とても下手で、できあがったものに本が入らなかったんですよ。それで、初っ端から機械に対するトラウマが……(笑)
- SOUQ
- でも、今こうしてものづくりを続けていらっしゃるということは、どこかのタイミングで克服されたんですかね……?

- 立花
- 大学を卒業してから、靴の専門学校に入学して本格的に勉強しはじめたんですけど、そこで縫う練習を繰り返していたら、急にミシンが大好きになったんです。「あ、使える!」って。苦手なことって克服できるし、変われるんだなぁって思いましたね。
- SOUQ
- 今、使っているのは、この2台ですか?随分と年季が入っていそうな感じがしますね。
- 立花
- はい、相当古いと思います。あの子はブランドを作ったときから一緒で、かなり安定しているんですけど、最近やってきたこの子はちょっと気まぐれな気質があって……走り出しは、いつもちょっとだけ緊張します(笑)

- SOUQ
- 人みたいですね(笑)
- 立花
- まさにそうなんですよ。癖がある子もいますしね。
- SOUQ
- まさに〝相棒〟っていう感じがありますね!
- 立花
- そうですね!呼吸を合わせながら縫ってます!
取材・文/内海織加 写真/東泰秀
「靴」との出会いから、導かれるようにものづくりをスタートさせた立花さん。彼女が作っているのは、「プロダクト」というより「小さな空間」なのかもしれない、とさえ思ってしまいます。最終回は、気持ちよくものづくりをし続けるために心がけていることについて、お話をうかがいます。
Creator/Brand

革作家
tronco(トロンコ)
ニュートラルなデザインと生活に寄り添う革製品のブランドです。
革やキャンバス生地を使用した、靴や財布などの革小物、お道具入れや収納バッグ、ルームシューズなどの生活雑貨を制作しています。