『ツボクラユミ』後編 自然体だけど、おしゃれでありたい

引き算することで、着る人の魅力を足し算する。

デザイナーの坪倉さん。デザインやレイアウトの面で、気をつけていることはあるのでしょうか。 「いかに引き算をするかを意識しています。シルクスクリーンって、布の全面にプリントをしがちになるものですが、私は“余白”を大切にしたいと思っています。だから、あえて服の隅のほうにだけプリントをしたり、パンツの右身頃にはプリントするけど、左身頃にはプリントしなかったり。盛りだくさんなデザインにしないことで、エッジを効かせたいんです」

そのために、プリントの仕方も工夫されているそう。 「実は、袖や衿、身頃など、パーツごとに裁断して縫製する前の状態の布にプリントしています。そうすることで、服を着たときに、体のどこにプリントがくるかを細かくレイアウトすることができるんです。それに例えば、ポケットの裏側にまでプリントしたり、縫い目のギリギリのところまでプリントしたりもできるんですよ」
このプリント手法で、レイアウトやデザインの幅が大きく広がったといいます。 「私も最初から全てができていた訳ではなくて、経験を積むうちに徐々にプリントで自由に遊ぶことができるようになりました。Tシャツも以前は、前身頃にだけプリントしていたのですが、今では後身頃にもプリントするようにしていて、それがツボクラユミのTシャツアイテムのひとつの特徴にもなっています」 お客さまからも、「こんなところにもプリントがあって面白い!」と喜んでいただけているようです。

「もうひとつ心がけているのが、ツボクラユミのアイテムを着て外を歩いたときに、向こうからプリントが歩いてくるぞっていう印象にならないようにすること。プリントはあくまで着る人の個性を引き立てるものだと思っています。だから、インクの色数も多くは使いません。これは決して手を抜いている訳ではなくて、色数が増えるとその分、プリントの存在感が変に目立ってしまうんです。私が作りたいのは、服とプリントだけで完結するものではなくて、お客さまがその服を着てはじめて完成するものなんです」
こだわりだらけの制作を支える、頼もしいパートナー。

ブランドを立ち上げた当初から、おひとりで制作を続けてきた彼女。けれど、そこには心強い制作パートナーの存在がありました。 「それは、長年付き合いのある縫製士さんです。私の注文は本当に細かいので、その方しか仕事を受けていただけないと思います(笑)だって、布のパーツごとにどれがどの部分なのかがわかるよう、すべてマスキングテープに書いてもらっているんです。さらには、一枚一枚の布の表裏までわかるようにしていただいていて。それだけで手間も時間もかかっていると思うのですが、とても助けていただいています」

その縫製士さんにお願いをして、服のデザインもオリジナルで作っているそうです。 「いつも縫製士さんと、こんなシルエットにしたい、こんなアレンジをしたいと相談しながら、デザインを決めていきます。Tシャツは既製品を使っているのですが、そのままだと丈が長過ぎるので、少し短くしてもらっています。もちろんその分コストもかかりますが、どれだけイラストやプリントを頑張ったとしても、服全体のシルエットが不格好では、私がめざすおしゃれさは実現しません。私のワガママに文句も言わずに付き合ってくださる縫製士さんがいるからこそ、制作が続けられていると思います。本当に感謝しなきゃ。自分の健康よりも、その方の健康をいつも願っています(笑)」 こだわりのアイテムが生まれる背景には、制作パートナーの手厚いサポートがいつもあったんですね。
めざすはイタリアンレストランに行ける普段着。

さまざまな作品を制作している坪倉さんですが、実は一貫したテーマを持たれています。 「道で友達とばったり出くわしたときに、イタリアンレストランでのランチに誘われても、そのままの格好で出かけられるものをめざしています。普段着っぽくカジュアルに着られるのに心が浮き立つ、自然さとおしゃれさを兼ね備えたものを作れたら」
特にターゲット層も決めていないのだそう。 「実際にお客さまの層は幅広いです。素朴な雰囲気の方から、ブランド服で上から下までバッチリコーディネートしている方まで、年齢もさまざまです。いろんな方がそれぞれの楽しみ方で、ツボクラユミのアイテムを身につけてご自身の個性を輝かせている、それが何よりだと思います」

これから先、ツボクラユミのブランドはどうなっていくのでしょうか。 「いろんなイラストに挑戦してみたいと思いますし、プリントするアイテムも増やしていきたいと思っていますが、特に何かを変えようとは思っていません。ただ何年先の話になるかはわからないのですが、実はマスコットを作ってみたいと思っているんです。ふてくされたような表情の子に、ツボクラユミのミニチュア衣装を着せたい(笑)それを店舗やイベント会場にちょこんと置いておくのが夢ですね」と、ひそかな野望を教えてくれました。
「SNSで情報も発信していますが、なかなか更新ができていません。それに本音をいうと、販売や宣伝よりもアトリエにこもって制作に集中したいんです。でもやっぱり売り場で、お客さまと直接話す時間はかけがえのないもの。体力の続く限りは、販売の現場になるべく立てるようこれからも体調に気をつけながら頑張っていきたいです」
理想は持ちつつ、作る作品にも制作のスタンスにも、無理な力みを感じさせないからこそ、長い間、多くの人に愛される作品を生み出し続けることができているのかもしれません。これから一体どんなイラストやアイテムが生まれるのか。今後もツボクラユミに目が離せません。
取材・文/福田あい 写真/桑島薫
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